163 三十六計逃げるに如かず 5

動物的な本能として、周囲に何らかの群れが現れ、それらが全員自分自身を攻撃対象として認識したのち、襲いかかろうとしている状況について、勝算の可能性について脳は確率が低いと計算結果をはじき出すだろう。
今、まさにその状態だった。
これがアミューズメント・パークの猿山の猿なら手に持っている餌を手放せば見逃してもらえるだろうし、その餌がお土産であってもその金銭的な痛手を追う程度で済まされる。が、今、連中のターゲットはお土産でも餌でもなく俺自身であり、そして何よりただの猿ではない。猿マワシの猿のように孫悟空が着ているかのような道着を着用したドロイドバスターの猿なのだ。
見せ場なんて用意するはずもない。
既に1 on 1が許される状況は過ぎた。
連中は一斉に容赦なく俺に襲いかかってきた。
心眼道の構えで猿を交わしたのち、通り過ぎざまにグラビティ・ブレードで切り刻む。と、同時にもう1方向から襲いかかってきた猿は蹴り飛ばす。
セカンダリのほうに襲いかかってきた猿は1匹はグングニルの槍で突き刺したのち、もう1匹は槍の柄の部分で突き飛ばし、さらにもう一匹を突き刺す。
猿串の出来上がりである。
そして焼き鳥屋のオヤジが売れ残りの焼鳥を竹串から分離するために包丁で削ぎ落とすように、孫悟空どもをブレードで叩き切る。
だが続けざまに次から次へと猿が襲い掛かってくる。
こりゃ高崎山自然動物園の飼育員もビックリの攻撃性だよ。
グラビティコントロールを使い身体を軽くしたのち、セカンダリの肩に手を掛け、飛びかかってきた猿に回し蹴りを食らわせ、セカンダリセカンダリで俺自身が居なくなった周囲のスペースに対してグングニルの槍をブン回す。
回転に巻き込まれた猿がミンチになる。
これで少し距離を稼げたら近距離武器から遠距離武器へと切り替える。
俺とセカンダリは同時にキミカ部屋から武器を取り出した。
俺がショックカノンで、セカンダリはレールガンだ。
開いた距離に接近してくる猿をショックカノンでミンチに、レールガンでミンチに。もうハンバーグができるんじゃねぇのかっていうぐらいに激しくミンチにしていく。
「って、なんじゃありゃァァアァァァッ!!」
襲いかかる猿の奥の方に俺達が殺しまくった猿の肉塊がぶよぶよと集まって、一匹の巨大な孫悟空が作られていくではないか。しかも今までの道着じゃなく鎧のようなものを纏っている。
コイツ、こんな事もできるのかよ!
無駄とは思いつつも隙を見てはショックカノンでデカイ奴を攻撃するが、鎧が弾き飛ばされるだけで肉のほうにダメージは通じない。吹き飛ばされてもどんどん修復されていく。
「…ッブネェ!!」
巨大な猿は同じく巨大化した如意棒を軽々と振り回して道路に転がっているトラックをジジイがゲートボールをするが如く、軽々と俺達に向かって打ち込んでくる。
すかさず俺は周囲の大破していた戦車をグラビティコントロールでかき集めて防壁を作る。いくつかの猿が防壁に巻き込まれてミンチになり、そして防壁によってトラックは塞がれて、それでも俺の方へと勢いが収まらず飛んでくるトラックをマスター・ヨーダも驚きのフォース(グラビティコントロール)によって止める。
その間はセカンダリを操作して猿どもの攻撃を防ぐ。
とりあえずあの巨大猿を止めないと、あれはいつかは俺達にとって大きなダメージを…、
って思っていたらやはりすかさずその一番大きなダメージを喰らわせる方法で容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
あの如意棒をそのまま巨大化させながら俺達のほうへと振り下ろしてきたのだ。
ブレードで…防げるか?
まさかへし折れるなんてないよね?
