159 反日デモ 2

デモとすれ違う車。
こんなボロトラックには見向きもしないようだが、ただ、乗っているエルナや俺やタエがちょっと中国人の貧乏人レベルとは違う雰囲気の服を着用していることには違和感を覚えているっぽい。
まぁ、このトラックをひっくり返すのは戦車が必要だろう。
幼女はクマのぬいぐるみの中からくぐもった声で言う。
「失政から国民の目を背けるために『日本』という共通の敵を作ってきた。彼らが反日だと叫んでいる、その『日本』という国は漫画や映画の世界でだけでしかみたことのないもの…その空想の会ったこともない異国の人間に敵意を向けてガス抜きをしている…とんだ茶番なのだ。自分達が貧乏に苦しんでいる中で一部の金持ちだけが幸せに暮らしているという矛盾…一部の金持ちが中国国内で金を使わず、外国に向けて金を使うので金が循環せず、貧乏な人間はどんなに頑張っても貧乏なままという現実。それが違法な行為というわけでもないし、国ですらもその金持ちに従順になっているから、彼らは唯一許されたガス抜きの手段を持って、自分達の溜まりに溜まっている鬱憤を晴らしているのだ」
幼女はそう言って、持っていたブラックサンダーをクマの口に放り込んだ。よく見ると、中で小さな幼女の手がお菓子をキャッチしている。あぁ、中も結構広いわけか。
「こんなに暴れて何もかも壊しても、何も解決しないのに…」
エルナがそう言った。
重慶旧市街と新市街では貧富の差、激しい。中国の中、金持ちは1パーセントにも満たない、けれど、富の99パーセントぐらい、持ってる。そういう人達が中国を掌握してる」
ファリンがそう答える。
「そのお金を中国の為に使えばいいんですよ!」
ごもっともな意見を言うエルナ。
「中国、他人の為に金を使うとか、そんな事、考える人いない。道路で轢き殺されても救急車呼ぶ、お金かかる。だから誰も呼ばない」
「え?!救急車呼ぶのにお金かかるんですかァ?!」
「救急車の運用するお金、誰が出す?」
「それは…国からじゃないですかァ」
「国のお金、誰も払いたくない。自分の家族でも恋人でも友達でもない人の為に、自分の財産、払いたくないって思ってる」
「も、もうそこからダメじゃないですか…」
重慶新市街のあの近未来的な街並みはなんだったんだろうか。
幻だったのか?
まるで映画の中のハリボテの建物だよ。
彼ら彼女らには『芯』となる部分がスッカラカンだ。
動物と同じ、いや、動物という状態のまま…そこから人間へと進化してない。日本人との違いは技術や見た目や財産だけじゃない、それは目に見えるもので、おそらくはただの『結果』だ。
『芯』となる部分があってその結果があるだけだ。
金持ちの金を国内で回せば経済が発展するはずなのにな。
何もかも失敗してる。
政治が悪いとかいうレベルじゃないのかもしれない。
人として、浅いのか。
幼女が言う。
民度がとてつもなく低いのだ。民度というものは家族の中で継承される…親から子へと…だから政治がどうとか国がどうとかそういうレベルの話じゃない。親がどういう教育を子に施したか、もとより、親が子の前でどういう人間だったか…。仮にも人間だ。放っておいても環境さえ整えば様々な情報を手に入れて、それらを使って文明を発展させるのだ。しかし、ある時、貧乏な人間が妬んでそれらをぶち壊そうとする。日本の文化にも『出る杭を打つ』というものがあるだろう…嫉妬なのだ。それが一人や二人ならまだいいが、いかんせん中国人は数が多い。本当にゴミのように馬鹿な人間が大勢…限りなく民度の低い人間が大勢。そして、そういう馬鹿を総統するちょっと賢い奴がいると、皆がそれに従って…国を覆すことになる。反日デモにもあるような、国民の中に溜まっている鬱憤はちょっとベクトルをそらしてやれば…あっという間に政権転覆の出来上がりなのだ」
「それがさっき話してた国クリア?」
「そうなのだ。まぁ、私が勝手に作った言葉なのだけれどな」
造語かよ。
続けて幼女は言う。
「国クリアをしたら一から国を作ろうとする。その時、一番気をつけなければならないことはなにか?それは政権転覆をした『本人』なら一番よく理解していることだ」
「政権を再び転覆されないようにすること?」
「そうなのだ。国民の多くが馬鹿な事は知っているし、その馬鹿が少しでも賢い一部の人間に従ってしまうことも知っている。だから馬鹿は馬鹿のまま、少しでも賢いものは…殺すのだ」
「…」
「これが国クリアなのだ。全てを抹消して一からやり直す。それまで築き上げた様々な『文明』も、すべて…クリアされるのだ」
国民性…なのか?
日本だって歴史を紐解けば戦国時代だとかあったはずなのにな。
俺が思っている以上の犠牲を払って今の平和を手に入れているのかもしれない…でも、人数的にはそれ以上の犠牲を払ってるのに、どうしてこの国は今もこうなんだろうか。
人が宇宙に出て火星に移住するまでに発展しているこの世界で、今だに地面の上を這いまわってお互いを殺しまくっている…。
「中国人は、みんな、馬鹿」
運転しながらそう言ったのはファリンだった。
「少しでも優れた人間がいたら引き摺り落とそうとする。いつも誰かを妬んでばかり…何も学ばない。映画の中で中国4000年の栄光がとか、馬鹿ばかり…何が4000年だ。嘘の歴史、みんな嘘ばかり。私ももう一度生まれるなら、生まれる場所、選べるなら、日本に生まれたかった…深夜アニメとか見たかった。コミケとか行ってみたかった」
いや、最後、おかしいだろう、それ日本の恥部だぞ。
それでも、いたってファリンは真面目で、ハンドルを持つ手を震わせながら、涙声で言う。
「馬鹿だけど…みんな、生きてる」
そう行ってファリンは涙を流していた。
誰だって死にたくはないし、殺したくはないだろう。
それが普通の人間だ。
平和に暮らせるのならそれが一番いい…けれども、やっぱりどこか失敗する。失敗を繰り返して成長すればいいのに、失敗したら切り捨てて、一から再スタートするのだ。
『生きてる』という言葉の中に、すべてが詰まっていた気がした。
きっと李国家主席のやろうとしていた努力も『生きてる』の中にあるんだろう。でも失敗して殺された。
幼女は言う。
「かつての台湾も、中国の一部だった…というよりも中国そのものだった。しかし、この『国クリア』の無限ループから脱したのだ。日本の協力を得てな…まぁ、それは史実としてだが、本当はどうだったのかは今となってはわからないのだ。史実に従って、おそらく李国家主席も同じ道を歩みたかったのだろう。日本の協力を得て、国際社会に『内部分裂している中国』をすべて紹介した上で、共同戦線をはって分裂を確たるものにしたかったのだ…まぁ、そんな身勝手な要求を日本が飲むはずもない。平和に暮らしているのに戦いに巻き込まれるのを好むなんて、そんなマゾヒストが居たら今の日本は存在しない」
そう言って幼女はクマの口からブラックサンダーの袋を2、3枚吐き出して車備え付けのゴミ箱に放り込んだ。