165 気にならない転校生 1

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は飛び起きていた。
「キミカちゃん!大丈夫かい?!」
マコトが駆け寄ってくる。
そう、ケイスケの家、俺の部屋で迎えた朝に俺は飛び起きたのだ。
別に怖い夢を見たとかじゃない。戦争帰りの人が「まだ俺の戦争は終わってないんだよ!」とか言ってPSTDの悪夢に魘されるってのがあるけれどそういうものじゃない。
「い、今…何日?」
俺は再び確認した。
再びっていうのは朝起きてから目覚まし時計の液晶を見て、今日が何日か見てしまって、それが本当に俺が見たもので確かに日付にズレなどが無いのかマコトに聞こうと思ったのだ。
「えっと…9月10日かな」
…。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は髪を掻きむしった。
「どどどど、どうしたんだよ!キミカちゃん!」
震える声で俺は言う。
「夏休みが…終わってる…よ?」
「ま、まぁ、そうだね。キミカちゃんが任務に行っている間に終わっちゃったよ」
漫画ならアセジトでもでそうな引き攣った表情で俺を見ているマコト。
そう、夏休みが終わってしまっていたのだ。
俺が中国の任務を終えて日本に帰ったら貴重な夏休みが終わってしまっていたのだ。
「あたしは夏休みを満喫してないんだからこれから年休をとります…」
「キミカちゃん会社員じゃないんだから…」
俺はしぶしぶ制服に着替えようとした。
その時だ。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
再び俺は叫んだ。
俺の右手がない。
利き手がないのだ。
「あ、これは無くなったんだった」
中国のクソ任務の時に孫悟空というクソ猿ドロイドバスターに同化させられて神原駿河も真っ青の猿の手状態になったのだ。その後、これ以上同化させられるのを防ぐためにセカンダリを召喚したのち自ら腕を切り落とした。
そんなキチガイじみたことを何の脈絡もなくしようなどとは思わない。…ケイスケに作ってもらおうと思っていたからだ。
「そういえば先生、まだキミカちゃんの腕は完成してないって言ってたよ」
「え、マジ…で?」
腕なしでグラビティコントロールを用いて器用に着替えた俺は階下へと降り、ケイスケにマコトにいましがた聞いた真実を問いただした。
ケイスケはベーカリーの中から普段から食っている米粉パンを取り出してまだ香りが漂ううちに動物性バターをタップリと塗り、上に塩を振りかけてからモグモグモグモグと食っている。そして食いながら、
「キミカちゃんの腕は生成に時間がかかるんですにぃ」
「え、じゃぁあたしは今日学校に行くときはどうするの?年休とったほうがいいの?」
「年休とか会社員じゃないんだから…」
マコトと同じツッコミをするケイスケ。
するとケイスケは包帯がグルグルに撒かれた明らかに『手』って感じのそれを俺の前に置いて、案の定「これをつけて骨を折りました的なことを言ってれば学生はバカだから騙せるにぃ」などと言いやがる。
確かに腕がない状態を見せびらかすというのはやたら気を使わせるから嫌だし、ふとすれば障がい者援助団体に見つかって勝手に団員にされてテレビとかで日本の障がい者に対する認識の甘さは世界的に見て云々云々…などと言わせられる話も想定される。
とにかく、手が無い状態はあまり見せびらかすべきじゃない。
しぶしぶ俺はその義手ならぬ、骨折レプリカを装着した。
朝食を兄貴と一緒に食べていたナツコはそんな俺を見て一言、
「もしお兄様のキミカさん腕生成に時間がかかるのでしたら、わたくしが義手を取り寄せてもかまいませんことよ?柏田重工では戦闘用サイボーグも開発しておりますわ」
などと言う。
