173 ナニモノにもなれないワタシ 2

記者会見の日だった。
その日は学校があったけれども欠席をした。
ナツコとマコト、そして俺の3名は家でキャットフードを食っていたにぃぁ先生に一言、『あたし達とソンヒは学校休むから。ちょっと今日は用事があって』と言って出ていった。
途中でソンヒと合流。
記者会見会場である茨城県つくば市の学術センターへ到着した。
「わくわくするニダねぇ!」
とスーツ姿をキメているソンヒが言う。
既にドロイドバスター変身済み状態でちょっと顔を近づけて見れば赤い目の奥には惑星の軌道のようにクルクルと周回する光の粒が見える。ドロイドバスターの物質変換、創造主の力である。
「ボクはキミカちゃんに危機が及んだ時のみ手を出すことにするよ。確かにムカつくけれども、晒し者になってから裁かれたほうがいいと思う。会社だって責任があるわけだしね」
そう言ったのはマコトだ。
拳を片方の手のひらに叩きつけると、その瞬間、手のひらからぼんやりと熱気のようなものが光を折り曲げてゆらゆらと現れる。
既にドロイドバスター変身済みだけれど、変身後にスーツに着替えている。その眼は赤く、眼の奥から光の粒が外へ向かって飛び出している。力のドロイドバスター特有の目だ。
そして俺は珍しくグラビティブレードをスッと持って剣先を彼方へと向けた。普段なら異空間から抜き出したら目に見えないぐらいのスピードで再び異空間へと収めるわけだから、刀を公に露出することは殆ど無い。漆黒のその刀は光を吸収するので光沢は全く見えない。不気味な黒い亀裂が俺の手から伸びる。
そして、俺もドロイドバスター変身済みで、上からスーツを羽織った。おそらくは目の輝きは青で光の粒が弧を描きながら目の中心部に向かって流れ落ちていく…キサラ曰く、時空を制御する青のドロイドバスター。
「あたしは技術者の端くれ…アイツを殺す準備は出来てる」
そう言った。
そんな俺達にナツコは言う。
「あくまで警察に逮捕されることが大切なのですわ」
「逮捕されても自殺幇助は殺人よりも軽いよ」
「でも、マスコミが揃いも揃っているのにドサクサに紛れても殺すなんて不可能ですわ。マスコミから見たら1会社員なのですから」
「いいや、1会社員じゃぁないね」
「え?」
俺はキミカ部屋(異空間)からaiPadを取り出すと、既にYouTubeのサイトは開いていたのでそれをナツコに見せる。
「だってもうバラしちゃったんだもーん」
とニヤニヤしながら。
「キミカさん…それはまだ内緒にするって…」
「さっそく日本ツンボの会が佐村河内小保子と我々は関係ないって声明をだしてるね。クソ障害者枠入社制度を出した団体だけはありますね〜…トカゲの尻尾きりですね」
レイシストも真っ青の発言ですわ」
レイシストオーケー!あたしはね、弱い立場を利用して利益を稼ごうとする連中が大嫌いなんだよ。あたしがレイシストと呼ばれて世の中が綺麗になるのなら、どうぞお構いなく!」
「…」
会場へと続く廊下を歩く俺達。
すると会場に入りきれてないのかスーツ姿の中年の男性一同が居た。マスコミの連中?と思ったらそうではない、ナツコに話しかけてくる。
「いつでも突入できる。…で、君の案ではしばらく佐村河内小保子とマスコミの質疑応答を見守るわけだな?」
「えぇ。公衆の面前で醜態を晒したほうが、後々警察・検察の方々が裁判を行う際に有利になりますわ」
「醜態?ただの記者会見じゃないのか?」
「違いますわ…実はわたくしの知人が既に彼らがこれから墓穴を掘るであろう情報をYouTubeに暴露しておりました。いくら日本のマスコミが情弱であっても、さすがに既に嗅ぎつけてると思われますわ」
俺達は会場へと入った。
それぞれが…警察の連中を含めてみんなそれぞれ席についた。スーツ姿だから誰が誰やらわからないだろうが、佐村河内小保子と岡野だけはナツコがフロア内に入ってきたことを把握したようだ。
ドヤ顔でそちらを見ている。
さぞ気分がいいだろう…自分達が盗んだ研究結果を、持ち主の前で公開するのだから。でも、とんだ茶番だ。偽物だということは皆…そう、佐村河内も岡野もマスコミもみーんなが知ってる。
そしてマスコミだと思って入ってきたスーツ姿の連中の中にはドロイドバスターが3人もいて警察もいる。手ぐすね引いて逮捕スタンバイ。
「え〜…それでは、始めたいと思います」
と言ったのは岡野だ。
その時だった。
(ドォォォーンッ!!)
すさまじい音がして会場の誰もがびっくりした。
それもそのはずだ、記者の為に用意された長テーブルが思いっきり倒れたのだから。しかしどう考えても普通に設置してあって倒れる気配なんて無かった。倒そうと思わない限りは倒れない。
佐村河内小保子は目を見開いてその光景を見ていた。
俺達は佐村河内小保子が耳が聞こえるから、音にびっくりしたのだという事は理解できる、が、公には耳が聞こえる事にはなってない。
マスコミはニヤニヤしていた。
当の机をひっくり返したどこかの新聞社の人は、
「すいません、なんか傾いてて、調整しようとしたらひっくり返っちゃった」とヘラヘラしながら言う。
「「「(会場からドッと笑い声)」」」
そんな中、ジィーッと目を逸らさず佐村河内小保子を睨んでいたマスコミの男が言う。
「今、音、聞こえていましたよね?」
佐村河内はマイクから聞こえるんじゃないかって言うぐらいに、唾を飲み込んでいた。飲み込んでいるのが俺からも見えた。そして、耳は聞こえていませんアピールをする為にその声には反応していない。
…反応していない…という努力をしているように見えた。
じつは聞こえていたんだ。ピクリと目を動かしたからな。
俺の隣ではソンヒが肩を引くつかせて笑っている。
手話を行う人が佐村河内にその旨を伝える。
「いえ、聞こえていません」
「だって今、大きな音に身体をビクつかせたじゃないですか?」
「聞こえていません。振動が響いただけです」
「まだ手話、終わってませんよ?」
「「「(会場からドッと笑い声)」」」
真っ青な顔で俯く佐村河内小保子。
そして俺の目には手話をしている人の横に、そっと、気付かれないようにマスコミがマイクを持っていくのが見えたのだ。…もしかして、手話の人、佐村河内小保子と話してるのか?
「(小さな声で)早い。ちょっと早い」
これは思いっきり手話の人の声だ。
「「「(会場大爆笑)」」」