12 優等生の憂鬱(リメイク) 1

「今日は皆さんに…悲しいお知らせがあります」
そう言って俺は教壇の上に立った。
ホームルームの時間だった。
そして用意された机の上に手をついて、肩を落とした。
絶望。
それは深い絶望だった。
俺が(無理やり)クラス委員長をしている(させられている)このクラスで…このお嬢様達が通うアンダルシア学園で、起きてはならない、が、どの学校でも大抵は起きていて半ば諦めかけている、とある『事件』が起きてしまったのだ。
「はぁ…」
俺はため息をついた。
そう…。
起きてはならない事件。
それは『イジメ』だ。
そして俺は言う。
「このクラスでイジメが行われている事が発覚したのです」
教室の隅からクスクスと笑い声が起きる。
それもそのはず、「このクラスでイジメが行われている事が発覚したのです」って言った俺がイジメられてたのが発覚したんだからな、自分で自分がイジメられてますって言ったら世話ないわ。
その小麦粉から作る粒状の粉食、またその食材を利用して作る料理である、発祥地の北アフリカから中東にかけての地域と、それらの地域から伝わったフランス、イタリアなどのヨーロッパ、およびブラジルなど世界の広い地域で食べられている料理のような『クスクス』という笑い声に一番キレたのは、他でもない、担任であるケイスケだった。
「なぁぁぁ…にが、おかしいんですかォォァァアァァッ!!」
(ドゥンッ!)
ケイスケは白板を平手でブッ叩いた上で怒鳴り声を上げた。あまりの衝撃波に白板に書いた水性ペンの字がそのまま剥がれるんじゃないかと思ったぐらいだ。その剣幕に女子一同、そして怒られていない男子ですらも身体をビクつかせる。
「イスに画鋲をテープで貼り付けてその上に座らせるとか、どこのビーバップハイスクールですかォォ!!!それに気付かずに思いっきり座るキミカちゃんもキミカちゃんですが、こんな事、ボクチンのクラスではあってはならない事ですォォォォァァァァァ!!!そのうち授業中に勝手に席の後ろのほうでプロレスごっことかやり始めて、先生が止めに入ったら『別にイジメてるわけじゃないし、遊んでるだけだから』とか言い出すんですぉぉォォァ!!そもそも先生が止めに入るのはイジメ云々の話じゃなくて授業を邪魔すんなヴォケ!って意味なのに、何を私はやってません的な適当言い訳を並べやがるんですかにぃぃ…クソ村岡の野郎、マジで絶対に許さん…ブッ転がす…」
おいおい、誰だよ村岡って。
お前を過去イジメてた奴の名前がポロッと出てんじゃねーか。
そんなクソみたいなイジメの事実をそのまま思い出して垂れ流すのはやめてくれよ、過去の出来事と現在の俺がイジメられてるのがごっちゃになってんじゃんか…。
「つーか、せんせー。ウチラが犯人っていうショーコでもあるんですかァ?。なんかさっきから聞いてたらウチラがやったようなゼンテーで話しちゃってるけどサァ…」
さっきクスクス笑ってた女子グループの1人が言う。
「アンタ等がやったに決まってんじゃんか!!」
俺はキレて怒鳴り散らす。
一緒になって親衛隊もキレる。
「きぃさぁまァ調子に乗るなァ!!!」「だいたい、姫が座った時点で『引っかかったww』って笑ってたから貴様等以外ありえんだろうが!頭の中にクソが詰まってんのか?」「我々が姫にこのような仕打ちをしたものを炙り出して、泣いたり笑ったり出来なくさせてやる!!」
女子も今まで溜まっていたと思われる鬱憤を晴らすべく男子に対抗して方方から反発の狼煙を上げ始める。
「何が姫だよ!!キメーんだよ!!」「何が泣いたり笑ったり出来なくさせるだ!お前、泣かすぞマジで」「男子の癖にいい気になるなよ!!もう学校で表を歩けなくしてやるかんな!!」
収拾がつかなくなりそうだったので、俺は間に入って叫ぶ。
「お・し・ず・か・に・!・!」
「なんで男子が突っかかってくんのに、こっちがだまんなきゃいけないんだよ!」「何が『お・し・ず・か・に・!・!』だよ!ムスカかテメェは!」「騒ぎを起こしたのはキミカだろうが、バーカ」
…ン…だとゥ?!
「『さん』をつけろよデコ助野郎ゥ!!!」
俺もキレ気味に怒鳴り散らす。
と、その時、ケイスケがキレた時にやる、アレ。
アレをやり始めたのだ。
腰を低くして両腕をその腰に水平に構えて、パンチを白板に叩きこむ…その叩きこむのに合わせて、
「だ・ま・ら・しゃッ・い・!!」
ドンコドンコという凄まじい音に男子、女子ともおとなしくなる。
「『証拠』…それがあればいいんですね?」
ケイスケはドヤ顔で「ショーコ」がどうのこうの言ってたクソ女子を見下し(みくだし)ながら、いや、見下ろし(みおろし)ながら、そう言ったのだ。既にケイスケのスーパー頭脳で叩きだされた結論があるに違いない、このマッド・サイエンティストならやりかねん。
そう俺に思わせるドヤ顔。
「男子のクラス委員長…キミカちゃんの椅子から、画鋲を『採取』してきなさい。絶対に画鋲の裏側を触らないようにしてください」
まさか…。
「画鋲が証拠なんですか?」
…まさかアレを使うのか?
