2 普通の人へ 3

小山市の中心街に小さなゲームセンターがある。
みのりはそこにいた。
男だったときは客として出入りしていた場所。深夜から朝にかけて、街に人通りが少なくなる時間に出入りする。ゲームにハマって有り金を全部注ぎ込んだこともある。
今では店員の1人として働いていた。
男だった頃のみのりは人前に出れない風貌だった。それは自分自身が一番良く知っていた。人前に出れないから家に引き篭もり、発散しきれていないストレスが「大食」という形で、身体を醜態へ変える。「醜態」故に外に出ない。まさに悪循環だった。
変えようと思えばすべてが変わったのかも知れない。
ふと考えた。
(変わったらどうなる?今までと同じかも知れない)
(一生懸命努力しても、今までと同じなら…)
だが変わってしまった。
何の前触れも無く、「みのり」という一人の女性としての新しい人生をスタートしなければならなかった。
(今度こそ、本当に変えてみせる)
あの薄暗い暗闇。パソコンのディスプレイから漏れる僅かな光。昼も夜も開くことの無いカーテン。かび臭い部屋。
「あそこ」には戻りたくない。
それは自由に生きようとしていたみのりを閉じ込めていた牢獄だった。
「いらっしゃいませ!」
元気良く挨拶をするみのり。
小太りの男は無言で恥ずかしそうにチケットをみのりに差し出す。
「1名様ですね」
端末へと案内するみのり。
みのりの中ですべてが変わりつつあった。