1 脱皮 4

ベッドの上には血や肉片がベットリと付いていた。激痛は肉を剥がし、血を吹き出させているように思えた。そんな状況を見せつけられたら原因が何であれ、誰でも死を覚悟するだろう。
(このまま死んでしまいたい…こんなに苦しいなら)
朦朧とする意識の中で彼は死を覚悟しようとしていた。だがその度に魔法少女ミミの等身大ポスター(天井に貼られている奴)が彼に微笑みかける。
(死んだら…ミミに会えなくなる)
秀人は意識が途切れる一歩手前で心の葛藤をしていた。叫び声もあげることも出来ず、ただ苦痛に涙を流していた。
(ミミ…)
苦痛を紛らわすように魔法少女ミミの等身大ポスターをじっと見つめる。
秀人がミミを愛する理由…それは普通のアニメオタクにある恋愛対象という感覚もあるが、それだけではない。彼の中では他にも理由があった。
秀人が街へ出れば注目された。嫌な意味で。
彼の醜態は街の人の視野に入るだけで嫌悪感を生むモノだった。彼の高校時代には「ブタ」とあだ名を付けられた。ブタはいつも苛められていた。彼を助けるものはいなかった。
そんな時、彼はミミに出会った。
現実には居ないであろう最高のルックスの女の子。ミミは秀人にはないすべてを持っていた。すべてが完璧な身体、可愛らしい声、誰からも愛される顔、悪人を倒す強力な魔法、そして揺るがない正義の心。
街の人や、学校の生徒が嫌うように、彼もまた彼自身を嫌っていた。魔法少女ミミのビデオを見た後に鏡を見れば、彼は現実に引き戻される。進む事も戻ることも出来ない現実。
液晶画面の中でミミが悪漢相手に戦っていても、テレビの前でポテトチップスをボリボリ貪る自分がいる。
いつしか彼は魔法少女ミミのようになりたい…そう思うようになった。
(ミミになれたら、街を歩いても誰もジロジロ見ない…)
(ミミになれたら、イジメられてもやり返せる)
(誰も僕を守ってくれなかった)
(だけと僕がミミになったら…)
(悪い奴等を倒して、僕みたいにイジメられてる人を助けられる)
秀人は血塗れの中でミミの等身大ポスターに手を伸ばしていた。死が近づいているのを察知していた。苦しみから解き放たれつつあったからだ。人が死ぬとき、苦しみから解き放たれる。誰かがそう言ったのかも知れない。
(死ぬのかな…僕)
「ミミ…」
苦しさが消えてきたからか、彼は声を発することが出来ていた。
涙でポスターがくもっていたが、死ぬ前にミミの姿を目に焼き付けようと、じっと見つめる。
(神様…もしいたら、お願いします)
(僕が死んだら、ミミとして産まれて生きていきたい)