11 藤崎紀美香は静かに暮らしたい(リメイク) 7

俺がクラス委員長になってから既に1週間が経過していた。
普段と比べると…(と言っても、普段からユウカ、ナノカとしか話さないけれど)俺に対する態度が冷たくなったような気はする。
既に女子はブルマで体育は行ったし、そろそろ俺を委員長の座から引き摺りおろそうと思ってもいいと思うんだけれども…どうもまだ行動に移せないでいるようだなぁ…。
いつものように長い上り坂を登校して、辿り着いた玄関・及び下駄箱付近…何やら人混みが出来ているのだ。しかも悪いことに俺の上履きが置いてある場所の辺りで…。なんだぁ?
「ち、違うよォ!僕じゃないよォ!!」
人混みの中からそんな声が聞こえた。声からすると誰の声かはわからないけれどもキモい男の声であることは確かだ。
「貴様ァ!!これだけ証拠が揃ってるのにやってないとは何事だァ!!」と叫ぶのは俺と同じクラスの男子だ。委員長親衛隊とか命名して俺の仕事を、特に力仕事系を手伝ってくれてる連中なのだ。話し方から察するに、まるで姫に使える従者のようであり、ファンクラブ団員のようでもあり、そして、怒っている。
「いったいどうしたんだよ」
と俺は人混みを分け入って入ると、見るからにキモそうな男が俺の上履きを手に持っている。狼狽えているのだ。
「げ、あたしの上履きが…」
すると、すぐさま親衛隊の男子はそのキモそうな男の手を叩いて、俺の上履きを地面へと落下させて言うのだ。
「さっさとキミカ姫のお上履きから手を離せ!」
そして上履きを手にとって俺の前に差し出す従者。
「ささ、姫ッ!」
「いったい何が起きてるの?」
「こやつめは名前を肝多肝夫(きもた・きもお)と言いまして、こやつめ曰く、今朝方登校したところ自分の下駄箱内に姫の上履きが入っており、それに気づかず履いてしまったという事でした。あまりに小さく可愛らしい上履きであった為に違和感に気づいてすぐに脱いだそうです。しかし、こやつめは姫の上履き欲しさに盗んだに決まっているのです!」
すかさずキモ男…じゃなかった肝夫は言う。
「ちがうよぉぉぉ!!朝きたら僕の下駄箱の中に入ってたんだよゥ!!僕の上履きが無くなってるじゃないかァァァ…」
「うるさい!!貴様、もうこれ以上声を出すな!虫唾が走る!」
それから従者のような男子は俺に言う。
「この愚か者が履いた可能性は捨て切れませんので、わたくしの上履きを履かれますでしょうか?」
「え?」
すぐさま別の従者らしき男が間に割って入る。
「いえいえ!!わたくしの上履きを!!」
「俺の上履きを履いてください!!」
「俺のをお願いします!コイツ等の上履きを履いたら水虫に感染してしまう危険性をはらんでいます!俺の上履きを履いてください!!」
「何を言うんだ貴様ァ!!」
「いつ水虫だっていう事を調べたんだよォォォォラァァァァ!」
…ヌゥゥ…。
「この上履きを履くからいいよ。別にキモ夫君が履いて1日過ごしてたとか靴下を通過するぐらいに強烈な水虫というわけじゃないんだよね?」
そうキモ夫君に聞く俺。
「は、はひ。フヒヒ」
と、その時だった。
キモ夫君の吐く息が俺の顔へ…可愛らしい美少女の顔へ流れ込んだのだ。この玄関で風の流動がそれなりにあり、吐いた息が直接顔に当たるだなんて何かの特殊能力を持った人間でもなければ無理じゃないかと思っていたんだけれども、確実に奴の吐く息が顔面を舐めるように来た。
「ガァッハッ…」
臭い!!
