173 ナニモノにもなれないワタシ 4

叫び声。
銃声。
マコトはドロイドバスターの秘術『エントロピー・コントロール』で周囲の水分を一気に凍らせて個体を生成し、防壁を創って自分と周囲の警察官を守った。一方でソンヒは地面も机も鉄の塊にして防壁を創って自分と自分の周囲の警察官を守った。
だが、二人が守れるものはそれぐらいだ。
広範囲で守るっていうのはバリアが必要になるし、そういうのが出来るのはメイリンぐらいだろう…つまり、その防壁に漏れた人達がいる。
主にマスコミ連中だ。
逃げ惑うが、流れ弾に当たって身体の一部を吹き飛ばされたり、穴を開けられたり、不幸にも頭に弾が当たって痛みを感じる間もなくトマトを炸裂させたように脳髄を飛ばしたり…。
戦場だった。
しかし佐村河内はナツコを中心として狙っていたから殆どの弾がナツコへ、つまり、ナツコを防御する俺に向かって、俺を狙って飛んでくる。が、俺もまだグラビティ・ブレードで弾き飛ばせるぐらいの遅さだ。
止まって見える。
「き、キミカ!!体育会系野郎が逃げようとしてるニダ!」
「逃すかクソ野郎ゥ!!!」
俺はブレードで銃弾を弾きまくりながらグラビティコントロールで柏田重工担当者側の出入口を机と椅子で塞いだ。
「お、小保子くん!!出入口が塞がれた!!」
ンなこたぁ見りゃわわかるわ!逃すかクソったれ!
「これをどけてくれ!」
とか叫んでいる。
そこへゴリラのような姿のドロイド『XDarcs』が俺に向かってチェーンガンを放ちながらも後退し、腕で思いっきり机、及び椅子及びドアを殴った。それらは勢い良く吹き飛んだが、岡野も一緒に吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
げ。
死んでる…。
体育会系野郎は首が思いっきり変な方向に曲がっている…。
哀れな末路だ。南無阿弥陀仏ッ!!
そう思っていたが銃撃をしまくるドロイドの足元をスーツ姿の佐村河内が逃走していた。ああいう性格だが今まで色々と佐村河内小保子の面倒を見てくれたのに、いざとなったらドアを塞ぐ障害物と一緒に弾き飛ばすか。随分とやるじゃねぇか…悪役なら殺しがいがある。
開けた穴から廊下へと逃げていく。
「キミカさん!!」
ナツコが叫ぶ。
クッソ…逃がしたか!!
後で追うか…どうせ警察に捕まるだろう。
それよりも、ここで奴を倒さないと被害者が増える。
「ナツコは後ろの出口から逃げて!早く!!」
俺は弾を弾き飛ばしながらゴリラ野郎…XDarcsの懐に潜り込む。
「もらったッ!」
と、思った。言った。
その瞬間だ。
(ヴォン)
俺の視界の隅っこに一瞬だけ光を曲げるぐらいの強い力…強いレーザービームの片鱗が見え…。
「っッぉぉああッぶなッい!!」
ギリギリで身体をねじ曲げてレーザーを避ける。この野郎…レーザービームを近距離攻撃用に使うのかよ!!今の攻撃で俺の髪が切れた。
(ヴォン!)
今のでマフラーが切れた。
(ヴォン!!)
ウヒィィィ!!!袖のところが切れた。
剣術だけじゃ交わせなかったよ。
マジで心眼道を会得しといてよかった…服が斬られただけで、ギリギリで全てのレーザービーム攻撃を華麗に交わした。しかし、そんな中、身体を捻じ曲げる瞬間、フロアの後ろのほうが見えたのだ。
一瞬、一瞬だ。
フロアの後ろの方にもゴリラ野郎がもう1体いるのが見えた…クソ…超ヤバイぞ。俺は絶対に死なないけれど、俺もマコトもソンヒも死なないけれども、それ以外は皆殺しになりそうだ。
しかしまずは目の前のターゲットを…。
「隙ありッ!!」
(バスンッ)
黒い波動が斬撃痕を残す。
動体視力がダメダメな連中には俺のグラビティ・ブレードの剣先は見えないが、斬った後の斬撃痕だけは見える。
斬撃痕で斬れた事が把握できる。
ゴリラ野郎の背後の壁に亀裂が入る。
ウィーンっと音だけを立てて「バリバリバリ」という銃撃音は出ずにチェーンガンは床に落ちた。もう片方の腕が残っているからとそれを俺に向けるのだが途中で『切断された腕』を残して肩だけ俺に向ける始末。
アホめ、今の瞬間で両腕を切断したんだよ。
金剛流居合術をナメるな。
もう一回近距離攻撃を仕掛けようと俺に近寄るが、レーザー光が俺の身体を輪切りにしようとするその前に俺のブレードがゴリラ野郎の身体を八つ裂きにした。
(バチンッ)
というグラビティ・ブレードを異空間に…鞘に収める瞬間の音が響いて、目の前に居たドロイドは鉄の固まりとなってゴロゴロと転がった。
えっと、もう1体は?!
後ろの出入口を見るとマコト奮闘していた。
ソンヒが創りだした鉄の固まりを蹴りあげて、そのゴリラ野郎に放つ。その間に、空中で鉄の塊が、鉄の固まりだけれど木っ端微塵にされ、そのスキにマコトの身体はゴリラ野郎の射程内に入る。
一瞬、雷でも落ちたかのようにマコトの周囲に電気が走り、ゴリラ野郎はガクンと足を床に落とした…すげぇ…てっきりレーザービームで八つ裂きにされるかと焦ったけれど全然平気じゃん!!
「ふるえるぞハート!燃え尽きるほどヒート!!おおおおおッ!!!刻むぞ血液のビート!メタルシルバー・オーバードライブ!!!!」
マコトの蹴り(踵落とし)が動かなくなったが、まだしぶとくバリア痕を残しているゴリラ野郎の頭から叩き落とされる。
その踵が触れるか触れないかという瞬間にマコトのエントロピー・コントロールが最も強くなり、一瞬で真っ赤になった溶岩のように目の前の鉄の塊…ゴリラ野郎は液体になって弾け飛んだ。
マコトいつのまにか強くなってる…。
やだカッコイイ濡れちゃう。
「あっぶないニダ!!危うく液体になった鉄をかぶるところだったニダ!!謝罪と賠償を要求するニダァァァァ!!!」
と叫びながら鉄の固まりの奥から出てきたのはソンヒだ。
見れば手や足に少しだけ火傷を追っていて唾をつけて治療している。っていうか唾つけて治るんかい…。
「ボクの側にくるとキケンだよ」
とスマイルを俺とソンヒに送るマコト。
「うわッ、怖い!!近寄らんとこ!」
と、俺は後で舌をペロリと出して言う。
「ちょっ、キミカちゃーん!!!」
「ウソウソ♡」
そんな俺とマコトのやり取りを白い目で見ていたソンヒは言う。
「なんか警察の連中が大慌てで屋上のほうへ上がっていったニダ」
「え?」
「きっと佐村河内が屋上に逃げたニダ」
「よし、名案が思い浮かんだ。静かに近づいて思いっきり後ろからケツの穴を蹴り飛ばして自殺に見せかけて殺そうよ!」
暗黒微笑を放ちながら俺はそう言った。
「全然見せかけてないよ!思いっきり殺人だよ!」
「え?そうかなぁ?(暗黒微笑)」
そんな暗黒微笑を後で後悔した。
そう、この時はまだ、屋上のほうが大変な事になっているだなんて、思いもよらなかったのだ。