居合い斬りの構えでキミカ部屋から引きずりだしたブレードでギリギリ、俺の顔面直前で巨大如意棒がガードされた。だが、何故かその如意棒そのものに衝撃波のような力が加わっており、俺とセカンダリの周囲を吹き飛ばしクレーターを作る。
「これは…」「キミカ・インパクト…」「だとぅ?!」
俺とセカンダリが交互に叫んだ。
俺が放つインパクトに比べると劣化版といったところだろうか、それでも十分な攻撃力はある。周囲の自分自身である猿どもを押し潰しながら俺達も巻き込んで潰そうとする。
ミシミシと音を立てて道路が揺れる…。
さらに力が加わってくる。
俺のデフォルトに備わっているプラズマフィールドが削れる。
バリアが削がれたらもう紙細工のように潰されてしまう…。
前にスカーレットがやっていたのは恐らくパワーコントロールインパクトのエネルギーを変換したんだろう。俺にはそれが使えないからグラビティコントロールを全開で上方向に働かせるしかない。
俺はセカンダリをキミカ部屋へと収納した。
同時にフルパワーのグラビティコントロールを上方向へと働かせる。
力比べだ。
そして同時に、キミカ部屋内、アサルトシップのタチコマフチコマが格納してある倉庫でセカンダリに首切りチャクラムならぬ『リッパー』をスイッチオンの状態で持たせた。
「お嬢ゥゥ、何してんだァァ?」
「おぉ?キミカ姫がキミカ姫部屋内にいるゥ?!」
格納庫でバッテリー給電しているタチコマフチコマが俺(セカンダリ)に話しかける。
「スーパー必殺技を繰り出すのさァ!」
セカンダリが叫ぶ。
「スーパーとかつけると大抵は大したことないオチなんだよなー」
とか糞タチコマが言う。
「おいおいおい〜、頼むからこの中で暴れないでおくれよォ?」
とか糞フチコマが言う。
構わずリッパーを限界までグラビティコントロールを振り絞って一直線に飛ばす。倉庫内でそんな事をするとかキチガイとしか思われないだろうが、そこでェ〜そこからのォ〜。
「口寄せの術!」
キミカ部屋外に居る俺本体が倉庫の壁に衝突しそうなリッパーをギリギリで今の次元へと転送。倉庫内のベクトルと加速度を保ったまま召喚されたリッパーは、猿どもを真っ二つに粉砕しながら、何が起きているのか理解できずにただ糞棒を俺に振り下ろしたまま固まっている大猿の股、キンタマが生えているであろうクソ股の下側から上に向かって、一直線にレーザーブレードが押し上がる。もう金玉は真っ二つどころか猿のチ◯コも真っ二つにし、腹から胸、首、頭に至るまで均等に真っ二つにしてさしあげた。
猿の2枚おろしだ!!
ビルの谷間で2つに切り裂かれた巨大猿は重力にまかせてそれぞれの肉がよれて、地面に落ちていく…が、そこで空中で肉塊が次から次へと小猿へと分解されていく。
大猿が分解されて小猿や、小猿が複数集まって中猿になり、それらは一斉に俺に向かって襲い掛かってくる。
「本物のキミカ・インパクトっていうのはぁぁ…こうやるんだ糞猿!」
地面に両手をつく。
自分でもわかるほど、黒い波動が手の先から水平方向へと広がって周囲の小石や埃などを一瞬宙に押し上がる。が、すぐにそれは元に戻る。
その後、俺の周囲の地面が10メートルかそこら上空へと押し上がる。
小猿も中猿も押し上げられる。
と、同時に空から重力波が地面へと着弾。
猿どもの血、肉、骨がトマトをぶつけたかのように周囲に撒き散らされ、その汚らしい血の雨が俺のほうにまで降り注いだ。それらをグラビティコントロールで止めて、地面を蹴り上がり、空へと高く飛び上がった。
まだ生き残ってるよ…なんつぅ生命力の強さだ。
とりあえず味方のところへ戻ろう。