この臭いが何かと例えるのなら下水管の中のヘドロの臭いだ。いや、そこまで言ってしまうとヘドロに失礼だ。下水管のヘドロの臭いを嗅いで、先ほど飲んでいたオッサンがゲロを下水管に吐き散らした挙句に、糞まで垂れ流してそれらがミックスされた臭いだ。
最悪だ…コイツ…『俺を殺しに来てる』
俺は思わずイナバウアーしてしまった。
「ひ、姫ェ!!」「きぃさぁまァァッ!!」「フヒーッ!!」
ゲロ夫…じゃなかった、キモ夫を取り囲んだ親衛隊らしき連中はキモ夫に蹴りを入れまくる。さながらイジメの光景のようだ…が、その立場は一気に逆転する。
「やめろォォォォ!!!」
キモ夫が叫んだ。
と、同時に周囲にヘドロとゲロと下痢の香りが充満し、蹴りを入れていた連中は次から次へと身体を痙攣させながら倒れた。なんという攻撃力だ。ファイナルファンタジーに登場する『臭い息』が特殊攻撃の『モルボル』の称号を与えよう…。
「くんくん」
俺は俺の上履きの香りを嗅いで、問題無い事を確認した上でそれを履いた。そして、倒れて痙攣し白目を剥いてゲロを撒き散らす親衛隊達の『惨事』を横目に見ながら教室へと急いだ。
それから教室に到着した。
だが、普段と違ってざわついている。普段もざわついているけれども雰囲気が違う。何か良くないことが起きた時のざわつきだ。
…。
な、な…。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺はジーパン刑事も真っ青のなんじゃこりゃをご披露してしまった。
それもそのはずだ。白板にはカラフルなペンを使って、
『キミカは病気持ち』『ま○こくっさーwww』『家に帰ってろ!!』『キモすぎワロタwwww』などの俺に対する罵詈雑言や、それ以外にも下品な絵が書かれてあったのだ。
殆どの女子は「やだ、なにこれ」「さいてー」とか言ってるのだが、一部の女子が「クスクス」と笑ってるのが見えた…クソッ!!コイツ等だな!!わかるんだよ、俺が前に居た学校でもこういうイジメを仲間内で冗談半分でやってた奴がいたからな!!!本気じゃなくても『センス』が同じなんだよ、そういうイジメっ子達と!
俺は白板だけが問題なのかと、俺の机を見た。
白板がこれなら、机の上にも何かしらの、
「う、うわーッ!!!」
思わず叫んで倒れて尻もちをついてしまった。
机の上にはネズミの死骸が置いてあったのだ。決して飼い猫が普段よくしてくれるお礼にと捉えた獲物を渡してきたわけじゃない、このクラス内に居るイジメっ子が俺に対してのお礼参りとして送ってきたのだ。しかもご丁寧にネズミの横に葬式で飾るあの白い花が置かれてる。
死んだのか?俺は死んだのか?
それともネズミの葬式でもしたんか?
俺が慌てふためいていると遅れて教室に到着したのはクラスの男子達だ。親衛隊などと名乗っていた気がする。そして、先ほどソイツらは玄関のところでモルボルの攻撃に戦闘不能にされていた気がする。
「「「な、な、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
一斉に親衛隊が叫ぶ。
松田優作も真っ青な立派ななんじゃこりゃだ。
「ひ、姫ェ?!こ、これは…」
「わ、わからない、もう何もかもわからない」
俺はフラフラとしていた。
事実を受け入れるだけの精神的な器が、真っ黒になったソウルジェムでいっぱいになっていた。
「姫…と、とにかく落ち着いてください。さぁ、座って」
そう言って親衛隊の1人が俺の机の上に飾られた葬式用の花からネズミの死骸やらを手でどけて俺を椅子に座らせた。
(ぶすり)
「ギャーッ!!!」
強烈な痛みがお尻に響いたのだ。針でお尻の肛門を中心として半径10センチぐらいで弧を描いてチクチクと刺さったかのような攻撃だ。思わず椅子から1メートルぐらい飛び跳ねてしまった。グラビティコントロールで飛び跳ねてしまった。もう漫画の1シーンだ。
「おしりが痛いよォ!!」
「姫ッ!!…う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!い、椅子に画鋲が!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
椅子に…。
椅子に…画鋲…だとォォォォぅぅううぅぅ!?
「姫ッ!!怪我はありませんか?!」
「ありありだよゥ!!肛門から半径10センチぐらいが血まみれだよゥ!!画鋲の錆びがお尻の中に侵食中だよゥゥゥ!!!」
「しょ、処女膜は大丈夫ですか?」
「それは大丈夫だった」
そんなやり取りが終わって、俺や親衛隊は森の中から村に出てきた凶悪な狼が村人達を睨みつける時の気迫で、周囲の女子達を睨んでいた。というより、吠えていた…。
「「「がるるるるる…」」」