160 叔母を探して3000里 6

先ほどからファリンは店員に痛烈な抗議をしている。中国語なので何を言ってるのかわからないけど、雰囲気はそんな感じ。
席に戻ってきて、
「この鍋に入ってる肉、中絶した時の赤子」
などと言う。
とりあえず俺的には人肉が男だろうが女だろうが赤子だろうが子供だろうが、人肉であった時点でどうでもよかったりする。それはカレーの中にウンコが入っていたとして、それは佐藤さんのウンコですとか言われてもウンコはウンコなのだからと同じ定義だ。いや、人によっては佐藤さん(女:16歳)のウンコですと言えば喜んで食べる人もいるだろう…やめておこう、もうモノローグもグロいと公衆の門前で朝食すら吐き出してしまいそうだ。
ファリンは髪をかきむしりながら言う。
「もう信じられない。中国人、足があるものはテーブル以外なんでも食べると思われてしまう!!」
いやいや、君がそんなの気にしてるよりもウン百年前から世界の常識になってるから…もう気にしなくてもみんなそう思ってるから…。
「心配することはないじゃろう、足があるものにはテーブル以外にもドロイドがある。幸い、ドロイドを食べた中国人はおらんて」
全然フォローになってない事を幼女その2が言う。
「どうしてくれるのだ!思いっきり汁を飲んでしまったぞ!!」
幼女その1がその2に突っかかっていく。
「汁を飲むのは正しい食し方だから問題ないじゃろう」
「そもそも人を食べようというのが間違っているのだ!」
「一番高いものをとお主らが言うから…」
「一番高いもので日本人でも倫理上食べることができるものと付け足しておくべきだったのか?!ついでに爆発しない食べ物も付け足しておくべきか?!プログラミング言語じゃあるまいし事細かに条件を出さねばならぬのか!!ったく、まだ口の中に子供の体液の染みだした出汁の残り味がウロウロしているのだ!しかし水でそれを洗い流そうと思っていても、この店の事だ、水の中にも子供の体液その他もろもろが入っていそうな気がするのだ…ウワァァ…気持ち悪い」
身体全体に鳥肌立てながら、幼女その1はそう言って、安全地帯であるクマのぬいぐるみの内部へと入っていった。
「そういえば体液で思い出したけど、これって赤ちゃんの肛門とか大腸の辺りは誰の鍋の中に入ってたのかな?ウンチとかも入ってるんじゃないのかな?」
そう俺が言うと、
「ひぃぃいいぃぃぃぃ!!!」
叫び声をあげるエルナ。
「どうしたの?」
「今、鍋の中探してたら肛門が出てきましたァ!!」
「うわぁぁぁ!!エルナのところにウンチが入ってるゥ!!」
「やめてくださいよ!キミカさんがそんな事言い出すから、私は知らなくてもいい事を知ってしまったじゃないですかァァッ!」
「ちょっと、エルナ、赤ちゃんの肛門及び大腸及びその中にあるウンチを食べた口であたしに向かって話掛けないでよ、臭い」
「ひぃぃいいぃぃぃぃ!!!(涙)」
…というわけで、結局その店では赤ちゃん鍋を少しだけ口に入れただけで、後は何も食べず、お金だけは全部払って出てきたわけだ。
「他にも桃娘というものがあってだな」
幼女その2がまたいらんことを言い始める。
「や、やめるのだ…なんか嫌な予感がするのだ」
「桃ばかりを食べさせて育てた娘を金持ちに売って、金持ちはその娘とセックスをしたりするわけだが、最後は殺して食べるのだ。その娘の肉はまさに桃の味が…」
「やめろと言っていいるだろうがァァァァ!!」
幼女その1が乗るクマのぬいぐるみが幼女その2を襟首掴んで持ち上げて空中でブンブンさせる。
「ほ、本当に中国ならそんな話がありそうですゥ…」
エルナが怯える。
ちなみに桃娘の話はネットに転がっている。時代としては今からン千年前の話だけどね。
「中国では日本人の倫理感覚では理解しがたい話がゴマンとあるのじゃ。そして、そういうものに憧れて日本の女どもが一人、バックパッカーをしておったりもする。わしも色々見てきたのじゃ」
腕を組んでウンウン頷く幼女その2。
「へぇ〜そうなんですかァ〜」
なんて反応をするのはエルナだ。
ここは君、聞いておくべきところだろう、なんて思って俺と幼女その1がエルナのほうを見ると、
「ふぅ〜ん、この時計、ロレックスらしいですよ」
とか明らかに偽物と思われるブランドモノ時計を手にとっているエルナ。ダメだコイツ、俺が一言言わんとあかんのか…。
「エルナ、人探ししてるんだよね」
「あ!そうでした!!」
すかさずエルナは幼女その2に向かって自分が中国に来た目的の一つを話す。祖母を探している件だ。
ひと通り聞いた後、ウンウン頷きながら幼女その2は言う。
「ここには日本人も含めて多くのバックパッカーが出入りしておる。年齢から察するに中国にやってきた時は既に高齢…で、この建物群が出来た年から推測されるのは、既にそのババアは死んでおるという結果じゃな。仮に生きていたとしても、このビル近辺では日本人のバックパッカーが連れ去られるという事件が過去に起きておったからのぅ…果たして本当に生きながらえているのやら」
「そ、そんな夢も希望もないこと言わないでくださいよォ!」
そう言って半泣きになるエルナ。
「エルナのおばあちゃんがもし見つからなかったとしても、その痕跡とかは知りたいみたいなんだよ」
幼女その2にそう説明する俺。
「ふむ…ではあそこに案内してやろうかのぅ…ひょっとしたら痕跡もあるやもしれん」
「あそこ?」
「日本人が連れ去られる、という事件が過去に起きていたが、その連れ去られた日本人はこのビル内で殺害されたと思われるのじゃ。その殺害現場…と思われる場所じゃ」
現場がまだ保存されてるのか?
「中国っていう混沌をごった煮したような場所で、まだ事件の現場が残っているというのが不思議だよ…本当にその場所?」
「というか、このビル内でも特別に『施工』してある場所で、犯人が逃亡してから誰も住んでおらんのじゃ」
そう言って幼女その2は俺達を物資運搬用と思われる一際巨大なエレベーターのある場所へと案内した。