175 ビジネスの話をしましょう 1

中国でも南側はわりとマスコミが自由に動けるようで中国や台湾、日本、そしてアメリカ、ロシアやフィリピン、インドネシアにマレーシアと、アジア各国のマスコミが勢揃いしていた。
日本もお馴染みの左翼系マスコミが中心となって中国様のケツの穴でも今から舐めに向かいますと言わんばかりで勢揃いだ。チャンネル椿だけ、右翼系マスコミで唯一参加している。ただ、俺の知った顔はない。
通りはマスコミが大騒ぎしているものの、中国人は3ヶ国会談なんてあるのか知らなかった風な顔で見ていた。正確に言うと、何が起きてるのかよくわからずただカメラやシャッターが鳴り響く現場を見ていた。
…しかしそれにしても、もしここにスティーブが居なくて死体が見つかってたと思うとゾッとする。きっと大騒ぎになっててコーネリアは魔女裁判に掛けられて取り敢えず真っ先に死刑だろうな。
そんな中にかしこまったスーツ姿で現れた俺とコーネリア。2名が先頭で車に乗り込み、後をスカーレットとスティーブが乗る。
これから会場へと向かうのだ。
「会場についたらキミカもコーネリアも変身しときなさいよ」
「了解」
「Absolutely」
ついでに俺はツッコむ。
「どうせなら蓮宝議員もスカーレットに変身しとけばいいじゃん」
スカーレットは指をパチンと鳴らした。おそらくこの瞬間にドロイドバスターのインフォメーション・コントロールを作動させたのだろう。そして俺の座る席を背後からガタガタ揺らしながら、
「必要ならそうするわ、でも一応、護衛はアンタでしょ?」
と言う。
程なくして到着した。
会場まで3ブロック程度だ。都会人なら歩いて移動しそうな距離だけれど、狙撃の危険などがあるから防弾ガラス付きリムジンで移動したわけか。厳重な警備のもとでマスコミに囲まれながらの下車。
さっそく日本の左翼系マスコミ、毎曰新聞がマイクを向ける。
「今回の3ヶ国会談のメインは何でしょうか?」
「もちろん、中国の安定化です。それがいずれアジア各国との関係強化に繋がります、今はまだ礎を造っているところです」
「中国と日本の関係強化はありますか?」
「それを決めるのはこの会議です」
他の左翼系新聞も質問をしたがっていたが、割り込んでチャンネル椿がマイクを向ける。
「前回の会談では総理が参加されましたが、今回はあなたがその役に就かれた、その意味はどうお考えでしょうか?」
「私が中国ともっとも繋がりのある議員だからでしょうか」
「『繋がり』というのは日本の兵器を中国へ輸出していた件でしょうか?総理も安倍議員も国民もあなたを信用していると思いますか?」
さすがに右翼系新聞、質問ではなく攻撃だった。
しかしスカーレットはさっき俺達にそうやったように、パチンと指を鳴らしてからその指をチャンネル椿の記者に向け、
「私は私ができることをするだけです。それが総理や安倍議員や国民が意図している事とは違っていたとしても。それがつまり『私が信用されている』ということなんです」
続いて攻撃的な問いはなかった。
というより、パチンと指を鳴らされた後には何も質問はしなかった。左翼系も右翼系も、ただ呆然とそこに立ち尽くすだけだった。
アメリカ側も適当に記者をあしらって、最後はあのスティーブの満面の笑顔で手を振って英語で「頑張ってくるよー」的なニュアンスで言葉を放って、ホテルのロビーへと消えていく。
俺とコーネリアはロビーへと入る回転扉をくぐるタイミングで、まるでスーパーマンが変身するかの如くドロイドバスターに変身した。コーネリアは普段そうするように胸にあるロザリオのペンダントにキスをして変身、俺に至っては他のコンセプトモデルのように変身時のお約束的なアクションはなく、周囲に漆黒の煙が吹き出て、その中から変身後の俺が現れる。言い換えるのなら回転扉の中から死神が現れたかのようだ。
その様を見る中国側の護衛達は、まるで襲撃にでも会うのを予見したかのように凍りついた。メンツとして予定されてたのは日本とアメリカの代表、それからその護衛だと伝えられていたからだろう。まさかドロイドバスターがその護衛についているとは思っていなかったようだ。
一斉にハンドガンを懐から取り出して俺達に向ける護衛達だが、それを大きく手を叩く音が制止させた。
白髪を頭の上で丸く結んで、長い髭を胸のあたりまで垂らしている、まるで中国の古典に登場する仙人のような男が中国語で何かを言いながら、手を叩いて制止させ、スカーレットへと歩み寄った。
雰囲気だけでこの男が中国側の代表であることがわかる。
スカーレットは中国語で何か言いながら男に歩み寄った。
そして笑顔で握手。
ティーブも笑顔で歩み寄って英語で何やら言ってから握手した。
「彼が中国の代表である劉老子。劉総督よ」
老子は確か偉い人につける敬称みたいなものだっけ…総督ってのは…あまりいいイメージはしないけれども、軍隊で言うところのかなりの上の役につける敬称か。っていうと政府と軍が同じになってるのかな?
