16 恋人 - Lover 4

「何をするの?」
突然の相沢の行動に驚く竹下。
相沢はバッグから工具を取り出して広げた。それは彼が仕事でドロイドの部品作成に扱うもの。つまり電子部品に関する工具と機器だった。それらを使ってエレベーターの操作パネルの蓋を開いた。
「待ってるだけが選択肢じゃないよ。まだ諦めない」
携帯型のPADを開いてエレベーターのAIと接続する。
「こういう事やるのは違法だけど」
システムへのログオン画面でハッキングツールを立ち上げてAIのセキュリティーゲートを突破しようと試みる。失敗しては接続を繰り返す。それが1万回を超えた時、ゲート突破のメッセージが表示された。
「地下か…どおりで電波が届かないわけだ」
相沢は言った。それは今が何階にいるのかという情報をエレベーターのAIから取得できた事を意味していた。エレベータ内のモニタには3Fの表示がしてあるにも関わらず、システム上では地下にいる事になっている。ただ、電波が届かない状況からシステムのほうが正確であるようだ。
動き出すエレベーター。すぐに扉が開いた。つい3時間ほど前にみたマンション1階エントランスの光景。違うのは真夜中である事だけ。
「あり、がとう…」
震える足で立ち上がって竹下は深くお辞儀をした。そして外へと出て行く。
相沢は工具をしまってエレベータを出た。それから非常階段のほうへと歩いていった。
(そうだ、俺と彼女の出会いはそれだった)
ヤンは部屋の中を見渡した。何か装置があるのかどうか。一番最悪なケースは解除する装置が外にあること、そして何者かがヤンとジャスミンをそこへ閉じ込めた事だ。
「何をしてるの?」
ジャスミンがヤンに問う。
「何か仕掛けはないか探してるんだよ」
「…そんなのあるわけないじゃない…」
ため息混じりにそう言った。
(中からロックを解除する仕掛けなんてあるわけない…か。誰だってそう思うだろう。俺だってそう思った。でも、それと諦める事は話は別なんだ)
「…待ってるだけが選択肢じゃない…。まだ諦めない」
その言葉を聴いた瞬間、ジャスミンは心の中にあった線と点が繋がっていくのが判った。
(なんだろう…。この人、知ってる)