165 気にならない転校生 4

ソンヒは教材データがインストールされているPadを持ってくるのを忘れたのか、それとも先生がそもそもソンヒに渡すのを忘れたのか、手続きがうまくいってなくて発注する事すらされてないのか、とにかくソンヒは午前中の授業は机の上に何もおいてない状態で受けていた。
この朝、ソンヒが学校に来た時から変わったことと言えば、ソンヒの机がどこからか運ばれてきた、ということだけであって、その真新しい机を前にして彼女は座っているだけであったのだ。
ケイスケはソンヒが外国人であり敵国人でありしかもやたらと世界及び日本から嫌われている朝鮮人であることを既に他の先生に話しているのだろうか、その不自然に真新しい机を前にジッと座っているソンヒにどの先生も反応を示さなかった。
まるで空気がそこにあるかのように…。
そして昼休み。
いつものようにユウカ、ナノカ、キリカ、ナツコに外国人組と俺は揃ってカフェテリアのほうへと移動していた。
「待つニダァ!!」
それを追いかけてくるソンヒ。
「ン…(右足を軸にして)ダヨォ?!(身体を半回転させてソンヒが向かってきたところへ蹴りを入れる)」
「あッぶな!!何するニダ!!」
「反射的に蹴りを入れてしまった」
「そんなことより、みんなどこにいくニカ?」
「昼食を食べに行くんだよ」
「ウリも行くニダ!」
クソ…こいつは無視しようと思ってたのにしつこく俺達の後をついてきやがる…。
「とてもおかしいニダ」
などと言いながら。
「何が?」
「この学校では授業中にみんな静かに席に座ってるニダ」
「いやいやいや、当たり前じゃん、当たり前田のクラッキング講座じゃん。ソンヒの居た学校が肥溜めみたいな場所なだけじゃん」
そういえば前にコイツの学校に任務で先生として行った時は、教室の後ろのスペースで野球をしたりプロレスをしたりと、お前等本当に高校生か?ってレベルの休憩の取り方などをしていた。
学校の先生としてそこに務める事になってる人達はきっと先生以外の特別な資格を持っていて、何かしらの問題があれば黄色の救急車を呼んでその人間的な欠陥を持っているであろう生徒どもを病院へと運んでくれるんじゃないかと期待していたりもした。
あいにくその瞬間に立ち会う事はできなかったが。
そうこう考えるうちにも俺達は食堂へと到着した。
ソンヒはカフェテリアの上部を辺りを見ながら、
「ここにはメニューはないニカ?」
などと言っている。
それにはクラス委員長として当たり前の事をするように、ユウカが答えた。
「そうよ。ここはバイキング形式なのよ」
「バイキング形式?!食べ放題ニカ?!」
貧乏人はバイキング形式を『食べ放題』と呼ぶけど、やっぱりそのとおりに言いやがった。だいたい『食べ放題』って言っても胃には限度があるんだからな、いかにもその語感が普段から食べてないですを誇張してる。
そして案の定、中国や朝鮮独特の行動をとるソンヒ。つまり…並んでいる人達の前の辺りまで突き進んで割り込もうとする。
確かにそれは中国・朝鮮などの発展途上民度低い国では当たり前の事で、そうすることで非難されるのはソンヒなのだけれども、俺達がソンヒと一緒にいる限りは関係者と見られるわけであって、そうなってくると白い目で見られるのはソンヒだけではなく俺達も含まれるわけであって…。
そうこう考えていたら自然と俺の身体は動き、不器用にも義手(骨折時のようにギプスをはめている)を使って背後からチョークスリーパーをキメていつの間にか珍獣(ソンヒ)を列の中から引き摺り出していた。
「何をするニカーッ!!」
「並べ珍獣ゥゥ!!」
「『並べ』とかどこにも書いてないニダ!!」
「どこにも書いてなくても並ぶのが暗黙のルールなんだよ!!空気を読めこのクソ野郎!!!」とさらにシメ上げる俺。
「ギャーッ!!」
叫ぶソンヒ。
民度ノ低イ国ノ人間ハ並ビマセーンッ!!コウヤッテ力デ抑エコムシカナイノデーッス!!」とコーネリアは四の字固めをキメる。
「ギャーッ!!」
叫びながら身体をガタガタと震わせるソンヒ。
「ソンヒとかメイリンがおかしな事をするせいで台湾人のボクまで白い目で見られるようになってるじゃないか!!」と言いながらマコトは腕ひしぎ十字固めをキメる。
「ギャーッ!!」
叫びながら泡を拭いて失神するソンヒ。
そんな状況をユウカ、ナノカ、ナツコ、キリカは「私は部外者です」とでも言わんばかりの他人っぷりの白々しさで静かに通り過ぎていった…。
さて。
それぞれがいつものように食事をテーブルまで運んでくる。
ユウカは相変わらずの菜食主義だ。
豆にサラダに豆スープにパンだ…コイツは一体どこからそのおっぱいを構成するのに必要な養分を取得してるんだろうか…豆か?
