171 コピー&ペースト野郎 3

俺とマコト、ソンヒ、ナツコは茨城県つくば市へ来ていた。
つくば市とは古くから『学園都市』の異名を持ち、日本の技術開発の根幹を支える多くの学術機関、研究機関がある街だ。
山口県は第4の首都に選ばれて、今でこそ珍しくなく街中には整備を行うドロイドや公共サービスを行うアンドロイドがいるわけだが、ここつくば市では首都がそのようになるン100年前から整備用ドロイドが街を徘徊…いや、巡回している。
未来モデル都市構想もドラえもんが誕生するぐらいに昔の時代に既に存在していたわけだ。その未来を生きている俺は、俺達は、このつくば市で過去の人間が夢見た未来への道というものを確認することができる。
即ち、人々の仕事がドロイドやアンドロイドに奪われて、多くの人間が自身の存在価値に疑問符を投げかけた、その道程が。
…が、今日はそんなことをしに来たわけじゃない。
ついぞ先週の週末、ソンヒが語っていた言葉を思い出してみる。
「美味しいところだけ持って行こうとするとアラが出てしまうニダ。そういう奴は『パクリ』を補うために新たに『パクリ』を働くニダ。そう、嘘をついたらその嘘をカバーする為に別の嘘をつくという、永久ループの中に放り込まれて自分の首をシメ続ける事になるニダ」
この言葉の後、ソンヒは「どこまでパクっているのかを把握するのが一番ニダニダ」とニヤニヤしながら言った。
つまりこうだ。
ソンヒが知るサムチョンの一例を上げるのなら、Mapple社はサムチョンがMapple製品の中の一つをパクっている可能性を見つけたわけだが、ただそれを騒ぎ立てるとアレコレと言い訳をされる。例えば『見た目がaiPhoneとそっくり』と騒ぎ立てれば『別にこれはaiPhoneをマネたわけじゃない、たまたま同じになっただけ』と言い訳を並べる。
では、もしこれが『aiPhoneの設計図を盗んでいて同じ様に作っている事実があった』となればどうなるか?
既に『盗んだ』という『パクった』の1ランク上の悪事を働いているわけだからステージが上がっている。この場合は『たまたま盗んだだけ』という言い訳は出来ないし、刑事告発もできる。
こんな風に、戦うときに重要なのは、相手が何かアクションを起こしてきてから対応するのではなく、相手の手の内をまず把握して先回りすることなのである。
「えっと…つまり、今から何をするの?」
ここにはドロイド科学研究所(柏田重工つくば工場)がある。
「ナツコの研究をパクったという事実を集めて公開するニダ。そうするとグゥの音ぐらいは出そうとするから、トドメでソイツは知らないであろう情報を聞いて答えられなくさせるニダ。プププ」
「それは話の流れで何となくわかるけれど、まさか研究所内へ忍び込もうとしてるんじゃないよね?っていうか朝鮮人のソンヒがなんで日本人に協力してんの?裏がありそうな気がするな…」
「裏があるに決まってるニダ!!頭にウジでも沸いてるニカ?!ナツコに協力したらクラスでの待遇を良くするって約束したニダ!!」
「へ?そんな約束したっけ?」
俺はモノローグを遡ってみたがどこをどう思い出そうとしてもソンヒとそんな約束をしている会話や文章が見当たらない。
「キミカのクソ都合のいい頭の中だからウリとの約束なんてCommand+Shiftで選択してDeleteしてるニダ!!」
「わかってるじゃん」
「おいいいいいいい!!!」
そう叫んで俺の肩を両腕でガッシリと掴んで身体をガタガタガタガタガタガタガタガタ揺らすソンヒに向かってマコトは言う。
「でも、実際に、研究所内に入るってスパイ映画じゃあるまいし、すんなりといくのかな?柏田重工の社員でしかも研究者のナツコでさえ自分と関係ない部門の敷地内には入れないんでしょ?」
ごもっともである。
ナツコは不安そうにソンヒを見てから言う。
「そこはソンヒさんが何とかしてくれると昨日…」
俺とマコトは訝しげな目でソンヒを睨んだ。
「や、やる前からなんて残念な目でウリを見てるニダ!!」
