11 藤崎紀美香は静かに暮らしたい(リメイク) 5

「こんなの絶対おかしいよ!!」
俺は再び意義を申し立てた。
なぜなら、俺が何もしなければ、このままクラス委員長に決定されてしまい、クソ面倒くさい業務を行わなければならなくなるからだ。声を上げなければならない時に声を上げないで酷い仕打ちを味わった人々は過去の歴史を見ればそこら中にいる。
「藤崎さん、魔法少女まどかの真似はもういいです」
「みんながやりたくない仕事だから推薦で『コイツにやらせとけwwww』って決めてもいいっていうの?!この学校ではそんな陰湿に委員を決めていってるの?!」
と、俺はとりあえず、以前、男だった時に通っていた高校と比較を行って『お前らおかしいよ』感を出そうとした。前の学校では誰も委員をやりたがらないから最後はじゃんけんで負けた奴がクラス委員をしていたし、全員が何かしらの委員をしなければならない、などという小学校のような事はしていなかった。例えば美化委員だとかトイレ委員だとか整理整頓委員だとかわけのわかんない役職は無かったのだ。
…が、一同はぽかんと口を開けて「わけがわからないよ」とでも言いたそうな顔をしていたのだ。
それからユウカが言う。
「何いってるのよ。『この人がやったらよさそうだ』って人を推薦するから推薦なんじゃないの。結局、誰かがやらなきゃいけないし、基本的にクラス全員が何かしらの委員にならなきゃいけないのよ?その一番面倒くさい委員にアンタが推薦されただけでしょう?それに、面倒くさいから押し付けたんだったらクラス中から指名されてるはずじゃない。アンタを指名したのは男子だけなんだから、イジメじゃないわよ」
「イジメだよぅ!!男子によるイジメだよぅ!」
「グダグダ行ってないで早く他の委員も決めなさいよ、ほら」
犬でも追い払うようにシッシッと俺に手を振るユウカ。
俺はしぶしぶ壇上へと上がる。
クラス中から拍手(主に男子から)が巻き起こる。
もう一人の相方のクラス委員長が言う。
「それでは、これから他の委員を適当に決めようと思います」
おい!!
なんで俺の時だけ推薦で他の委員は適当なんだよ!!
「面倒くさいから他の委員は前の人でいいかな?」
おいいいいいいい!!!
「というのは冗談です…」
俺の殺気に気づいたのだろうか、その男子は気を取り直して他の委員を決め始めるようだ。それから、「藤崎さんは白板に書いていってください」などと行儀よく言う。
白板に記述せぇだァ?
なんで俺がそんな面倒くさい事をしなきゃいけないんだよ。ペンよりも重いものは肩よりも上に持ち上げたくないんだよなー。この肩壊したら選手生命絶たれるし。
うわぁぁぁ〜…手が届かないや。
俺、女の子の身体で身長が140センチぐらいしかないから手が届かないやぁ〜…しょうがないなぁ、誰か他の人、クラス委員長やってくんないかなぁ〜?チラッチラッ
「ふふっ…」
そんな光景をクラス委員長(男子)は温かい眼差しで見ている。小さな女の子が背の届かないところに手を伸ばして何かをするのは、そりゃぁ見ていて微笑ましい光景ではありますけれども、微笑ましく笑われてるほうの俺からするとキレそうになる。
手が届かないのをわかってて俺にやらせたなぁ?
