171 コピー&ペースト野郎 2

翌日。
学校にて…陰鬱な気分で登校したと思われるナツコはそのまま机の上にうつ伏せになり、ぼっちな生徒が周囲に話しかけられるのを避ける時にとる体勢になった。
俺とマコトは事情は知っているからそっとしておいて上げてるわけだけれども、ナノカやユウカは知る由もない。クラスメートがドロイド開発者だなんてのも初耳に違いない。そして早速、ナツコに近づいてきて、
「どうしたの?調子悪そう」
とユウカ。
「ナツコっちも昨日の夜は寝なかったの?あたしも宿題するの忘れてたのを夢の中で気づいて慌てて起きてやったんだけど、それも含めて夢だったと気づいて大慌てで起きたら夜の2時でさ、もうそこから目から血がでるんじゃないかっていうぐらい頑張って朝まで何とか終わらせたよ」
などと聞いても居ないのに苦労話を語り始めるナノカ。
今にも目から血が吹き出そうなぐらいに目が真っ赤だ。
「わたくしが一生懸命作り上げた功績を、一瞬でパクって自分の功績とした人がいるんですの…。怒りと悲しみで眠れませんでしたわ」
目の下にくまを作っているナツコ。
「功績?コンクールの作品が被ったとか?」
「まぁ…そんな感じですわ。昨日、柏田重工の兵器発表でピンクまみれの女が出てきたでしょう?あの女が発表した作品はわたくしの精魂込めて作り上げた運動制御システム『iPS』のパクリなのですわ。STAPだとか適当な名前をつけて発表していましたわ」
「なんだかよくわかんないけれど、あのピンクだらけの頭がイカれてるんじゃないかっていうぐらいに色のセンスが無い女の人だったよね。割烹着がピンクで研究施設内もピンクで、ピンクの車にピンクの普段着にピンクの下着で奥歯に入っている銀歯もピンクだったね。ピンク歯かな。あたしも対抗して全部赤にしようかな?」
随分と的を外れている意見を言うナノカ。
上の空でそれを聞くナツコ。
俺もとりあえずフォローを入れておく。
「パクってばっかりの人は基本の中の基本が出来てなくて外側だけつくろうとするからどこかでボロが出て酷い目に合うよ。サムチョンのケータイとかaiPhoneを真似て作ったら売れると思って、どうしても重さがaiPhoneと同じにならないからって重りを中に入れてそれとなく同じ重さにしたとか、実はaiPhoneが重いのは合金を綺麗に一つ一つ加工して作ってるんであって、サムチョンのはプラスティックケースに重りを入れて作ってて、この前、それ使ってた人がなんか『カラカラ』中から音がするからブンブンケータイを振り回してたら中の重りがプラスティックを突き破って飛び出してきて通行人の頭を直撃して頭蓋骨骨折の致命傷負わせたとかいう事件もあったよね。あんなふうに何かを外側だけパクって作ったものは意図しない酷い結末にあうんだよ。作った人が酷い目に会うだけじゃなくて、使ってる人までも酷い目に会うっていうのがオチだけど…」
「ま、まぁ…わたくしのを完全にパクって開発したのなら中からカラカラ音がしたり鉛が飛び出して敵を攻撃する事はありませんわ」
「他人をパクるような人間はダメだね。本人はそれで認めてもらいたいとか凄い人間だと思われたいとか、お金が欲しいとか、ろくな理由じゃないんだから。特に体育会系にそういうのが多い。体育会系ってスポーツとか必ず競い合おうとするよね。本来は自分との戦いなのにね」
「なんでそれを私を見て話すのよ」
とユウカ。
あれ?俺はいつの間にかユウカのほうを見てユウカを敵視しながら体育会系批判を繰り広げてたようだな…。
「あ、いやいやゴメンゴメン、別にユウカの事を言ったんじゃないよ。ユウカみたいな体育会系に対して言ったんだよ」
「同じじゃないのよ!!」
「あたしが話してるのはもっと広い括りなんだよ」
「だから私がその広い括りに入ってんじゃないのよ!!だいたいね、体育会系をバカにするけれど世の中は殆どが勝負じゃないのよ。そうやって競争しながらどんどん世の中がよくなってきたのよ」
「いいえ、違いますゥ!」
「なんで違うのよ?オリンピックだって、世界一を決める大会がなきゃ、そこへ向けて頑張る人も居ないのよ?」