「今まで一度足りとも信用したことがないからなぁ」
「おいいいいいいいいいい!!!」
「信用っていうのは本来はゼロからスタートするものなんだよ」
「じゃあ今がそのゼロになるニダ!!その第一歩を訝しげな目で見るだなんて、身も蓋もないニダァァァ!!!」
「普通の人は信用はゼロから始まるけど、朝鮮人のソンヒの場合、今まで他の朝鮮人がやらかした酷いアクションのせいでマイナスからスタートするからね、ゼロに行くまでが一苦労っていう」
「ふぁ、ふぁ、ファビョーン!!」
「ファビョってないで早く話を進めてよ!!」
顔を真っ赤にして湯気を出しているソンヒの肩を揺らして言う俺。
しぶしぶ話を進めるソンヒ。
「こういう大企業は一人一人の顔が覚えられてないし、お客さんの出入りが激しいから仕事がやりやすいニダ」
そう言うとソンヒは俺やマコトの服に触れた。
一瞬で、とは言わないもののじわじわと服が変わっていく…ソンヒのドロイドバスターの力、物質変換である。
マコトも俺もスーツ姿、マコトはスラックスで俺はスカートである。ソンヒも同様に…そしてナツコはさすがに顔がバレてるので外の喫茶店で待機して俺達と無線連絡をしあう事になった。
「え、ちょ、このブラウス思いっきりブラが透けてんじゃん?」
俺は言う。
そう、スーツをキメる時はブラの色もおとなしめに合わせないとこんな風に思いっきり「君、ブラしてますね」とわかる状態になる。
「ウリは白のブラウスしか生成できないニダ」
「キミカちゃん、ブラを外せばいいんじゃないのかな?(提案」
ったく、ひとごとだと思って…。
「いいよいいよ、もうこれで。ったく、せっかく『目立たなく』って計画だったのに思いっきり目立ってるじゃん、ビッチじゃん、これじゃ」
「キミカちゃん、ビッチじゃなくてロリ・ビッチだよ(訂正」
そんな俺達の戯れ合いを見ながら心配になったのかナツコが言う。
「スーツ姿だったら誰でも自由に入れるわけではありませんのよ?社員だったら社員IDカードが必要になるし、社員じゃない場合でも、社員の誰の案内状…テンポラリIDカードが必要に、」
「ほい」
ソンヒは俺とマコトにカードらしきものを渡す。
「おぉ…凄い、顔写真入り?」
「これで3人共侵入できるニダ」
すると、ナツコはソンヒの前に手を出して、
「いちおう、確認の為に見せてもらえます?」
「どうぞどうぞ」
まじまじとカードを見る。
「確かに…これはテンポラリIDカードですわ…」
「クククク…」
「柏田重工の企業秘密が…日本軍の兵器情報が…朝鮮人に…スパイに…敵国にバレていたという事になりますわね…これは大変ですわ。しかるべき機関へ連絡して…」
「おいいいいいいい!!!せっかくウリが手伝って上げてるのに犯罪者あ扱いするのはやめて欲しいニダァァァァァァァァァ!!!」
俺はそんなソンヒの反応を見て思う。
思って、そして、言う。
「…あ、わかった」
「言うなニダ!!」
俺の暗黒微笑に気づいてソンヒが怒鳴る。
「え?なんで?」
「どうせろくでもない事を言おうとしてるニダ!!ウリの心を傷つけるから、それ以上、」
「ソンヒはこの手でアンダルシア学園に入ったわけだね」
「おいいいいいいいい!!!言うなと言ってるニダァァ!!」
ナツコが言う。
「それを言うのならキミカさんやマコトさんだって、お兄様がソンヒさんとは違う手段で色々と裏でやってアンダルシア学園に入学したんじゃありませんの?正式な入学手続きをしているのはわたくしだけですわ」
ありゃりゃ、それをバラしちゃいますか。
案の定、ソンヒは声に出さなかったものの、口をパクパクさせながら「お前ら同じ様に違法に入学しといて人の事を言える立場か!!」とでも言いたそうに目を白黒させていた。
「はいはい、いこういこう、いきませう。こんなところでウロウロしてたら怪しまれるから作戦成功率が下がってしまうよ」
パンパンと手を叩いてこの場をスルーさせる俺。
まだ何か言いたそうなソンヒを後ろに、ドロイド科学研究所へ続く街路樹の間をくぐり抜けて歩いて行った。