「藤崎さん。手が届かない?僕が名前のところだけ書きましょう。藤崎さんは『正』の字を書いて推薦数をカウントしていけばいいから」
などと言っている。
それははたから見ると背の高い男子(180センチぐらい)が背の低い女子(140センチぐらい)を見下ろしながら、その女子のペンをつまみながら、年下の女の子に説き伏せるように言っている光景だ。
そしてその女の子とは、俺だった。
「いえ…結構です!背は届かなくても書けますから!」
きっぱりと断った。
そして、俺はグラビティ・コントロールを使ってペンに宙を回せて、今しがた推薦が1カウント上がった『吉岡敦子』という名前を書いた。
「すごい!藤崎さん!それは超能力?」「手品?!」「ペンが宙を浮いてる!」「すごいすごい!!」「きゃー!怖い!」
などとざわつく教室。
俺はドヤ顔で、
「手品です」
と言った。
「吉岡さんが3票プラス」
「はい、3票プラス…っと」
「藤崎さん…『精』の字じゃなくて『正』の字だよ」
「あぁ、ごめんごめん〜」
間違えてしまった、テヘペロ
…。
などなどをしている間にもクソみたいな勢いで委員が決定していった。クラス委員長は以前は誰にも決まらなかったからと、責任感が強いユウカがしぶしぶやった、というのは強ち嘘でもないようだ。
本当に他の委員は存在する必要があるのかっていうぐらいに無意味なものが多いんだ。理科委員とか何をするんだ?大体、高校で理科とかはないだろうっていう…。
忘れてたかのように、ユウカが後追いで一言、
「あ、そういえば、決意表明をしなさいよ」
は?
俺は「は?」って声が出そうなぐらいに目を見開いてユウカを見た。
「なんだよ!決意表明って!」
「委員長だけは特別に決意表明しなきゃいけないの」
「嫌々やらされるのに決意とかないよ!」
「嫌々だけれど頑張りますみたいなの言いなさいよ」
もう形式的なものじゃねぇか!
言う意味があるのかよ!!
俺がイライラしていると、クラス委員長(男子)のほうが、既に決意表明をどこからか書いて来たのだろうか、折りたためられた紙を広げてそれを読みだしたのだ…。ちょっと待てよ、なんで既にそれを書いてきてるんだよ。お前、今日、立候補してクラス委員長になったんだろうが…なんで既に書いてきてるんだよ、決意表明を!!
「僕が藤崎さん…いえ、クラス委員長と出会ったのは、この学校に来て1年目を過ぎてからでした」
そこからかよ!!どういう決意の表明なんだよ!!!っていうか事前に書かれた紙に俺の名前がなんで既に書いてあるんだよ!!
「…(長いので中略)…」
とにかく心の遷移だとかそういうのがダラダラと長いのでモノローグに落とす事すら面倒くさい。脳がこの台詞を頭にいれることすら面倒くさがっている。よって略した。
「…そして、彼女と2人でなら、このクラスを支えていけると…そう僕は信じました。だから、嫌だったけれどクラス委員長をやろうと思ったのです!!」と締めくくった。
長い…長いよ!!
クソッ…次は俺かよ!!
適当に頑張りますのでよろしくお願いします、とか言っておくか。
いや、待て。
待て待て。
俺は嫌々やらされて本当に辞めたい気分ではあるのだけれど、嘘をついて「頑張りますのでよろしくお願いします」なんて言ってしまったらそれでこそ負けじゃないか。俺は男子にハメられて、クラス委員をさせられて、それでいいのか?
まるでダッチワイフのようではないか?
ここは1つ、作戦を練ろう…そう、「こんな奴にクラス委員長をさせたら大変な事になる」と思わせるようなそういうアプローチを重ねていけば例えクラス委員長が確定した後であっても、却下される可能性が出てくるのだ。我ながらナイス。
俺はパルパティーン最高議長が非常時大権を手に入れて共和国の軍隊を自由に操る事が可能になった時のような暗黒微笑を漏らしながら言う。
「このクラスの安全と安定を恒久的に維持するために、各委員は分割され、新らしく、再編される!!安心で安全なクラスのために!最高権限を与えられたことに感謝致します!!(暗黒微笑」
「「「おぉおおぉぉぉ!!(歓声と拍手:from 男子)」」」
「ちょっと、何よその暗黒微笑!!」「絶対に何か企んでいるわ!」「嫌な予感しかしない」「ユウカなんとかしなさいよー!」
女子はブーイング。
そして俺は言う。
「フォースとともにあらんことを」