3 否現実の人 1

バイト先ではみのりは小さな話題を生んでいた。
ビルの一角にある小さなゲームセンターに出入りするのは男だけだ。以前までは店員も全員男だった。それは扱っているゲームが男性向けのものばかりなのが理由だ。
そこにみのりが店員として働き始めたのだ。
最初は驚いていた客も、今ではゲームセンターに別の意味の楽しみを見出していた。端末の側で器具を取り付けるみのりの小さな柔らかい手が男性客の身体に触れる。
女性に面識の無い客はそれが女性との繋がりだった。
器具の取り付けが終わると端末の電源が入り、意識は別空間へと飛ぶ。そしてゲームが終われば薄暗いゲームセンターへと意識が戻る。
現実に引き戻されたとき、ふと店員であるみのりを見つめる客。
(現実なんてもっと辛くて、呆気ない、冷めたモノのはずなのに)
みのりが居れば、ゲームの意味すら無くなってしまう。何のためにゲームを楽しみに着てるのだろうか?何でこんな所に自分はいるんだろうか?そう客は考える。疑問を持ったままゲームセンターを立ち去る。
接客を終えたみのりがカウンターへと戻と、男性店員がカウンターの奥から出てきた。みのりにとっては馴染みの深い顔、守山。
守山とみのりが会話を交わすことは殆ど無かった。ゲームセンターの客と同じで女性への免疫が無かったからだ。何度かみのりが話し掛けることはあったが守山はシドロモドロになるだけで会話にならなかった。それは女になってから何度もみのりが経験していることだ。
引き篭もりだったみのりも男だった時は自分と似たタイプの男性とは話していた。女に変わってからも以前と同じように話し掛けるが相手にはされない。
(まぁいいか、別に…)
そう、思うようになってから、カウンターでの少ない会話は無くなった。