「そうですにぃ…画鋲から『指紋』を採取します。そして、このクラスの…まずは女子全員の指紋を採取します」
「はぁぁあぁ?!」「ふッざけんな!人権侵害だ!」「なんでケーサツみたいな事してんんですかァ?!」「やってないのになんで疑い掛けられた挙句に指紋とか採取されなきゃいけないんだよ!」
ブーイングの嵐。
だが、そのブーイングをしていたのは、小麦粉から作る粒状の粉食、またその食材を利用して作る料理である、発祥地の北アフリカから中東にかけての地域と、それらの地域から伝わったフランス、イタリアなどのヨーロッパ、およびブラジルなど世界の広い地域で食べられている料理のような『クスクス』という笑い声を発していた女子だけだった。
「やってないのなら指紋を採取されても文句は無いはずですにぃ!!なんでそこでピーピーわめき始めるのかセンセーにはワッカリマセーン、ほら、菅原さんなんて指紋だけに拘らず、髪の毛(毛根付き)やら頬の内側からの唾液採取、網膜スキャンに奥歯の治療痕跡結果まで、これから死体になっても誰だかわかるように曝け出してくれていますにゃん。みんなも『やってない』と言い切れるのなら人権がどうのこうの言う前に、これぐらい曝け出して欲しいですにぃ」
「せ、先生!!菅原さんのDNA鑑定を警察のデータベースで確認したところ、前科があります…、く、食い逃げです!!」
「てへへ、バレちった」
ナノカは舌をペロンと出してウインクした…。
…。
「と、とにかく!!やってないと言っているお前から髪の毛の先から肛門の中まで全部を徹底的に調べあげてやるにぃぃィ…(睨」
と、ケイスケは、そのクスクス笑ってた女子グループの1人、一番反発した奴に的を絞ってから言った。さすがケイスケ、クソッタレを見抜くのは早い。ビンゴだったようだ。
「あーあーやりましたよ?やりましたよ?やりましたよ?やりましたからどうしっていうんだよ!!そもそもキミカのバカがブルマ強制とかするからアタシは体育の時間恥ずかしくて恥ずかしくてしょうがなかったんだよ!!当然の報いだ、バーカ!!」と、ちょっと不良が入っているようなクソ女子がそう手のひら返しする。
一斉に親衛隊の男子に囲まれて、教壇まで引き摺り出される女子。
その女子はキッと俺を睨みながら、
「何ッスんだよォ!!!」
と悪態をつく。
「貴様ッ!!姫に向かって何たる態度だ!」
と髪を掴む親衛隊。
「おやめなさい」
俺はそれを水戸黄門が暴走し始めた角さん・助さん・ハチべぇを止める時のように、仏のような落ち着きのある顔でそれを制止する。
そして、
「誰がここのボスか…それがまだ理解できていないようですから、折角なので教えて差し上げましょう…」
俺はドロイドバスターの秘技である『グラビティ・コントロール』を使ってそのクソ女子の首を中心にして宙に持ち上げた。まさにその様子は、フォースの暗黒面…ダース・ベイダーが生意気な部下を血祭りに上げる時のアレに似ていた。
ベイダー卿、もう十分です…おやめください」
おっと、俺としたことが自らの暴走を抑えきれなかった。
フォースの暗黒面は深い。
「かぁハァッ…」
今まで締まっていた首に急に酸素が送り込まれて顔を真っ赤にするそのクソ女子…これですらまだ生ぬるい!!
俺は澄ました顔で言う。
「あまり、生意気な事を言わないほうがいい。寿命が縮まりますよ、コナン・アントニオ・モッティ提督」
「…私はモッティ提督じゃない!!」
それから俺は壇上にあるテーブルに手をついて、言う。
「異質を排除しようとするのは人間の防衛本能です。イジメとは、人間の防衛本能が成せるものなのです。みなさんは私を異質なものだと思っている。私を恐れている…恐れはダークダイドに繋がる、恐れは怒りに、怒りは憎しみに、憎しみは苦痛へ繋がる。女子達の心にも、恐れがある。自分達の帝国が崩れ去るという恐れが」
ドヤ顔で俺はそう言った。
しかし、ようやくして、そこで元、クラス委員長のユウカが口を開いたのだ。本当に『ようやく』って感じだ。…っていうか、イジメが起きた時点で首をツッコんでクラス委員長ズラしろよ!!
お前に委員長の座を擦り付けようと頑張ってンのに!!
「あのさぁ…アンタが女子に酷い事をするから報いを受けるのよ。そりゃアンタは自分のルックスに自身があるからブルマ履いても屁とも思わないでしょうけれど、女子が全員そうとは限らないのよ?ったく、何が『帝国』よ。スター・ウォーズの見過ぎ」
俺は挑発するように言う。
「フォースを学んだようだな、若きスカイウォーカーよ。だがまだジェダイではない…」
「アンタの帝国は1日限りよ。それでも長すぎよ」