「ついにあたしもアナキン・スカイウォーカーになる時がきたのね…フォースの暗黒面のエネルギーが満ち溢れて、あっちゅうまにそっちに落ちそう(ゲス顔」
「それは最後は師匠と戦って全身サイボーグ化されちゃうフラグだよね…」
そんな話をしながらも、しぶしぶ俺は学生なので学校へと向かった。
夏休み明けに骨折って小学生じゃないんだから…なんて思ってはいた。みんな俺が骨折(実は腕を無くしているわけですが)してるのを見て驚いている。
学校へと向かうまでがこれなんだから教室に入ろうものなら…と、思いつつ教室に入るとやはり、キミカファンクラブ面々から真っ先に俺を見て驚いている。
「姫ッ!その腕はどうしたんですか!!」
「あぁ、これ?かすり傷だよ」
「骨折してるではないですか!!」
「あはは、大丈夫大丈夫」
などというやりとりが5分程度。
それが終わったかと思うとユウカとナノカ、それからキリカが俺に近寄ってくる。
「夏休み明けに休んでると思ったら骨折してたの?小学生じゃあるまいし」
と言うのは皆さんご承知の通りユウカ・ザ・ビッチである。
さすがはビッチ、人を傷つける物言いでは引けをとらない…。
「キミカっち、そんな腕になってしまって…うぅ…それじゃオナニーできないね…」
と言うのは皆さんご承知の通りナノカ・ザ・レズビアンである。
さすがはレズビアン、キマシタワー的な発言しかアウトプットされない。
俺は最後の望みであるキリカに期待した。
「キミカは迂闊…ちゃんと小鳥遊の言うことを聞いて自らの感情をコントロールしていれば、こんな事にはならなかった…」
っておいおいおいおいおい!
おいおいおいおいおい!!!!!
おいぃぃぃぃぃぃぃ!!!
なにネタバラシしてるんだよ!
っていうかもう俺の心及び記憶を読んだのかよ!!
「ダークフレイムマスターは腕を失った時、ニヤリと笑いながら『チッ…片腕一本持って行かれたか…まぁこの程度ならy…モゴモゴモゴ」
俺はキリカの背後から左手で思いっきり口を塞いだ。
片腕一本失ったとかネタバラシすんな!!
「失った?骨折じゃないの?」
ユウカが勘付き始めたじゃねぇか!!
「いやいや、いつもの中二病ですよ、すいませんねー」
と俺はキリカの口を抑えながらヘラヘラと笑った。
ふぅ…あぶねぇあぶねぇ…。
さて。
最後は…外国人の連中が絡んでくるわけか。
「Heeeeyy…ドウシタノデスカー?ソノ腕ハ?アナキン・スカイウォーカーノ真似デスカ?キミカハドッチカッテイウト、マスター・ヨーダノホウデスネー」
スターウォーズネタはもう今朝済ませてきたよ」
「Oh…ヤハリ腕ガ不自由ニナッタ時ハソノネタデスヨネ!」
「んん?メイリンは?」
絡んできたのはこの外国人(コーネリア)だけか。
メイリンは来てないのかな?
メイリーンハ夏休ミ明ケカラ、ズット欠席デーッス!!」
「あら?そうなんだ?」
マコトも言う。
「ん〜なんだか中国の方に戻ってるって言ってたような…」
「ソウソウ、メイリーンノアパートノ人ガソウ言ッテマシターッ!」
…思い当たるふしがないわけじゃない。
メイリンは中国から密入国してきてたわけで、何らかの事情が中国の方であったからメイリンが戻って対応しなければならなくなった…という可能性はある。
メイリンが政府関係者だってことはうすうす分かってはいるけど、あいつがいるのは…えっと、南のほうになるんだっけかな?中国が内戦で3国に分裂してるわけで、その一番南がメイリンがいる国で…やっぱり政権転覆が影響してるっぽいな。
そんな話をしている間にもコーネリアが冗談にもほどがあるっていう、メイリンの机の上に花瓶を生成したりして遊んでいた。ったく、それが本当になったら冗談じゃ済まないわけだからな…俺はそれを左手操作のブレードで叩き割って言った
「縁起でもないよ!」
「Wow!」
予鈴がなったのはその後だった。