159 反日デモ 1

俺は寝ていたのだろうか、目を覚ますとまだトラックは移動していて、とてもゆっくりと街中を走っている。
意外だったのは外を歩く人が増えた事だ。
さっきまでは無人の街並みが続いていたと記憶してるんだけれど、今は大勢の、ちょっと貧相な身なりの人達が歩いているし、街並みも近未来的な日本のビル郡と違っていつ自然崩壊してもおかしくないっていう古いコンクリートを使いまわしたビル、ひび割れた道路、舞い上がる砂埃と、薄暗い雲に覆われた空。
中国語で書かれた派手な看板はあるものの、買う人達の意欲をくすぐるような派手な演出は技術的に不可能なんだろう。まるでこの街は時間が200年ぐらい前から停まっているようにも見える。
ただ、記録映像やら記録映画などで見るような俺達が定義していた『中国』のソレはまさにこの街に広がっているものと同じだった。
どれぐらい移動しただろうか…。
既に重慶市は過ぎていたんじゃないかっていうぐらいの時間は経過したはずなんだけれど、aiPhoneのCoogleMapのGPSも機能していなくて地図は最後に俺達がいたあのビルをさしたまま動いていない。
「顔、あげないほうがいい」
運転しながらファリンはそう言った。
「え?」
窓の外を少し覗いてみる。
大勢の人が足並みを揃えて歩いている。
手に持っているのは中国語で書かれたプラカードやらだ。何が書かれてあるのかよくわからないけれども、感じならある程度読めるから『小日本』とか『日本鬼子』などはなんとなく日本を馬鹿にしてるようなメッセージとして伝わってくる。
あぁ、そうか、反日デモっていう奴だ。
朝鮮でも見たわけだけれど、中国でも同じように行われているのか。しかし、別段驚くわけでもない。
日本のサヨク系マスコミはいつものようにこれらの映像を流して「戦争をした悪い日本」イメージを国民に広めようとしていたが、そんな言葉に誰も耳を傾けるわけがない。
さきの大戦では史実でも生き証人のおじいさんおばあさんの話でも仕掛けてきたのは中国・朝鮮のほうだったわけだから、サヨクが言う「いくら仕掛けられたからと言ってやりすぎだ、日本は反省しろ」的な言葉に敵意を抱くのは当然だ。
「日本人がいるとわかる、恐ろしいことになる」
ファリンが片言の日本語でそう言った。
見るなと言われると見たくなる。
エルナなんて怖いもの見たさで窓からヒョコヒョッコ頭を覗かせて反日デモをしている様子を見ていた。つまり、CoogleGlassで映像を撮っていることになる。
「ひぃぃぃ〜!!」
時々、そんな悲鳴をあげるエルナ。
一方でタエは疲れたのだろうか俺がさっきそうしていたように、クマのぬいぐるみ田中くんを膝に抱きかかえたまま、すーすーと寝息を立てて寝ている。おそらく田中くんも寝ているだろう。
「見てください、見てくださいよォ…キミカさぁぁ〜ん」
「なに?」
窓の外を見てみると、結構高級そうな日本車がデモ隊によってひっくり返されて、中からお金持ちっぽい男女が引き摺り出されていた。
アジア人を見分けるのは難しいけれども、言葉以外でそれらを見分けるのは『ファッションのセンス』とかがあるわけで、その点から推測するに、日本人ではないのだろう。
「日本人じゃないっぽいね」
「でも、日本車に乗ってただけであんな事に、ひぃぃぃ!!!」
再びエルナが叫び声を上げる。
それもそのはずだ。
俺も叫びそうになった。
男は男で棒の先につけられたナイフのようなもので身体中をめった刺しにされている。もう殺すつもりなんだろう。
酷いのは女のほうでスカートを脱がされ、パンツも脱がされて、そのまま膣に太い棒のようなものを突き刺されて血を流している。レイプじゃなくてもう殺すつもりなんだ。なるべく苦しめてから…。
日本人じゃなくてよかった、などと思っている俺がいる。だが、どうだろうか…もし仮に日本人だったとしても、日本から遥々、休戦中の敵国へ旅行している奴を助ける必要なんてあるのか?自業自得だと思って、あざ笑うような気さえする。
「ひぃぃぃぃいいぃぃい!!!股間がキュキュしますぅ!!」
「痛そうだね、破瓜の血が流れてるよ」
「彼氏がして、あの年齢…30歳ぐらいなんだから処女なわけないじゃないですかァ!!でもすっごい痛そうですぅゥ!!」
まだ重慶市の中の一部なんだろうか、ところどころに海外から出店したと思われるチェーン店…例えばスタバなどがあるんだけれど、そこも何故か襲撃されているのだ。
「なんかよくわかんないね…反日デモだから日本企業とか日本製品を狙ってると思ったらそうでもなくて…」
「もうブチ切れて何がなんだか自分でもわからなくなってるんじゃないですかァァァ!!アヒィィィ!!今、目があったァ…」
こそこそと頭を引っ込めるエルナ。
何がなんだかわからなくなっているのなら、仲間も攻撃しようとするだろうけれど、それをしないってことは判断基準があるんだ。
そして、今、その判断基準がわかったよ。
金持ちだ。
金持ちを狙っている。
金が欲しくて狙ってるんじゃない。
金を持っている、つまり自分達よりも豊かな生活をしている事を妬んでいる。妬んで、全てを壊してやろうとしてる。
日本製品はそんな妬みのターゲットだった。
国交を断絶しているからヨーロッパあたりから取り寄せないと手に入らない。仮に手に入れるだけのルートを持っていたとしても、高価だから手に入らない日本製品…それを持っているということは中国では何不自由なく暮らしていけるだけの財力があるってことだ。
経営者達は奴隷のように労働者を働かせて、沢山のお金を手に入れている。一方で労働者が手に入れたのは雀の涙ほどの賃金。
それが改善されないのはきっと政府も警察も法ですらも、全てがそうった経営者に都合がいいように作られているからだろう。