171 コピー&ペースト野郎 6

電脳通信が入る。
手こずっているようなのでナツコが心配してきたようだ。
『何かトラブルがありまして?』
『ちょっと、大変な事になってる…』
『見つかったのです?』
『見つかりそう…掃除のおばちゃんが部屋に入ってきて掃除を始めちゃってて、あたしとソンヒはロッカーの中で隠れてる。マコトは…うまいことどこかに隠れてる…と思いたい』
『願望ですのね…』
と、ロッカーの中で美少女(ソンヒ)のお顔を美少女(俺)のおっぱいに挟んだ状態で通信終了。ソンヒは俺が無理にグラビティコントロールを使って地面に押し付けたせいで、膝が曲がったままの状態で立ち上がれなくなっている。つまり、ずっとおっぱいに顔をうずめた状態で顔を赤くして何だかんだ言って幸せを感じているようだ…許せん。
そんな切羽詰まった状況を知る由もない掃除のおばちゃん達は、掃除をし始めて10秒ぐらいで井戸端会議を始めた。
「あ、そういえば…」
掃除をしているおばちゃんの1人が言う。
「ん?」
「この前、佐村河内小保子がね、この部屋でゴソゴソなにかやってたのよ!!見ちゃったのよ私!!」
「何やってたん?」
「なーんか本棚の裏側にあるロッカーの前にいて、私が『お掃除しましょうか?』って入っていったらびっくりしたらしくて、記者会見の時みたいなイっちゃってる目で私のほうを見てきて『け、け、け、け、けっこうです』ってビクビクしながら答えたのよ」
「ぜーったい怪しい!!っていうか耳、聞こえてんじゃん!」
「…よね!?よねぇ?!記者会見の時に通訳みたいな人が手話で佐村河内に話してたけれど、アレ、絶対にパフォーマンスでしょ?」
「それでどうしたの?」
バツが悪い悪かったと思ったのか知らないけれどね〜…すぐに部屋を出ていっちゃたわよ。きっと見ちゃ行けないものが入ってるのよ!」
「あ〜…なんだか噂ではSTAPモジュールも誰かのパクリだって話じゃないの?同じ会社の他の研究員のをマネて作ったとか…」
「地位と金と名声が欲しいだけでしょ?誰が作ったとかどーでもいいんじゃない?耳だって聞こえてるし、そもそも障害者枠で入社したとか言われてるし、人間堕ちるところまで堕ちるとどんな手段使っても目的を達成しようとするものなのねぇ…」
「あぁ〜わなりたくないわ。耳が聞こえないって言って、いつかはそれがバレちゃう時の事とか考えてなかったのかしら?」
掃除のおばちゃんの話が盛り上がってきた時だった。
廊下の方からカードキーを差し込む音が聞こえた。それも、先ほど掃除のおばちゃんが入ってきた時とは比べ物にならないぐらいにつまるところなくスムーズに解錠された。
これは佐村河内が入ってきたと見るべきなのか…?
ドアが開くと開口一番に、
「私、この部屋を二人でやってくれ言ってませんよ!!ほら、2人とも、向こうの会議室をやってください。来客があるので11時までに終わらせてくださいね!!」
「「はぁ〜い」」
んん?
取り敢えず今の会話を整理しようか…。
掃除のおばちゃん達に仕事を振った女性らしき人が入ってきて、他の部屋を掃除してくれと言った。その時『二人とも』と言った…。
この部屋には二人しかいない…そして田中さんと鈴木さんの両名は、声をハモらせて『はぁ〜い』と答えたわけだ。
ちょっと待て。
佐藤さんはどこだ?
