159 反日デモ 3

デモ隊はまだまだ続いていた。
そのまま重慶の新市街地へ進むような勢いなのだ。
そんな様子を見て俺はふと思い出していた。
正月明けにメイリンやコーネリアと野球をやって、色々とぶっ壊してしまって罰として掃除をさせられていた時の事…。
なんでそんなのを思い出すのかって言われると、ふと、メイリンが何か言っていたような気がしたのだ。
『そういう人間ばかりになった国は…どうすればいい?』
ってまるで自分が国の統治者にでもなったような雰囲気で言っていたな。確か、身勝手な人間は他人を気遣うなんてしない、に対するメイリンの反応だったっけ?
『どうすれば…って言われても…どうしようもないなぁ…』
って俺は答えたよ。
『中国も、いつか、日本みたいにお互いにつくすような国に、なりたい。そういう国にしたい』
そう言っていた。
あの時のメイリンの顔は国を憂いでいるネトウヨみたいなもんだった。ま、俺もメイリンも若いからとてつもない不安に襲われたらそれを情熱に変換してとにかく頑張りたいって思ったりするもんだよね。
でも…。
もしかしたら。
もしかしたらだけれど。
メイリンは中国のどっかのお偉いさんで、日本に亡命しにきたのか?普通に考えたら亡命なんて絶対に出来ないだろうから不審船を使って違法に入国して名前まで偽って…。
「ファリン、メイリンって人知ってる?」
「?」
「あたしの友達の中国人なんだけど…」
「知らない」
「そうかぁ…政府高官っぽい気はするんだけどな」
「中国、広い。それに国も3つ分裂している。その人、どこの国の人?」
「えっと…ガウロンに居たって話をしてたっけ」
「ガウロン?九龍城砦?それ、中国の『呉』の国」
「そ、そうか…香港の辺りだったよね」
「そう。ここは蜀の国」
いろいろな国があるんだなァ…(白目)
「その、メイリンという人、日本で暮らしてる?」
「うん。クラスメートだよ」
「そうか…日本で…逃げれたのか」
ぽつりとそう呟いた。
ファリンはそれから、
「私も、日本に行きたい」
それって可能…なのか?
敵国人だから無理じゃないのか?
そういうのに詳しそうなクマのぬいぐるみ(大)のほうを見てみる。幼女はひとしきりブラックサンダーを食べ終えてご満悦の様子だ。
「まぁ、生きて我々が日本へ帰れれば、可能だろうな」
そう言ったのだ。
「本当か?!」
「ネットで会談までは国会中継されていたが、生き証人として日本へ連れて帰ることも出来るだろうし、国民もそれほど悪い顔はしない。なんだかんだ言ってもこの私をガイドしてくれているからな。日本人はどっかの朝なんとか人と違って『恩を仇で返す』ような事はしない」
さっきまでの沈んだ顔が明るくなるファリン。
「私、日本に行けるのか!アキバに行けるのか!」
そこかよ!!他にもいろいろあるだろうが、なんで一番の恥部に向かおうとしてるんだよ!!
「護衛つきだろうが、可能だ」
嬉しそうにファリンはトラックのアクセルを踏んだ。
っておいおい、飛ばさないでくれよ…ここで人を引いたら例え助かったとしても色々と面倒くさい事になるんだからな!!
ん?
デモは既に抜けていたのか。
すごい数だったな…あれはあのまま新市街へ向かうんだろう。
今はクーデター起こした奴らが屯ってるから妨害に遭わずに新市街へ行けるだろうね。
「んん〜…ふぁぁぁぁぁ〜」
隣ではようやくタエが目を覚ましたようだ。
頭をボリボリ掻きながら、
「くっそぉ…またクソみたいな夢をみた…」
などと言ってる。
一緒にクマもぬいぐるみの田中くんも目を覚ましたから、やっぱりこいつのアカシックレコード・デリゲートによって人形を同時制御しているんだろう。
「クソみたいな夢ェ?」
「だるィのに練習させられる夢ェ…」
「なにそれ?」
「踊りとか歌の練習だよ」
「踊りとか歌ァ?歌手なの?」
と笑いながら俺が聞くと、
「あれだよ、あれAK48とかいうの。知ってんでしょ?」
「そりゃ知ってるけど…48といいつつ候補生合わせると1000人ぐらいいるグループでしょ?」
「あたし、あれのメインメンバーなんだよ、つか、最初に顔見たときに気づかなかった?気付かねぇーか〜化粧してるから」
「…AK48だとゥ?!」
「ン…だよォ…つか、寝起きに叫ぶなよォ…頭ガンガンする」
「なんでAK48がこんなビッチなの?」
「おい」
「わざわざビッチな化粧してんの?!」
「そうしなきゃバレて大騒ぎになんだろうが〜」
っていうか、やっぱ俺が思ってたようにアイドルってクソだなおい!!カメラの前ではあんなにニッコリしてんのに、クソだよクソ!!やっぱ2次元が最高だなぁ…。
「なにそのアニオタがアニメの妄想してる時みたいな顔」
「あぁぁ?!」
「キミカはアニメとか好きそうじゃん?オタクだし」
「オタクってひとくくりに言ってもコンピュータから車から旅行、盆栽、料理と幅が広いんだよ!!ひとまとめにすんな!」
「何かに必死になってるとかキモい」
「そっちはAK48に必死になってんじゃん?オタクよりもオタクに媚びてるヤツのほうがよっぽど人としてヤバイと思うけどォ?」
「…ン…だとォォォオ?!」
「やんのかァァァァォラァァァァァァ?!」
すると、今まで窓側に座っていたエルナが俺の膝を跨って、タエと俺の間にずいと割り込む。
「はいはい、喧嘩は止めましょうね」
「…ガルルルルルルル…」
「…グルルルルルルル…」
「っていうか、AK48とかあたしだってなれって言われてるし」
「はぁ?!なろうと思ってなれるもんじゃねぇーっての!!アホか!100回ぐらい死ね!」と馬鹿にするように言うタエ。
っていうか、俺の場合、あの厚生労働省・マトリのヒロミに言われて捜査の為にAK47に忍び込めって言われてるだけだけど。
「ま、捜査の為にだけど」
「捜査ァ?!」
「芸能界にはびこる麻薬を追う…とかいう」
「へぇ〜…ま、面白くはなりそうだな」
なんだよそれは。
なんだかんだ言って、俺がAK47に来るってことはタエ的には嬉しいイベントだったようだ。ニコニコしながら、
「よし、先輩のあたしから最初の命令だこの野郎、ジュースかってこーい!あはははははは!」とか言ってるし。
「ジュース!?幼女の肛門からダイレクトに飲めこの野郎」
と俺はにっこりしながら言う。
「おい!!幼女とは私のことではあるまいな!!」
助手席のクマのぬいぐるみが吠えた。