ナノカは相変わらずコーヒーと甘いものが皿にどっさり…。ケーキバイキングだと勘違いしてるのか。
俺の彼女であるキリカは食事については気取らず、ご飯物、汁もの、肉に野菜とバランスよく食べt…野菜がない。
そういえばキリカは野菜の類はポテトサラダとかマカロニサラダぐらいしか食べてないとか言ってたような気がする。…っていうかマカロニサラダなんてのを野菜と認識してる辺りがもうヤバい。
それはマカロニにサラダドレッシングを掛けてるだけであって、それで自分はサラダを食べたと勘違いしてるだけだ!!アメリカ人が和食はヘルシーだから野菜食ったと勝手に勘違いするのと同じだ!!
コーネリアやナツコに至ってはもう野菜を摂る事が悪だと思っているかのように、すさまじい偏食っぷりで肉の入っている料理ばかりを集めている。今日はまだ3品だからいいものの、日によってはバイキングに並んでいる肉料理が1品だけしか無い場合もあり、その時はその1品を3品分ぐらい皿に持ってパンと一緒に食っていたりする。
家でもナツコはこんな感じでケイスケやマコトが作った料理にニンジンやら玉ねぎやらピーマンが入っていると綺麗に皿の隅にどけてしまうからなぁ…。スプラッター映画を見ると食文化までアメリカに影響されるのかなんてふと思ってしまったりする。
コーネリアが自宅で何を食べてるかは知らないけれど、まだ学校のカフェテリアだから栄養士がバランスを考えているけれど、最初っから彼女が自分で食材から選んでいたらきっとステーキを焼いて焼き肉のタレをかけたものとパンとか、もう野菜のヤの字も入りきらない偏食メニューになりそう。
マコトは…日本に来る前は料理の修行をしてたっていうからか、選ぶものも手の込んだものを選んでいるみたいだ。悪い味のものを普段から食べていると、料理をする時に自分の味覚がズレてしまって、出来上がるものが悪い味のものになる、とマコトは前に話していた。
なるほどそれでか、マコトの作る料理は微妙な味加減が素晴らしくて、素人の俺からするとよくわかんないけど同じ料理なのにコンビニとかと全然味がいい、なんかこれ料亭とかで食べたら高いだろうなぁ、…などと思わせてもらってる。
さてと…。
俺は覚めた目で「どうせクソみたいなものをクソでも食べるように皿に盛ってきてるんだろうな」なんて言わんばかりで、ソンヒの前にある料理を見てみる。
ん?
なんか全体が凄い「赤い」
まるで血でもふりかけてるんじゃねぇのっていうぐらいに赤い。
えぇと…よく目を凝らしてみると、
ご飯の上にはキムチ。
なんかキムチと肉をごっちゃにしたような肉料理。
キムチで出汁をとったようなスープ。
そしてキムチ単品。
俺が尋ねる前にコーネリアが言う。
「キムチナンテ、ドコニアッタノデスカァ?」
ドヤ顔でソンヒが言う。
「ウリが創りだしたニダ」
創りだした…だとゥ?!
そういえばコイツのドロイドバスターの能力は物質変換…いわゆる創造主の『創造』の力である。まさか今しがた皿に盛ってきた食べ物の一部をキムチに変えただとゥゥゥゥゥゥゥ?!
「クックック…キムチはどんな料理とも合う万能食材ニダ」
食材とか言ってるし!料理だろうが!
いや、朝鮮では食材の扱いなのか?!
「世界中に朝鮮文化を広める為に、ウリのキムチを分けてあげるニダ。好きなものを食べるニダァ」
などと言いながらニンマリ笑って己のバイキングプレートを差し出すソンヒ。しかし…なんかムワッとキムチの独特な臭いが漂ってきて俺もコーネリアも思わずイナバウアーしてしまった。
「No…Thank you…」
鼻を摘みながらコーネリアはキムチを断った。
すると今度は俺に薦めてくるソンヒ。
「い、いらない…前にテレビで見たけど、朝鮮産キムチには寄生虫の卵が入っててそれを食べると脳の中で寄生虫が孵化して脳を食べ散らかして頭の中がスッカラカンになるらしいからいらない…」
「おいいいいいいいいいいい!!!そんな突拍子もない嘘話を信じてウリの国を馬鹿にするのをやめるニダァァァァァ!!!」