160 叔母を探して3000里 4

今考えると、まさに「よせばいいのに」という事態だ…。
俺達はファリンに「なるべく高い食べ物を食べたい」などと言ってしまった。別にファリンの家で食べた中華料理とは言いがたい地味な味の地元ピープルの家庭料理についてではない、やっぱホテルで食べた中華料理の定番中の定番が忘れられなかったのだ。
重慶と言えば四川の料理だな。まだ食べてない四川料理はあったかのぅ?定番中の定番で言えば麻婆豆腐なのだが、いかんせん辛いものを食べるとウンチも辛くなるのか、肛門がヒリヒリするのだ」
などと幼女が恥ずかしげもなく言っているのだ。
クマのぬいぐるみの中から。
「お金はあるんですゥ?」
エルナが議員に聞くと、クマのぬいぐるみの中の議員こと幼女が、
「心配するな。ホテルで会談が始まる前に中国の紙幣に変換してきたからな、国が買えるぐらい持っているのだ」
そう言ってクマのぬいぐるみが中華の札束をブンブンと振り回す、悪趣味な光景が俺の目の前に広がってくる。おい、やめろ。ここが危険地帯だってことわかってるんだろうな?
俺の悪い予測はあたってしまった。
どっかの中国人のガキが走りながらクマのぬいぐるみの横を通り過ぎたと同時に、札束をくすねたのだ。何枚かは宙へと舞うが、98パーセントぐらいをがっしりと鷲掴みしているガキ。
しかし、その次の瞬間、ガキの頭を鷲掴みにして持ち上げる影。
巨大なクマだった。
いや、クマのぬいぐるみだった。
「幼女凄いな、華麗なぬいぐるみ操作にびっくりだよ…」
と俺は思わず口にしていた。
「ふっ、もう随分慣れてきたのだ」
そう言って幼女の乗ったクマのぬいぐるみ(体長2メートルぐらい)は軽々とガキを持ち上げた。
中国語で叫びまくるガキ。
ファリンがガキに中国語で叱っているようだ。
しばらくすると、幼女が悪趣味にも握って振り回していた札束をガキはファリンへと返していた。
「フハハハハハッ!中華民がこの私から金をくすねようなどと100万年早いのだ!4000年前まで戻って修行しなおせ!!」などと叫んで鋭い爪を高々に空にあげてポーズをとるクマのぬいぐるみ(幼女入り)。
ったく、どこの国でも金を見せびらかしたら誰かに盗られる可能性があるんだから、それこそ議員は幼女に戻ってちゃんと一から勉強するべきだと思うわ。あ、既に幼女だったか。
「なかなかおもしろい一団がおるようじゃのぅ」
…んん?!
俺は振り向いてエルナを見る…がエルナが発した声ではない。それにファリンもそんな流暢な日本語は話さないし、幼女が発した声とは違う。が、幼女っぽい声だ。
「誰の声?」
そう俺が言うと、薄暗いビルの影から民族衣装のような振り袖姿をした幼女…安倍議員とは別の幼女が姿を表したのだ。
「そんな滑稽な日本人を見るなんて何十年ぶりかのぅ…最近はバカな日本人旅行者ぐらいしか来なかったのに」
幼女は確かにそう言った。
というか、何十年もお前生きてないだろうっていう年齢だ。
おっぱいだってぺっちゃんこじゃないか。
「これはこれはびっくりしたのだ。お前、日本人か?」
議員が問う。
というか、日本人っぽいのは流暢な日本語でわかるが、それよりも俺が聞きたいのは「お母さんかお父さんはどこに言ったの?こんなところで幼女が一人でウロウロしてたらエロゲみたいな展開になるよ」ってことなんだが、それについては後で質問しよう。
「いかにも。そうじゃが、お主らはここで何をしておるのだ?旅行をするのなら重慶新市街地のほうが楽しいぞぇ。まぁ、今は銃弾飛び交う空間と化して、さらに楽しくなっておるがのぅ」
幼女の癖に色々と見てきたような事を言う。
エルナが答える。
「人探しをしてて、ちょっとお腹が空いたのでレストランを探してるところなんですゥ。その、お高い料理を提供してくれるところはないかなぁ〜なんて思って…」
「高い料理とな!!最近の若いもんはとりあえず金さえ払えば美味しくて安全な料理が食べれると思っておるようじゃの!」
目を見開いて幼女その2が言う。
っていうか、お前は最近の若いもんエルナよりもさらに若いもんじゃねぇかっていうツッコミを誰も入れないのか?俺が入れようかな?というか、既に若いもんである安倍議員幼女その1が偉そうにしてるのでかなり矛盾が多い物言いになるのだが。
「せっかくだから今日でしか味わえないような高級料理を教えてしんぜようかのぅ。そしてワシもついでにごちそうになろうかのぅ」
などと言い出す幼女その2。
「財布には余裕があるのだ。別に構わないぞ」
余裕の幼女その1。
そういうわけで俺達はついぞさっき偶然にも出会った日本人でしかも奇妙なジジババ言葉を話す幼女その2に案内されるまま、とある巨大雑居ビルの中へと侵入していったのだ。
ここで何が待ち受けているか、今、それをもし知っているのなら、俺はどれほどファリンの家の料理でよかったと思えただろう…。