俺はソンヒと顔を合わせた。目をひん剥いて俺のおっぱいの谷間で驚いているソンヒ。同じことを考えていたようだ。
そう、佐藤さんは確かに居たのだ。似てない声真似で笑いを取ろうともした。それしか声を発することは無かったのだが。…しかし、上司には佐藤さんの存在が知られていない。
そして、最悪な事に、今も不気味な静けさのなかで、佐藤さんらしき女性が部屋の中を片付ける音が聞こえている。
ソンヒが上を見上げた。
俺もそこに何があるのか見上げた。
このロッカー、俺が男の時の身長であったのならロッカーの上にある隙間から外が見渡せるのだが、女の子の身体である今の身長…140センチかそこらのロリビッチ体型では残念ながら光が差し込むその隙間へ届かない。部屋の物音を聞きながら、『佐藤さん』らしき女性が隙間から覗き込まない事を祈るだけだ。
早く掃除終わらせて出ていってくれよォ…。そう願いつつ、上30センチぐらいの箇所にある隙間をジッと睨む俺とソンヒ。
その時だった。
この部屋にありえないものが、その小さな隙間から俺達を覗きこんだのだ。あまりのありえなさに俺もソンヒも身体を強ばらせた。
「ひぃぃい!!!」
小さな叫び声をソンヒが上げる。
それはガラス質で出来た楕円形の目の形のようなもので、背後にはヤスデの身体のように関節が連なって首のようにそこにあり、ガラス質の目の中にはカメラ・レンズのようなものが入っていたのだ。
一つ目の首長竜のようなドロイド…。
そのレンズの横にはレーザーのようなものがあり、ヴーンという重低音を響かせながらレーザーから光を発し、光はロボットが人体をスキャンする時のアレのように俺達の身体を上から下へと舐めるように照らした。
「こんなところで何をしているのですか?」
その声…。
佐藤さんの声だった…。
「「う、うわぁぁぁああぁぁぁ!!!」」
思わず俺とソンヒはロッカーを思いっき外に付き開け…ようとした。が、佐藤さんの頑丈な身体にガンッと当たって開かない。
「「う、うわぁぁぁああぁぁぁ!!!」」
(ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン)
発狂寸前になりながら俺とソンヒは、ロッカーのドアを佐藤さんの頑丈な身体に当てまくった。
「き、キミカちゃん!落ち着いてよ!ソンヒも!」
外からマコトの声だった。
それから再びマコトの声。
「佐藤さん、どいてください」
「はい」
佐藤さんらしきドロイドは背後に音もなく下がった。
(ギィィイィィィ…)
ようやく狭いロッカーの中から解放された俺達は、汗だくになりながら外へと出て佐藤さんの姿を目の当たりにすることになった。
「ってぇ〜!!キミカちゃん!なんて格好してるんだよ!!」
手でパタパタと自分を仰いでいる俺を見てマコトが言う。
「なんて格好って、」
「いくらロッカーの中が暑いからって、女の子がブラウス全開でブラを見せびらかさないでもいいじゃないかァ!!」
「ソンヒが、」
俺が言いかけたその時、
マコトは素早くソンヒの背後にまわって片腕をソンヒの喉元にくぐらせてもう片方の腕でそれをガッシリと掴んで、思いっきり自分の方向へ引っ張った。これぞ、ユウカが珍獣共を躾ける為に使う『チョークスリーパー・De・ユウカ・スペシャル』だ。
「ギギギギギギギギギギ!!!」
まるで被曝した広島県民のような叫び声を上げてソンヒは失神。
それにしても、蜘蛛の様な足に長い手と首が生えたようなキモチワルイ姿のドロイド…それが佐藤さんだった…彼女がロボットならさっきの会話も変なところから聞こえていた声も納得がいく。っていうかロボットに佐藤さんだなんて紛らわしい名前をつけるなよ!
「ふぅ…危なかった。掃除のおばちゃんが戻ってくるかもしれないから早く仕事をすませようよ」
失神したソンヒを床に転がしてマコトは言う。
「コレは掃除のおばちゃんにカウントしなくて大丈夫?」
佐藤さんを指さして言う。
「さ、さぁ…」
まぁいい、とにかくだ。本棚の裏側にあるロッカーが怪しい。本棚の後ろに隠し部屋とか映画ではよくある展開だからな。俺もまずはそこから疑うべきだったと反省しているよ。
これだけ中身が空っぽなんだから手で横にずらすのも簡単だった。
本棚はあっさりと横にずらせて、奥にソンヒが創りだしたロッカーとは別のタイプ。錠前やら鍵穴、とってすらもないから解錠は別の場所で行うタイプのものだ。そして、こういうものはケイスケ宅のケイスケの部屋にもあったよ、パソコンでロッカーの制御を行っているはず。
俺は部屋に置かれたMapple製パソコンに腰を下ろした。
「ロッカーを開けるのにパソコンが関係あるニカ?」
もう復活したソンヒが俺の背後から言う。
「ケイスケの家に同じタイプのがあったんだよ。って、うわ、なんだこれ?!キーボードのShiftキーとCommandキーとCキーとVキーが掠れて字が消えてる?!こ、こんな事ってありえるの?!」
「キミカはキーボードの字が消えてるぐらいで騒ぎすぎニダ、ウリナラの国ならF5キーが掠れて見えなくなる事はよくあるニダ」
「…知っててあえてその糞みたいな冗談に乗ってあげて、わざわざ質問するけれど、どうしてF5キーだけが掠れて消えてるのかな?」
「それは朝鮮建国記念日にイルボンのネットワークの主要機関とか2chサーバにDenial of Service Attackを仕掛ける為に決まってるニダ!!恐れいったか!!ウェーハハハハハハ!!!」
俺は素早くソンヒの背後にまわって片腕をソンヒの喉元にくぐらせてもう片方の腕でそれをガッシリと掴んで、思いっきり自分の方向へ引っ張った。これぞ、ユウカが俺や珍獣共を躾ける為に使う『チョークスリーパー・De・ユウカ・スペシャル』だ。
「ギギギギギギギギギギ!!!」
まるで被曝した広島県民のような叫び声を上げてソンヒは失神した。