159 反日デモ 4

トラックは重慶旧市街地のマンションやらアパートやら一戸建てなどの住宅地が乱立している道路を通っていた。
日本に比べると広い道路には通勤時間ではないがバスやら自動車やら自転車が激しく行き来するし、その間を生活臭漂う格好で中国人達が轢かれても文句言えないぐらいの間隔で車を横切る。
幾度か轢き殺しそうになったほどだ。その都度、激しくブレーキを踏んでから中国語で怒鳴るファリン。
ある汚らしい路地の横に駐車すると、ファリンは一人外に出て路地の奥へと走っていった。
「ここが目的地?」
助手席のほうまで身を乗り出して幼女 (in クマのぬいぐるみ)に聞くタエ。後ろにいる俺にはタエのピンクのセクシーパンティーが見えた。見えたついでに太ももと太ももの間の膨らみをツンと指で押す。
「ひゃッ!」
と可愛い声をあげるタエ。
しかし、その一瞬後には鬼の形相で、
「てぇンめェェェエェエッ!!!何やってんだコォラァァ!」
と俺の襟首引っ掴んで怒鳴る。
「ちょっ、待ってよ、後ろにはあたしとエルナが座ってたんだからどっちが触ったかわかんないじゃん?」
「わ、私が触るわけないじゃないですかァ!!」
顔を真っ赤にして誤解を解こうとするエルナ。
「オマエに決まってんンンだろうがよォォォォ!!」
そんなやりとりをしているとファリンが戻ってくる。
ドアを開けてから、
「多分、大丈夫。みんな出てきて」
「ほんとかぁ?」
タエは警戒しながらトラックの後部座席から出て行く。
俺もエルナも一緒に降りる。
最後に幼女が操るクマのぬいぐるみが助手席から軽快に降り、それからファリンに一言言う。
「我々は日本人だが、本当に大丈夫なのだろうな?中国の一般市民では日本人なんてお伽話の中にしか出てこないのではないか?」
「今から案内するの、私の家族の住む家。私が日本の国の代表と会う、既に話してる。みんなが日本人ということ、もう知ってる…と思う。普通の人間と同じ、それも実際に見せて、証明する」
どうやら俺たちを家族に会わせることで、家族の日本人に対する不安みたいなものを解消してあげるつもりらしい。
美少女2名にベレー帽の黒髪、そしてクマのぬいぐるみ計4名は路地奥から家のコンクリートの門をくぐって中庭へと向かった。
ファリンの家はおそらく親の家だろう。
重慶新市街で一人暮らしをしてるとは言ってたから、ここが実家にあたる。だからなのか親戚の子供やらの4歳か5歳ぐらいの男の子やら女の子が沢山いて、庭でプラスティック製のオモチャで遊んでいた。
さっきまではファリンの説得と中国国民一般人の日本人に対する認識に対して、ちょっとでもそれに期待していた俺、及びエルナ、タエ、幼女の4名は裏切られた。
庭に入った途端、遊んでいた子どもたちの元へ親が慌ててやってきて、抱きかかえて逃げたのだ。
というか、射程範囲外まで離れてこちらを見ている。
「はぁ?なにその拒否反応…ちょっとヒクんですけどォ…」
ドン引きのタエ。
クマのぬいぐるみ田中くんも、
「僕のような可愛いぬいぐるみみたいなクマから逃げ出すなんて、ユーモアも知性も感じられない中国国民に心底ゾッとしてるよォ」
なんて言ってる…どっちもタエの感想ですね。はい。
長老みたいなおばあちゃんの前にファリンが居て、俺達を中国語で紹介している…が、敵国人である俺達はこのババアの目にはどう映っているだろうか…表情がどんどん曇ってるし、怒りはないものの、恐れているというかまるで森のなかでクマにでも会ったような顔だ。
というか実際にクマのぬいぐるみに入ってる幼女がいるが。
「やっぱり恐れているではないか」
幼女がクマのぬいぐるみの中からくぐもった声で言う。
そのババアは…おっと、失礼。
ファリンのおばあさんは、何やら中国語で話している。
「なんて言ってんの?」
タエがファリンに聞く。
「『これ本当、日本人か?』『テレビで見ると違う』」
なるほど。
どうやら中国ではテレビで日本人を放映しているものの、やっぱりアメリカと同じで真の日本人が放映されていないようだ。どうせチョンマゲ姿で女はノーパン、忍者が道路を走ってるとでも思ってんだろ?
ペラペラと話してるババア。
それをリアルタイムでファリンが通訳する。
「『日本人、中国人の大人が何人襲いかかっても倒せない』」
「…いくらなんでもそれは過大評価し過ぎでしょ…」
俺が言う。
「『日本人、人を襲って食べる、けれど消化器官は存在しない。殺戮の為にだけ、食べる』」
「人を食うのはオマエ等だろうがーッ!」
タエも反発する。
「『日本人の唯一の弱点、首の頚椎』」
「巨人?!巨人のこと言ってんの?!」
俺、再び怒鳴る。
「『日本人、首以外攻撃しても、すぐに再生する』」
「だからそれ『進撃の巨人』だろうがーッ!!」
タエ、再び怒鳴る。
「『日本人、中国人が多く集まる場所に集まる。けれど、稀に想定していない動きをする奇行種、存在する』」
「「だからそれ、漫画だから!!」」
俺とタエが口を揃えて怒鳴る。
俺達の怒鳴りが通用したのだろうか、その中国人のババア(ファリンのおばあちゃん)は、首を傾げながら中国語で何か言う。
「『でも、何かおかしい。漫画で見た巨人、みんな人間よりもサイズ大きかった。実際、人間と同じサイズ』」
「おい!!今、『漫画で見た巨人』っつたろ?!」
「やっぱ漫画じゃんか!!」
俺とタエが交互に怒鳴る。
ファリンはおばあちゃんに中国語で何か言ってる。
ひとしきり彼女が話した後、俺達に向かって、
「政府が間違った説明をしてる。漫画の中に出てくる巨人、日本人だと言ったりしてる…みんなそれ、信じてる」
「普通に考えてありえねーだろ!頭腐ってんのか!?」
「どんだけ純粋なんだよ!!」
俺とタエが交互に怒鳴る。
「大丈夫、私、あなた達に助けられたと話しておいた」
「…それで?」
「泊めてくれる」
胸を撫で下ろしたよ。
今日は野宿だと思ってたのに。
ファリンの口利きにより、俺達は暫くの間、ファリンの実家にいることが出来るようになった…が、どうやって脱出するのかも、考え始めなければならない。