…。
ん?
日本、アメリカにそれぞれドロイドバスターの護衛がついている、という展開で俺は中国側にもドロイドバスターがついているのだろうと予測を立てた。それっぽいのが側にいるからだ。
背丈は俺と同じぐらい、黒っぽい戦闘着というか忍者のような姿というか、首からは黒のマフラー、漆黒の髪、真っ赤な目、太ももにはガーターベルトのようなものが片方だけつけられて、ナイフのようなものが並んでいる。そして脛まである黒いブーツ…。
…これは、やばい。
ヤバイぞ。
何がヤバイって?
怒らせたら怖そうとかそういう部類のヤバさじゃない。目の色からするとメイリンやマコトと同じ系統の能力であるパワーコントロールエントロピーコントロール系だと思われるから、別に怖くはない。そういう意味のヤバさじゃない。
例えばだ…。
例えば、友達の数名が集まって遊ぼうとなったとする。
で、いざ集まってみると自分と全く同じ格好の友達がいる。
たまたま同じセンスだった、しかもユニクロで買ってもらった服。いや、これが親に買ってもらった服ならなおさらだ。
周囲が微妙な空気になる。
誰かが気づいて笑い出す。
ムカつくけど、誰かが煽ったりもするだろう。笑い話になって終わりだ。だが、それは、『友達数名が集まった時の話』だ。
これはそのレベルじゃない、3国家が会談をしようって時に、スーツ以外で護衛のルックスが被っちゃってるのだ。
おいおいおい…。
おいおいおいおい、勘弁してくれよ!!!
これは俺がセレクトしたんじゃない、ケイスケ’s selectionだ。俺のセンスじゃない。向こうは自分で選んだんじゃないのか?俺が日本で活躍してるのをテレビか何かで見て、センスを合わせたんじゃないのか?
なんか朝鮮人のクソキムチ野郎どもが日本を真似て起源を主張してる席に、まったく同じ格好で居る気分だ。
スカーレットはすでに相手側のドロイドバスターについて知っているようだ。だから何ら反応はなかった。劉老子についても同じ。
ティーブについてはそんな事はどうでもいいと言わんばかりに何かの資料を読んでいた。会談用の資料なのか。
っていうか、案の定だが向こうが気づいてる…。
真似た…んじゃないのか!!
向こうのドロイドバスター(女)は俺とまったく同じ格好であることに気づいて顔を真っ赤にしている。しかも表にでないようにと劉老子の後ろに隠れるようにしている、もう護衛でもなんでもない、怖い大人が居たからおじいちゃんの後ろに隠れてる孫状態だ。
い、いや、向こうが恥ずかしがって隠れたのは…そう、俺の背後で俺と向こうのドロイドバスターのルックスが被っている事に気づいて、今にも笑い出しそうになっている糞野郎(コーネリア)が居たからだ。
しかもあろうことか、このバカは礼儀知らずにも程があるように気づいたら途端に口に出しやがった。
「Ahhhh!!!HaHaHaHaHa!!Hey!!アノChinese!!キミカノ真似ヲシテイマース!!!」
おいいいいいいいいいいいい!!!!
誰も言わなかったんだから黙ってろォォォォ!!!
突然大声をあげ笑い出すコーネリアに劉老子もスカーレットも中国語でしていた会話を中断して俺と向こう側のドロイドバスターを比べるように見る。それから劉老子は護衛に向かって、何やら中国語で言った。
この流れからすると「お前、相手と同じ格好してんぞ、ワロタ」とか「え?なに相手と同じ格好してん?」とかだろう。
どんどん相手側のドロイドバスターの顔が真っ赤になる。
「エ、モシカシテ、真似タンジャナクテ、タマタマSenseガ、」
俺の素早い動きはコーネリアの口を捉えて、続けて発言を出さないように両頬を指で摘んだ。「フニュンンニュン」と変な声を出して完全な文章にならないように食い止めた。
が、何を言わんとしていたのかは伝わった。
寒い空気が現場を支配した…。