161 アカーシャ・クロニクル 4

「きききき、きみかさぁぁぁぁ〜ん!!」
エレベーターホールへと戻ってきた俺達をまず出迎えてくれたのはエルナの震え声だった。この薄暗い場所で幼女その1とずっと待っていたからだろうか。
「どうしたんだよ?」
「どうしたもこうしたもないですよォ!!女の人の悲鳴とか男の人の声とか聞こえてきたんですからァァァァ!!!」
ひ…悲鳴?!
こ…声ェ?!
「特にそんなものは聞こえてないがのぅ。ワシは悲鳴はあげておらんぞ」
「いや、ちが…違う。あたしはあの実験室の中で夢みたいなのを見てて、その夢の中では悲鳴をあげてたよ…えっと、悲鳴っていうか『ンーッ!』という、」
「ヒィィィイィィィィッ!!!!」
「ウワーッ!!」
俺とエルナが同時に叫ぶ。
「それですゥ!!それですよォォ!!!」
「ま、マジでェ?!…議員は何か聞いたの?」
幼女その1に聞いてみるが、くまのぬいぐるみは両手で耳を塞いでいる。耳を塞いでいるつもりならしいが、残念ながらくまの耳はその位置じゃないから、そこ、人の耳の位置だから。
そのジェスチャーから察するに幼女その1はエルナと同じく聞いている。
あのくぐもった声の悲鳴を。
「あの、な、何を持ってるんですか?」
エルナは幼女その2のほうを見て言うのだ。
って、おいおい!!!おいおいおいおいおいおい!!!
「何持ってきてるんだよォォォォォォォォ!!!!」
思わず俺は叫んでしまった。
この糞ガキ、あの実験室から麻袋を2袋ほど持ってきてるじゃねぇか!
「記念に2袋ほど貰ってきたのじゃ」
「ヤメロォオォォォッ!!!」
「な、何が入っているのですか?」
言うが早く幼女その2はエルナに向けてニンマリ笑ってから、麻袋の中から綺麗な人間の頭蓋骨を取り出すと、顎の辺りをカクカク動かしながら、
「これを拾ってきたのじゃ〜」
とまるで頭蓋骨が話してるかのような演出をしながら答えた。
「ヒーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
エルナ、くまのぬいぐるみの背後へと隠れる。
「この骨は小さいからチンコの骨かのぅ?」
チンコの骨とかねぇから!!
そうこう言いながら、帰りもあの人が住んでいるエレベーターを呼び出した。
イソイソとそれに乗り込むエルナとくまのぬいぐるみ。よほどここが怖かったらしいな、我先にと乗り込んで俺達がまだ乗ってないのにエレベーターの扉を閉めようとすらしている。
「ところで、キミカとやら」
幼女その2が俺に聞いてくる。
「ん?」
「ドロイドバスターの生成というのは、どういうものなのじゃ?肉体改造ではないのかえ?」
「さ、さぁ…?」
「ワシは化学には疎いが、どうも、この麻袋の中の死体はどれも同じ殺され方をしておるようなのじゃ。なんとなく、その理由はわかる」
「腐食性のガスで殺してたかな…あたしのビジョンの中では」
「うむ。そうなのじゃ。一番死体の処理に困らない殺し方なのじゃ」
「あぁ〜…」
あれだけ殺してたら死体を置く場所にも困るだろうし、可能な限り『コンパクト』に収納したいと考えるはずだ。もし麻袋を定期的に業者が回収してるとしたら…まぁいい、ここから先は考えないことにしよう。
考えたところで死人は帰ってはこない。
再び幼女その2は俺に質問する。
「ドロイドバスターにするということは、肉体改造ではなく、殺す事なのかぇ?」
相当にドロイドバスターに興味深々っぽい。
俺に聞いたところで何も出てこないだろうに。
「あたしの知ってる限りだと、死んでからまだ生きていく気力がある人に何かの処置を施して、培養液の中でつくり上げるって事だったと思う」
「つまり、キミカ。お主も一度は死んだという事か…」
「ま、そうだけど」
それを聞いていたエルナとファリンは驚いて俺に聞き返すのだ。
「「し、死んだ?!」」
「人はいつかは死ぬものなんだよ」
と、道徳の先生が言っていた事をそのまま口に出す俺。
「き、キミカさん、どうして死んじゃったんですかァ…」
どうしてって言われてもね…。
「腐食性のガスで死んだか?」
いや、俺の場合はマッド・サイエンティストに殺されたわけじゃないし…。
「どうしてあたしが死んだかについてはノーコメントです。それ言っちゃうと個人情報だし、エルナに話したら日本中にプライバシーが知れ渡っちゃうし」
「んもー!!私はそんなにペラペラ話したりしませーんッ!」
「するッ!絶対にする!!上の口も下の口もユルユルだからね!」
「ちょっ、下の口ってなんですかァ!ユルユルってなんなんですかァァ!!」
涙を流しながらエルナが俺に抗議する。
エルナと俺が普段そうしているように会話をしているなか、幼女その2は物憂げな顔でジッと暗闇を見つめていた。ちょうど大腿骨辺りの骨を持って。
そして、何か考え事をしているのだろう。
ぶつぶつと何か言っている。
「ドロイドバスターとは何なのじゃ…」
ふと、そう聞こえた。
俺にも正直なんなのかわからなくなる。
そういう意味だと人だって動物だって、『生命』だって何なのか?を誰かが答える事すらできないじゃないか。何なのか?という視点ならきっと人間が創りだした様々なものは、人間よりも何なのかについてはっきりしているだろう。その、存在理由が。
まぁ、そういう意味で、堂々巡りで元へ戻ってくると、ドロイドバスターとは、人様のお役に立つために生み出された何か?なのだろう。
少なくとも明智教授に資金や人を提供してくれていた人間達にとっては、多くの犠牲を払ってでもドロイドバスター化させることが何らかの大きな意味があったのだと思う。
そうでなければ犠牲となった人達の魂は泛ばれない。
人の命を弄ぶようなマッド・サイエンティストに殺されたのだから、余計にだ。