11 藤崎紀美香は静かに暮らしたい(リメイク) 4

3時限目の体育の時間は、今までと同じ様に女子の中でバレーをする俺の姿を、体育を受けている男子達(バスケットをしている)が横目でチラチラと見てくる状態が続いた。
視線には気づいてたけれども、いざ俺が男子達のほうを見ると、これよみがしにバスケットをしている男らしさみたいなのをアピールする為にか動きが機敏になる。まるでセックス中の男が女を見て股間の筋肉を硬質化させるのと同じ…。
それは置いといて。
4時限目はホームルームだった。
あいも変わらず議題は文化祭での出し物についてだった。
俺は堂々巡りの面倒くさい議論は頭に入らず、窓の外の青空を見ながらあぁ〜鳥はいいよな、自由に空が飛べて…などと考えていた。…こう物憂げな表情で外を見ていると窓ガラスに映る美少女の顔、それが俺だった。本当に美少女は何をしても可愛いな。
と、思っていたら案の定、クラスの男子達が俺の方を見ていた。
「男子ッ!!話し合いに参加してください!さっきからずーっとキミカのほうを見てるわよ!!」と怒るユウカ。
女子達の笑い声。
俺は頬杖をついて、再びつまんなさそうに窓の外を見た。
…が、とある男子が突然、手を上げて言うのだ。
「クラス委員長!提案があります!」
その声とともに男子達はパチパチと拍手を始める…なんだァ?
前回までに挙がっていた出し物をホワイトボードに列挙していたユウカは振り向いて、威圧的に言う。
「はぁ?」
そんな気迫に押されながらも男子は続ける。
「転校生である藤崎さんがまだどの委員にもついていません」
「そ、それは…何か適当な空いている委員についてもらえばいいじゃないの?っていうか、今は文化祭の話なんだけど」
えー…超面倒くさいなぁ…。
このクラスじゃ全員が何かの委員にならなきゃいけないのか?
ったく、小学生じゃないんだから。
ユウカは先生、つまりケイスケのほうを見て言う。
「どうします?」
「…」
「先生?」
「グゥー…グゥーッ…」
寝てる…。
ユウカのいつものやつがくるか。
クラス委員長であるユウカはホームルームで時折、ケイスケ…担任の先生の判断を仰ぐ場合があるが、大抵はケイスケが深夜アニメを見ていた過労からか寝ている場合が多い。
こういう時はユウカは『いつものやつ』をやる。
静かにケイスケの背後から近づいたユウカは、ケイスケの首のない喉元に腕を絡ませて、
「先生ィ〜」
もう片方の腕でその腕を挟んで、
「起きて」
自分の方向へと引っ張る!
「ください!」
「ギギギギギギギッ!!」
…そう、プロレス技のチョーク・スリーパー・ホールドである。
これを女子に喰らったら、特にユウカのようなおっぱいの大きな女子に喰らったら男子なら幸せな気分になる。しかし、ユウカのチョーク・スリーパー・ホールドは強烈で下手すると喉笛を潰される可能性があるのだ。幸せな気分どころではない。
辛うじてケイスケは喉の肉がクッションになって助かった。
「おはようございます」
「おはようございます」
「男子からの提案で、藤崎さんがどの委員も担当してないのはどうかって話になってるんですけど。どうします?ペアになってない委員のどれかについて貰います?」
ペア?
なるほど。
委員の数が結構沢山あって(それがちゃんと意味のある委員なのかは別として…)本来ならペアでやるべき委員を一人の人間がやっているわけだな。それはきっとあまり忙しくない委員だ!
俺はそれがいい!
「それで!」
「はい」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい…じゃないですよ!起きててください!」
ケイスケはどーでもいいみたいだな。
しかし、それを聞いた男子は顔を真っ赤にしてから言う。
異議あり!!」
裁判所かよここは…。
「何よ?」
ユウカが言う。
「先生は『どーでもいい』感じで答えていました!委員長!ペアになってない委員に藤崎さんを宛てる、というのはクラス委員長の勝手な判断じゃないでしょうか?」
「はぁ?」
「クラス委員長を含めて、決め直す必要があると思います」
一斉に男子が拍手する…おいおいおい…。
「なんでそんな面倒くさいことすんのよ?」
「公平じゃないからです!」
「仕方ないじゃない、キミカは途中から転校してきたんだから」
「それは途中から転校してきたから、面倒くさいことはしたくない、ということです!!公平性は面倒臭い事に負けていいのですか?…否!…いいわけがありませんッ!委員長は女性だから女性に有利な方向で物事を進めていると思われたくない…と以前はおっしゃっていましたね!!公平性にかけることを認めるのですか?!僕は断固として反対します!」
「はぁ…わかったわよ。私は皆がクラス委員長やりたくないっていうから仕方なくやってあげてたんだから。それを覆すならアンタが仕切りなさいよ!」と言ってユウカはペンを男子に手渡した。
男子は喜び勇んで壇上へと進む。
俺はてっきりユウカが進んでクラス委員長をやっていたのかと思ったら、そうじゃないわけだ。みんながみんな委員なんてやりたくないのか。とくに面倒くさいからなぁ、クラス委員長は。
俺は絶対にクラス委員長にはなりたくない。
壇上の男子は各委員をつらつらとホワイトボードに書き、言う。
「それでは、なりたい委員はありますか?」
一斉に男子が手を挙げる。
…え?
俺を含めて女子全員が男子の動きに驚いている。
「え、ちょっ…なりたい委員があるの?」
ユウカが驚いている。
「では、クラス委員長になりたい人?」
「「「はい!!」」」
手を上げた男子全員がクラス委員長だ。
マジかよ…こいつらマジでマゾか?
「それでは…クラス委員長になりたい人は多いので、公平を期す為にじゃんけんで決めます」
一斉にじゃんけんが始まる。
顔を真っ赤にして本気になっている。
負けて泣いている男子すらいる。
逆に勝っても泣いている男子。
マジ…キチ…。
どうやら仕切っていた男子は負けたようで、涙を流しながらも続ける。
「では、ペアの枠を決めたいと思います…」
すすり泣きながらそう言う。
しかし、一斉に女子がブーブー言い始める。
「ペア?!」「そのなりたい人同士でやればいいじゃん?!」「何考えてんのよ?!」「おかしいじゃないのそれ!」
「静かにしてください!!男子の人数が少ないから、女子同士のペアがあるのは許されていると思いますが、基本的には男女のペアで委員を実行する事になっていたはずです!!いえ…ここは正直に言いましょう…男子は男子同士でペアになるのは嫌です!!」
…。
おいおいおいおい…。
なんかいやーな予感がするぞォ…。
おいいいいい…。
「もう一人のクラス委員長を推薦で決めたいと思います」
一斉に男子が言い始める。
「藤崎さん…かな」「藤崎さんがいいですね」「藤崎さんに1票」「やはりここは藤崎さんがいいと思います!」
おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
「こんなの絶対おかしいよ!!」
俺が叫んだ。
「では、藤崎さん…その…どの委員をしたいのですか?なんでもいいです。僕はそこに立候補します!」
…。
「えっと…何も…やりたくない…かな?(ボソッ)」
「クラス委員長がやりたいらしいです!(大声)」
「「「おおおおおぉぉぉぉおおおぉぉ!!!」」」
おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!