11 藤崎紀美香は静かに暮らしたい(リメイク) 6

その日の終わりの会。
そこでもクラス委員長である俺と相方の男子が壇上にいた。
よくよく考えると本当に面倒くさいなぁ…朝のホームルーム、終わりのホームルーム、臨時のホームルームと全部出てから色々やらなきゃいけないんだよ。前の学校ではキリッつ、きょうつけッ、礼ッ!だけやってればあとは先生が色々やってくれたのに、さすがお嬢様学校だ。
しかし、さすがお嬢様学校だと言ってるだけではいられない。至る所で俺が仕込みを入れなければな…例えばこの終わりの会という普段なら学校外での注意事項などを言う場で、
「先生ッ!提案があります」
と俺が言うわけだ。
「ん?なんですかぉ?」
ケイスケは今にも鼻くそをほじりそうに、いや実際にほじりながら、しかも大きな鼻くそが出たのを確認してから、それを指でピーンッと宙に飛ばしてから、俺に答えた。
ちなみに俺に命中しそうだったので思いっきり避けた。
「とりあえず学校で鼻くそをほじるのをやめてください」
「フヒヒ…女の子に鼻くそをほじられているのをやめろと言われるということは、恥ずかしい事を注意されるということ…つまり、同じ恥ずかしいことである自慰や性行為を指摘されるのに等しい…ティヒヒ…つまり、いまボクチンは卑猥な行為をキミカちゃんに、」
「おーい」
「なんですかぉ?」
「明日の体育なのですけど、女子のハーフパンツを禁止しようと思っています。これはクラス委員としての意見です」
男子はお互いの顔を見合わせている。
相方の男子も「え?何それ?」という表情だ。
「藤崎さん、ハーフパンツを禁止するというのは、長ズボン必須にする、ということでしょうか?」と相方の男子は言う。
「いいえ。ブルマです。ブルマ必須とします」
「ぶっ…ブルマ?!」
男子からは「おおぉぉぉおぉ!」という歓声が、女子からは「エーッ!!」という悲鳴が聞こえる。
引き続いてブーイングの嵐。
「え?ブルマって、バレー部が履いてる奴でしょ?!」「バレー部用じゃないの?」「パンツみたいなやつでしょ?!」「スコートの代わり履いたりもするよ!」「うわッ!あれ、コスプレとかで使われる奴じゃん!」「さいてー!」「おやじ趣味じゃんか!」「恥ずかしい!」
俺は冷静にケイスケ…担任に向かって、
「先生、いつもの奴をお願いします」
「はい」
ケイスケは白板に向かって相撲取りがつっぱりをする時みたいに腰を低くして手のひらを向け、
「だ・ま・ら・っ・しゃ・い!」
とドンコドンコ白板を手のひらで叩きながら言った。
「ちょっと!!なんでブルマ履かなきゃいけないのよ!」
ユウカが俺に物申す。
「バレー部とかがブルマを履いてる理由と同じだよ」
「はぁぁ?!あんた少し考えてからモノを言いなさいよ。ブルマ履いてたら転んだ時に擦って怪我するじゃないのよ?」
「…ドイツでは昔、このような話がありました」
「あ?」
「軍部から、とある航空機会社の人に対して、戦闘機の生還率を上げて欲しいと依頼がありました。その航空機会社の人は帰還した戦闘機の被弾箇所を調べて、最も被弾した箇所を分厚い装甲にすれば生還率が上がるのでは?…と考えました。その案が通りそうになったその時、実戦を掻い潜ってきた兵が言ったのです」
「…」
「『生還した機体の被弾箇所は、弾が当たっても問題のない箇所だ。そもそも当たってはならない箇所に被弾した機体は”生還してない”』」
「だから…?」
「被弾しているからその箇所を分厚くしたらいい、という考えが安易で向こう見ずなバカな考えという事、そして、真実を見極めるには目に見える場所だけ見ていてはダメだという事がこの話の本質です。ブルマを履いたら肌の露出が多くなる…だから怪我をする、という考えは安易です。ブルマを履くことで、身体を動きやすくし、怪我をした時の事ではなく、怪我そのものをしないようにする…これが真の対策です」
あっけにとられる顔のユウカ。
そして、
「「「おぉおぉぉぉぉぉおぉ!!」」」
という男子の歓声。しかも一部の女子は(バレー部だとかが)ウンウンと頷いている。ケイスケなんて涙を流している…これはブルマを履いて欲しいという涙か?
「だっ、だから恥ずかしいっていう問題はどうなったのよ?!」
「恥ずかしいっていうのを問題にすることが恥ずかしい。若い女の子が肌の露出を恥ずかしがって、そういう奴に限って性欲がバリバリ出てくるクッソババアになった頃に無理な露出をするようになるんだよ!!まだ若くて見ても問題ないような肌ツヤの時に露出しておくべきなんだよ!!っていうか、そもそもさっき怪我をしないようにとか言ってたのになんで突然、主となる理由が『恥ずかしい』に変わってるんだよ!そもそも恥ずかしいからハーフパンツを履いていたってことォ?!体育で怪我しないようにする為にアレコレ考えてブルマになった過去があるんだから、それを恥ずかしいからって止める事がおかしいよ!」
「ちょっ、アンタね!この日本でブルマ履かせる学校なんて今はないのよ!東南アジアの学校じゃあるまいし!」
「あたしは必要であるものを必要だと言ったまでです。他の人がどうしようと関係ありません。他の人が死ぬ時はアナタモ死ヌノデスカー?」
「先生ッ!委員長権限を使ってこんな横暴、認められm」
「キミカちゃん!その意見に賛成ですにゃん。明日から女子はブルマ必須。授業は全てブルマで受けてください」
「おい!!」
「はい」
「はい、じゃないが!」
「High」
「…授業をブルマで受けろって、もうそれ運動とか関係ないじゃないのよ!!自分がブルマを観たいからじゃないのよ!!」
「そうですが、何か?」
「おいいいいいいいい!!!」
今にもプロレス技に移行しそうになっているユウカとケイスケの間にズイと入って俺は言う。
「ユウカは何?」
「何って、何よ?!」
「何委員なの?」
「と、図書委員…」
「あたしは?」
「委員長…」
「だぁーーーーんしッ!!」
俺の掛け声と共に男子が一斉に立ち上がって俺の太ももを抱え上げる…まさにそれは体育祭の時の騎馬戦。騎馬である。これらの騎馬は全員が俺の太ももに触れることができるから志願したわけだ。倍率2倍の中を勝ち残って今回の騎馬を担当したらしい。
俺はその騎馬の上から小さき女、ユウカを見下ろして言う。
「このクラスの委員長はあたしです。このクラスがどうあるべきか、それを決めるのも、あたしです!!」
「クラスのみんなの意見はどうするのよ!民意は!!」
「クラスに民意を持ち込んでいたらクラスは終わりです!」
「はぁぁああぁぁいいい?!」
「互いが好き勝手して互いに権利ばかり主張して、本来果たすべき義務を果たそうとしない。それが民意です。そして、その民意を力で抑えこんで平定させる…それがあたしのクラス委員長として『スタイル』なのです。嫌ならもう一度選挙してあたしをクラス委員長の座から引きずり下ろせばいい。それができるならねーッ!!」
ぐぬぬぬ…」
よーっし…いいぞ!!
伏線はいい感じに進んでるぞーッ!