171 コピー&ペースト野郎 1

未だに糖尿病の治療のために入院しているケイスケの代わりにマコトが夕食を準備するわけで、その為、ここ最近に至っては和食以外が珍しく感じる事になっていた。例えば学校のビュッフェ形式の昼食では無意識化で俺は洋食をセレクトしていた。
地方ごとに沢山の郷土料理があって広義の意味ではバリエーションが多いと言われた和食だけれども、マコトは修行中のみだから代表的なものしか作れなかった。そんなマコト曰く、和食の究極は創作料理で、その領域にまで踏み出せれば本当の意味で和食を極めた者…らしい。
確かに…思い起こせば俺が普段ぼっちで向かう飲み屋では創作料理系の店はいつも繁盛している。基礎の部分がしっかりと体に染み付いているから応用が出来て、結果、それが和食のハイレベルな創作料理という形で現れるのだろう。
その話は置いといて…俺やナツコ、にぃぁ、それからマコトと、この家でケイスケを除いた女性(内、2名は外見だけ女性)が揃って食事をしている最中、それがことの発端だった。
とある夕方のニュース番組だ。
そこには4本足にゴリラの様な身体つきで腕についているガトリング砲を自在に操って軽やかな動きで移動する多脚戦車が紹介されている。まるで何か新しいオリンピックの競技に戦車が間違って出場しちゃうような、でも実は間違いで無駄に張り切って練習しているような、戦場にそぐわない大胆で美しい動き、高得点を狙えそうではあるけれども戦場ではそんなに派手に動きまわると的にされるぞ的な…。
シーンは切り替わってドロイドの開発室、研究室の案内が入る。
「な、なん…」
マコトが言う。
「なんじゃコリャァァァァァァァアァァ!!!」
俺が叫ぶ。
研究室…全部が全部、ピンク色だ。
毒々しいまでのピンク色。
作業着までピンク色だ。
どうやら説明を聞く限りは神経を使う作業場なので心にゆとりと楽しさを持たせるために全てをピンク色に染めてみましたって、君、既に神経が磨り減ってるよ。全部が全部ピンク色だなんてマジで精神病んでる奴が考えそうな色使いの部屋だぞ。
「何から何までピンク色だよ、目が変になりそうだよォ!」
「センス悪いなー!ピンク=可愛いとでも思ってるのかな?」
そんな多脚戦車が開発者と共にいて、キャスターが質問を飛ばす。
<普段はどのような事をされてるんですか?例えば休日とか>
って、マスゴミ野郎がちゃんとロボットの紹介とか、それを作るまでの苦労話とか聞けよ…なんで日本のマスゴミって女が出てくると茶化すようなことばっかり質問するんだ?
すると、その質問からしばらく間を置いた後に女性が答える。
「ん?この人…」
その違和感を感じた俺は声に出した。
マコトが俺に言う。
「なんか、耳が聞こえないのかな?一瞬、画面の隅っこに手話通訳の人が居なかった?」
「いたいた。へぇ〜…この人、耳が聞こえないけどドロイド作ってるのか〜。まぁ耳が聞こえないのとドロイド開発は関係ないけどね。きっとこの人も大企業『柏田重工』の『障害者枠』から入ったんだろうね」
「障害者枠?」
「大企業には『障害者枠』っていうのがあって、『私達は社会に貢献する為に障害者のような社会的弱者でも入社ができます、凄いでしょう?(でも決められた枠で人数制限しますけどね)』っていう宣伝だよ」
「へぇ〜…大企業も大変だねー」
「ヘタすると障害者の周りにいる変な団体にタカられたりするからね。言動にも行動にも気をつけないと…ほら、スーパーとかの駐車場で車いすマークがある駐車場もそういう団体にたいするアピールだよ。あのマークが駐車場に無かったら変な団体が突然やってきて、『車いすスペース作らないとお前の会社ツブすからな』って脅迫するんだよ」
「うわぁ…まるでヤクザだね…まぁ、結果的に障害者とか足を怪我して一時的に車いすな人の為にはなってるけれども」
