165 気にならない転校生 2

朝の会が始まった。
ケイスケが入ってくるとクラス全体を見渡してから、
「えっと、今日は皆さんに新しいお友達を紹介するにぃ…不本意ながらァ」
なんて言い出す。
転校生?
ってどこにいるんだ?
そういえば廊下の方から転校生の姿がチラチラと見える…けれど、顔は見えないし、背が俺並みに低いのだろうか窓ガラスにはツンと空に立った後ろ髪だけが見える。
「入ってくるんですにぃぃぃぃぃぃォォォォァァァ!!!」
それからケイスケは額に青筋立てて…つまりブチキレ気味に廊下に向かって怒鳴り散らす。ったく、そんなに怒らなくてもいいのに、ケイスケがマジキレするなんてよっぽどのビッチか男が転校生ってことじゃないか?
廊下の扉をゆっくりと開け、転校生が教室へと入って、
…。
「ン…だとゥゥゥゥ?!」
俺は驚いた。
と言うか、俺すらもケイスケと同様に青筋を立てそうに、いや、思いっきり立てて怒鳴った。みんなは転校生が誰なのか知らないから俺がどうして怒っているのかわからないし、まぁ、マコトやコーネリアはある程度はその理由がわかるわけだ。
「人が転校して来て第一声が『ンダトゥ?!』とは何事ニダ!!」
そう叫んだ。
クソ・ソンヒが。
ドロイドバスター・コンセプトモデルであるソンヒは言うまでもなく俺と同様に美少女なので男子生徒は全員そちらを目を見開いて見るし、美少女なので女子は悔しそうな顔でそちらを見る。違うのは俺やケイスケがブチキレモードになっていることだ。
ケイスケは紹介を始める。
「えーっと…在日朝鮮人で不当に生活保護を取得し、在日特権のお陰で税金も免除されている『パク・ソンヒ』さんです、皆さん、これからも仲良くしてくださいィ…」
って思いっきりイジメてあげてくださいって言ってるようなモンじゃん。
「おいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!ウリの名前は『金村ゆみ』ニダ!!なんで本名をスラスラ言うニカァァァァァァ?!」
するとケイスケは凄まじい力で、あろうことかドロイドバスターのソンヒの首を締めたまま空中に持ち上げて、
「なんで転校生の紹介で通名を紹介させるにぃぃぃぃぃォォォォァァァァァァ!!!」
と雄叫びをあげる。
「ぐ、ぐぎぃぃ…」
白目を向いて泡を吹き始めたあたりでケイスケはソンヒを開放した。
あっちゅうまに回復したソンヒはピョンと立ち上がってから、
「ウ、ウリは朝鮮人じゃないニダ!!」
「そんな嘘は通用しませーっんッ!!」
「う、嘘じゃないニダァ!」
もう泣きそうになりながらソンヒは叫んでいる。
朝鮮人は名前の中に濁点が入るような言葉を入れないにぃ…つまり、『金村ゆみ』という名前には濁点がないから朝鮮人ですォォォォァァァァァ!!!」
…なるほど。
って、それは2ch情報じゃないか?
そうなると石見圭佑(いしみけいすけ)も濁点が入ってないから朝鮮人になるし、早見裕香(はやみゆうか)も濁点が入ってないから朝鮮人に…。
いや、怒りっぽくて自尊心が高いから朝鮮人の可能性もあながち捨てきれないぞ!
そうか!ユウカは朝鮮人だったんだ!!
俺はジト目でユウカを睨む。
睨み返してくるユウカ…やっぱり朝鮮人か!!
「そ、そんな事を言ってたら名前に濁点が入ってない人はみんな朝鮮人ニダ!」
「そうそう!朝鮮人ですぉ!!」
いや、君、それ自分もそうですって言ってるようなものじゃん…。
「おかしいニダ!差別ニダ!謝罪と賠償を要求するニダァァァァ!!」
泣き叫びながら床をドンコドンコと叩くソンヒ。
「えぇ〜…では、なぜ、名前に濁点が入ってない名前が在日朝鮮人通名に利用されるのか、疑う皆さんの為にこのわたくし、石見圭佑が証明して見せましょう…(白目)」
「はぇぁ?!」
…。
そんな証明ができるのかァァァ?!
