165 気にならない転校生 6

廊下を走り回る義手。
俺の身体から分離したそれは自らの意思で動き、しかもその『意思』は何故かどっちかっていうとイタズラのほうに向けられてて、既に悪魔のソレと化していた。
…例えばソレは女子の足首を掴んだり…掴まれた女子はもうパニックになって失神したり失禁したりだ。
…例えばソレは男子の股間を掴んだり…掴まれた男子はもう嬉しさのあまりさらに勃起したり失禁したりだ。
とにかく、そのクソ腕をこれ以上暴れさせるわけにはいかない。
俺はキミカ部屋からプラズマライフルを取り出すと器用に腰と片腕だけで構えて狙いを定めてェ…撃つ!!
(ぱすん)
乾いた音を立てて放たれた弾は、やっぱり腰で構えて撃ってるのが悪いのか微妙な位置でハズれた。
「クッソぉ!!」
しかもその腕が俺の方を向いて、人差し指を左右に振った。
まるで「ちっちっちっ」とでも言わんばかりだ。
(ぱすん)
さらに続けざまに撃つ。
がかなり近くに当てただけで本体には命中せず…。しかも『腕』は怒ったのだろうか、俺のほうを向いて震えながら中指を立てた。
…。
そして『腕』は逃げた…。
「どうなってんだよォォォォ!!!」
俺が文句を言うのはナツコへだ。
「も、申し訳ございませんですわ…まさかあのように凶暴化するとは…。で、でも、お兄様が勝手に義手として使ったのがそもそも主悪の権化でございますのよ?」
「っていうか、あの義手は思考を持ってるの?!」
「えぇ…ドロイドよりも高性能なAIを積んでおりますわ」
「ナツコは無意味なものを創る天才だね…」
「映画『呪われた腕』で主人公の腕が暴走してチェーンソーで切り落としたらその腕に襲われた、というストーリーをヒントにして、呪われた義手みたいなものを創ってみたくなったのがそもそもの始まりですわ…キミカさんも映画に感化されてこの前だってスタバでドヤリングしてたではございませんの?」
「いや、まぁ、そりゃ…そういう事あるけど…。って、とりあえずアイツを追いかけなきゃどんどん被害が増えていくよ!」
そう俺が言ううちにも廊下からは悲鳴が聞こえてくる。
ただ俺の腕を見て悲鳴を上げるのならいいけれど、スカートをめくられたり股間を触られたりされたら俺の評判が更に悪くなってしまう。奴を早急に止めねばならない。
俺を追いかけてきたマコトが言う。
「ボクはキミカちゃんの腕が逃げたほうを追いかけるから、キミカちゃん達は挟み撃ちを狙って!!」
「了解!だけど…マコト…ちょっと一言いいかな…」
「ん?」
「『キミカちゃんの腕』って言うの止めてくれる…?」
「あ、ご、ごめん…」
その後。
マコトとソンヒはそのまま悲鳴のする方向を追いかけ、俺とコーネリアは誰も居ないのを確認したのちドロイドバスターに変身して空に飛び上がってから奴が進むであろう方向へと先回りした。
そうは言っても奴が何を目的にしてるのかわからないので、とりあえず他の動物と同じレベルの思考回路だと踏んで、叫び声がする方向のさらに向こう側へと回り込むしかない。
通常のドロイドのAIよりも優れているということは作戦を作るところまでやってのけるかもしれないのだ。
幸いにも逃げた先は教室などがある棟ではない。
化学室だとか家庭科室などがある棟だ。
変身を解きながら俺とコーネリアはその棟の3階の廊下側窓から侵入し、俺はライフル、コーネリアはマシンガンを装備した。
「マッタク、キミカノ腕ダケニ、タチガ悪イデーッス」
「あたしの腕じゃないってば!」
そう言いながらも廊下を進む。
その時だ。
俺の脳に電脳通信が入る。
『キミカちゃん!あの腕を男子トイレで見つけたよ!』
『捕まえたの?!』
『いや、まだ。入っていくのを見たって人が居るんだ』
『今行く!』
その旨をコーネリアに話し、2人は廊下を更に急いで進む。
ちょうど視聴覚室の前辺りにあるトイレ。その男子のほうで、上級生らしき制服を来た男子があたふたとしているのだ。
『マコト?今ついたよ?』
…。
「ん?」
「What?」
「マコトから反応がない…」
俺とコーネリアは顔を見合わせて、その後、コーネリアはマシンガンの安全装置を解除した。
あたふたとする上級生男子は震える声で、
「い、今、女の子が、と、トイレの中に腕を追って入っていったんだ。…でも、悲鳴が聞こえて…それで…」
ン…だとゥゥゥゥ?!
俺とコーネリアはゆっくりとトイレの中へ、Call of Dirtyをプレイするときのように、お互い無言で手だけでサインを出しあいながら銃を構えてゆっくりと…ゆっくりと内部へ侵入する。
そこには…。
惨状が広がっていた。
あの腕が自らの血を使って書いたであろう、『キミカ参上』の血文字が男子トイレの壁に書かれてあるのだ。
そして、そのトイレの床にマコトがスカートとパンツを脱がされた状態で倒れているのだ。
「マコト!!」
近寄るとマコトの肛門にバイブが突き刺さっているのが見える。
「What the fuck…」
「あぁぁぁ!!なんてことなんだよ!!」
慌てて近寄る俺とコーネリア。
「キミ…カ…ちゃん…逃げ…て」
「マコト!動かないで…肛門が…肛門の傷口が広がるから」
「キミカちゃんの腕が…。キミカちゃんのあの優しい指でボクの肛門を撫で回して、快楽に溺れてたらいつの間にか…ボクの肛門には、バイブが挿入されてたんだ…」
「もうしゃべらないで!!っていうかキミカちゃんの腕とか言わないでって言ったじゃんか!!」
「(がくっ)」
「マコトォォォォォ!!!」
その惨状を前にして俺とコーネリアはただ呆然と立っているしか無かった。とりあえずマコトの肛門に突き刺さっているバイブは引っこ抜いたとして。
…と、その時だ。
ウンコをするほうのトイレから物音がするのだ。そして、コーネリアのサブマシンガンが火を吹くのは同時だった。
木くずが飛び散って弾痕が横一列に並ぶ。
その衝撃波と音ののち、トイレのドアがゆっくりと開いた。
中には…。
中には手をあげてプルプル震えているソンヒがいる。
「何やっとんじゃわぁりゃぁぁぁぁぁ!!!」
俺は怒鳴り散らしながらソンヒに掴みかかった。
「ま、マコトが中に進んだからウリも入ったら、突然腕に襲われたニダ!!慌ててトイレの中に篭ったら外でマコトがイヤラシイ声を出してその後に静かになったニダ…」
ったく!
こォんの役立たずめ。
「とにかく、あの腕を追いかけよう」
そう俺が言った時だ。
突然放送設備から全校放送が響いたのだ。
しかし、それは何かしらの案内をするものではない。ピンポンパンポ〜ン…といういつもの音の後に聞こえてきたのは生々しい『苦しそうな』男の声だったのだ。
俺とコーネリアとソンヒはお互いの顔を見合わせた。
この状況でこれだけの悪事を出来るのは…俺の腕しかない。
っていうか『俺の腕』じゃない、危うく俺も間違えるところだったよ。『ナツコが開発した腕』だ。