「それを理由に金稼ぎをしてるだけだよ。普通の人が企業に向かって物申すとかは無いじゃん?何かと理由をつけて騒げば、大きな企業であればあるほど臨時収入が得られるんだよ。障害者とかそういう『社会的弱者』を利用したらそれがやりやすいからね。でも、最近は殆どの企業は駐車場作るときに車いすスペースを設け始めたから、今度は『バリアフリーになってない!』って文句言って金をせびってるらしいよ」
「手を変え、品を変え…オレオレ詐欺みたいだね…」
「自分が弱いことを利用して文句を言う奴にロクな奴はいないよ。この前朝鮮人が日本軍が攻めてきてレイプをはたらいたとか騒ぎ出したけれど、大戦時に日本軍の『人間』が朝鮮半島に上陸した記録はないんだよね。上陸して攻撃したのはドロイドで。でも番組内でレイプされた女にそれを指摘したら突然怒りだして『私はレイプされて足を怪我して歩けないんだ!』とか言いながら立ち上がってレポーターに襲いかかってたからね。自分が社会的に弱者な人は自分が弱者であることを隠そうとするものなんだよ。それを威張り散らして言う奴なんてゴネとくしたいだけ」
そんな話を俺とマコトがしていると、本当に絵に描いたように『わなわな』しながらナツコがテレビを見ていたのだ。
もしかしたら今の俺の話に感化されてテレビに出演しているツンボの開発者に怒りを覚えたとか?
「あははは、ナツコは純真だなぁ、あたしの話は2chの情報が8割入ってるから話半分で聞かないと」
と、落ち着かせようとした。
しかしナツコ、逆ギレ。
「落ち着いてる場合じゃないですわァァァ!!」
「ど、どうしたんだよ?」
「こ、この運動性能を制御する機構『iPS』はわたくしが開発したものですわ!!わたくしがバトルドロイド『ヴォイド』に搭載しようと考えていたものですわ!!」
マコトがテレビを見ながら言う。
「なんか『STAP』っていう機構らしいよ。別の機構でナツコの『iPS』と同じような運動性能になってるんじゃないのかな?」
「か、柏田重工でこの手の運動性能を出せる姿勢制御コントローラを作ってるのはわたくしの部署でしかありませんの!!絶対におかしいですわ!!それにこのドキュメント!」
そう言ってテレビを止めて映像を巻き戻すナツコ。指さした先には確かに論文らしきものの端っこにナツコのサインがある。
「あ…ホントだ」
「盗まれたんですわ…わたくしの研究が盗まれて、他の人が発表したんですわッ!!…ゆ、許せません、絶対に許せませんわァァ!!」
「ま、まぁ落ち着きなよ、ほら、どうせ盗まれても柏田重工が発表したわけだから世間的には問題にはならないよ」
「わたくしの中で大問題になっていますわ!!」
そりゃそうですね。
再びマコトがテレビを見ながら言う。
「佐村河内(さむらこうじ)小保子(おぼこ)…?この人、日本人でも随分変わった名前の人だねー。ナツコとは面識あるの?」
「うーん…前に社内のパーティで一緒になったことが…1度か2度だけあったような…なかったような…わたくし、人見知りなので基本的にあまりパーティとかでませんし、苗字が珍しいので覚えていましたわ」
それから突然の電話。
ナツコのケータイにだ。
ナツコは「どうなってるのかわたくしにも…」「わたくしが聞きたいところですわ!」などなど、どうやらこのテレビでの発表に関する話らしい。柏田重工の秘密研究所の人からの電話のようだ。
それから別のところからも電話があり、とにかく、ナツコは俺達と話す余裕もなくひっきりなしにかかってくる電話に応対していた。
おそらく殆どの電話がテレビにあった柏田重工の兵器発表に関するものだ。なぜそう言い切れるのかって?そりゃナツコがケータイで話をしている姿なんて今まで見たことが無かったからだよ…。