17 コンセッション・ハンター 6

東屋を前にして事務所の扉のそばにあるチャイムを押す。返答がない。次に扉をノックする。返答なし。再びノックするとようやく扉が開いた。
その瞬間、扉の間からタバコの煙と香りが咽るように噴出されてくる。思わず小山内は咳き込んだ。
「どちらさまですかぁ?」
ドスの効いた声で身長が180はある男が少し身体を屈ませてドアから姿を表す。東屋と比べれば小人と巨人というほどの差だ。
だがそれにまったく動じない東屋。まるでコンビニの店員でも見るように。
「警察だが、ちょっと話を伺いたい」
少し男の顔色が変わる。だがまるでその一瞬が「対警察のマニュアル」を電脳に展開したかのような切り替わりで、
「捜査令状とかはお持ちですか?」
「ちょっと話を伺うだけだよ」
「あー。申し訳ないけど帰ってもらえませんかね?」
と、全然申し訳なさそうに言う男。
「おたくんところがEAI社相手に起こしている訴訟で、関係者が次から次へと死んでることについて、何か思い当たる節はないかのぅ?」
そばで聞いていた小山内はあまりにストレートに一番聞きたい事を東屋が言ったので、驚いた表情で彼の顔を見た。だが東屋はまるでその言葉によって相手がどんな変化をするのかを楽しんでいるように、ニコニコとしているだけだった。
そして、その質問は最初の「警察である事」を相手に伝えた時に比べても、大きな変化が相手の表情にはあった。機嫌を悪くする方向での。
「おたくら警察がなんもせんからこんな事になっとんだろうが!」
声を荒らげる男。背後で小山内が身体をビクつかせる。だが東屋は慣れているようでまったく動じない。
「事故死の扱いではなかったかの?」
「なんで次から次へとうちの連中でEAI社を相手に裁判起こした奴らばっかりが死ぬんだよ。おかしいだろうが!」
「世間ではEAI社が殺し屋送り込んどると言わとるよな」
「違う。EAIじゃない」
「というと?」
EAIのユーザだ!ネットゲームをやってる連中の事だ。もうそれは警察には言ったが、証拠もないし調べようにもウン百万いるユーザを調べるのは難しいというんで突き返された!」
「なんの根拠があってそう思うんじゃ?」
「根拠…?今はないけどな、LOSのゲーマーどもが立ち上げてたサイトでうちの団体の事を潰そうとしてる輩が居たんだよ」
東屋が振り返って小山内を見る。
今の話を知っているか、という表情で。察した小山内は首を横に振る。
「今日はすまんかったの。そっちの事件のほうも調べることになりそうじゃ」
「ああ、頼むよ。ったく」