「オリンピックゥ?たかだか1秒速いか遅いか、1センチ前に進んだか1センチ後ろだったかとかの勝負をしてる世界が世の中を良くしていったの?そうやって誰かが引いたレールの上を走って、どっちが前に進んでいるかとか必死に頑張ってるのが『世界が狭い』っていうんだよ。例えばトイレでウンチしたときにトイレ紙でおしりを拭いて、どの会社のトイレ紙が一番汚れを落とせるかとか必死こいて考えてるのがユウカの言う体育会系。トイレ紙なんか限界があるんだからウォシュレットで肛門を綺麗にしましょうって言ってるのが非体育会系なんだよ」
「ちょっ、肛門とか今は関係ないじゃないの!」
顔を真っ赤ににしてユウカが怒る。
「関係おおありだよ!そうやって話の本質とは違うところが頭の中をちらつくでしょう?だから体育会系はダメダメなんだな。そうやって誰が上で誰が下で自分がどの位置にいるのか、そんな事ばかり考えていたら視野が狭まって世界も狭まるんだよ。例えば、嫌なアイツに負けた悔しい、飯が不味い、鬱だ死のうとか、くだらないことで一喜一憂しなきゃいけない。そんなことをある日突然、世界中の人達が同時に始めてみなよ。文明の進化は急停止しちゃうね!」
肛門だのウンコだのの話は間に入ったが、俺の話をひっくり返すようなロジックがなくなってきたのか、ユウカは自分が出したマニフェストがどんな意味を持っているのかよくわかってない状態で学生に核心をツッコまれた時の政治家のように、「え、ぁぁ、あぅ」という呻き声なのか唸り声なのかわからぬ声を発して黙った。
しかし一方で意外にもナツコが俺の話に納得した。
「そうですわね…わたくしは素晴らしいドロイドを作るのが好きだからやっていただけですわ。別に競い合おうとも、世の名声が欲しいわけでもありませんわ。キミカさん…わたくしに大事な事を思い出させてくださいました。ありがとうございます」
「いえいえ…」
褒められてしまった…。
そんな話に、突然に部外者が割り込んでくる。
ソンヒだ。
「さっきからパク、パク、パクとウリの苗字を連呼されてて滅茶苦茶気になるニダ。一体何の話をしてるニカ?」
俺は答える。
「朝鮮お家芸のパクりについて話してたんだよ」
「ファビョーォォォオォォン!!!」
顔を真っ赤にして怒るソンヒ。
朝鮮人はパクった挙句に起源を主張するからなー。たしか宇宙は朝鮮から始まったんだっけ?」
「学校でそう習ったニダ!!」
「まず学校がおかしい」
「イルボンが侵略戦争を仕掛けてきた事も学校で習ったニダ!」
侵略戦争しかけてきたのはそっちでしょうが!!」
「そんなのウリナラの教科書には載ってないニダぁ〜プププ」
俺はキミカ部屋(異空間)からaiPadを取り出して素早くWikiで『第三次世界大戦』のサイトを表示し、そのままソンヒの顔面に叩きつけて、
「これを見ろォォォォァァァァァァ!!!朝鮮と中国が日本とアメリカと台湾とそのた諸々多数に戦争を仕掛けたって書いてあるだろうがァァァァァァァァァァ!!!」
「ね、捏造ニダ!!それはWikipediaが捏造されてるニダ!」
ったく、コイツと話をしていると疲れる。今もまだ「うわぁぁぁ…嘘の歴史をイルボンが教えようとして火病が再発したニダ…謝罪と賠償を、」とか言ってる。もう放っておこう。
「ナツコは昨日、会社から電話がかかりまくってたじゃん?やっぱり大変な事になってるの?」
「研究所では今までの研究成果が盗まれたと蜂の巣に頭を突っ込んだような大騒ぎになっていますわ。ただ、本社はこの件を穏便に済ませたいという考えがあるみたいで、有耶無耶にされそうな気がしますわ…まぁ、わたくしもさっきのキミカさんの話を聞いて、別にそれでもいいと思いますけれど、今までわたくしと一緒に開発されてた方々は…」
「とりあえず悪事を働いたんだからそこは罰せられるべきだよね」
「そ、そうですわ!!そうですわ!!!…ただ、証拠もなくて…」
そんな話を俺とナツコがしている時だった。
またしても間に入ってくる邪魔者(ソンヒ)
「ま、パクりは完全にパクれないからパクりと言うニダね」
「「へ?」」
「美味しいところだけ持って行こうとすると、アラが出てしまうニダ。そういう奴はパクリを補うために新たにパクリを働くニダ」
さすがはパクりがお家芸の国からやってきた人だ!!
本人が言ってるからものすごく信頼できるぞ!!