ケイスケは英語の先生よろしく、
「リピート・アフター・ミー?」
とかソンヒに言い始める。
「な、なニカ?」
「ざ・じ・ず・ぜ・ぞ」
…。
なんだそれ?
ざ・じ・ず・ぜ・ぞ…濁点つきのさしすせそだ。
ケイスケはわざとらしく耳の後ろで手を広げてソンヒがケイスケのざじずぜぞをリピートする様を聞き取ろうとする。
ソンヒはきょとんとした顔でざ・じ・ず・ぜ・ぞをリピート…、
「じゃ・じぃ・じゅ・じぇ・j…」
凄まじい早さでケイスケの巨大な手がソンヒ…あろうことかドロイドバスターのソンヒの首を掴んで思いっきり白板に叩きつけた。
日本人ならこれが言えて…朝鮮人にはこれが言えない…のか?!
朝鮮人朝鮮語を話してて、朝鮮語は日本語と濁点の発音が違うから、きちんと発音できないにぃぃぃォォォァァァ!!これで貴様が朝鮮人であることが証明されたァァ!」
再び白目を向いて口から泡を吹くソンヒ…。既に転校初日でこの転校生である美少女は2回もみんなの前で白目・泡吹きをしてる。そして今は痙攣までしてる。
さすがに見かねたクラス委員のユウカがケイスケに物申す。
「先生、確かに朝鮮人は敵国人だけれど、ちょっと酷いじゃないんですか?中国人のメイリンが転校してきた時は先生は差別はよくない!って言ってたじゃないの?」
それにはウンウンと皆さん頷いた。
まぁ主に頷いたのは男性が多いわけだ。そりゃ美少女が首締められて白目向いてガタガタ身体を震わせながら泡を拭いてたら、男性ならマニアでもない限りは止めたくなる。
俺は男性だけどクソ・ソンヒの性格知ってるから止めないけど。
「差別ゥ?!」
ケイスケはソンヒを開放してからユウカに聞き返す。
「そうですよ、差別はダメだとか、イジメはダメだとか」
「先生は差別と朝鮮人は大嫌いですにぃぃぃぃぃォォォォァァァァァァ!!!」
おいおい…。
「とにかく、ウリの席に早く案内するニダ!早くしないと差別で訴えるニダァ!!」
なんちゅぅ回復力なんだよ…もう文句言ってるし。
「クソンヒの席なんて無いですにぃ!!」
って先生が言うことかよ…。
「あ、あそこに空いてる席があるニダ!」
歓喜の表情で空いてる席に向かおうとするソンヒの手を掴んだケイスケ。
「それは…」
背後からソンヒの左足に自分の左足を絡めるようにフックさせ、
メイリンちゃんのォォ」
ソンヒの右腕の下を経由してケイスケの左腕を首の後ろに巻きつけ、
「席ですぉぉォォォァァァァァッ!!!」
背筋を伸ばすように伸び上がるった!!
ケイスケのコブラツイストがソンヒにキマった。
「ギギギギギギギギギ…」
ソンヒが被曝した広島県民のような叫び声を上げる。
「なんで空いてたら勝手にそこを自分の土地にしようとするんですかォォォォァァァァァァ!!!戦後の混乱期に駅前とかの土地を勝手に占拠してずっと居座っていたりするのはやっぱり朝鮮人だからなのですかォォォァァァァァッ!」
「ウリが転校してくるのわかってたら席を準備しておくべきニダァァァ!!」
泣きながら叫ぶソンヒ。
「席は準備するから、準備できるまで廊下に立っておきなさい…」
「差別ニダァァァァァァァ!!!」