158 重慶の春 11

エルナも同乗して再び出発するトラック。
軍用の大型トラックで兵員も物資も運ぶ事が出来るのだろう。後部車輪をキャタピラに換装したタイプが大戦中の記録映像の中に登場したのを見たことがある。元はソ連製だったんじゃないかな?
運転席、助手席で2名、それから後部座席が5名座れる。
エルナが増えたところで特に問題は無かったんだけれど、クマのぬいぐるみである田中くんは鼻を手で抑えながら、
「クッセェェェェ!!!」
とエルナを見ながら言っているのだ。
「そういえば…なんか臭う」
俺も言った。
なんかガソリンの臭いがするんだけど…。
「ひぐッ、えぐッ…だって、車の下に捕まってたらなんかガソリンみたいな液体がポタポタ漏れてきたんですもん…!!」
と泣きながらエルナが言う。
「『ケープ・フィアー』のマックス・ケイディも真っ青な車裏張り付き術を披露するからだよ」
「だって!!中国軍が攻めてくるし、他の人みんな殺されちゃうし、どこに隠れろっていうんですかァァァァァァァ!!!…うわぁぁ…私のベルトが…ふにゃふにゃにィ…」
見れば小型のポーチを腰に巻きつける為のベルトが熱なのかエルナの体重でなのかビローンと伸びて使い物にならなくなってる。
「つか、ガソリン漏れてるんじゃね?」
PSPでピコピコ音ゲームしてたタエが言う。
無言でブレーキを踏む、ファリン。
再び、トラックは停止した。
それから全員で降りてからトラックの下をマジマジと見てみる。ドボドボっていうわけでもないけれど、ポタポタと何か液体が漏れているのは確認できた…だけれど、どこから漏れてるのかわからない。
「タエ、ちょっと車の下を見てきてよ」
「はぁ?!なんであたしがそんなクソ役引き受けなきゃいけないんだよ?オマエ頭にウジ沸いてんじゃねぇか?!」と、指で自らの頭を指さして『くるくるぱー』のジェスチャーをしながら俺に言うタエ。
「そのクソみたいなクマのぬいぐるみの自称田中くんにやらせりゃえぇじゃんか!!ォォォォォォァァァァァァァァ?!」
「ン…だトォォォ?!もしぬいぐるみ汚れたら、どーーーぅ責任とってくれんだァァァアァァァァーン?!」
再び俺とタエが額をごっつんこしてからガン飛ばしまくる。
そんな光景を見てからかエルナが言うのだ。
「わかりました!わかりましたよォ!!もともと私が忍び込んでたのが原因かも知れないから、私が見てきますよォ…ふたりとも喧嘩しないでくださいィィ…」
エルナは俺やタエよりも大きめのチチをプルンプルンさせながらも車のメンテナンスする人みたいにトラックの中へと入っていく。
それから問題の箇所の辺りに頭を持っていき、見上げてから、
「ライト!」
と叫んだのだ。
「何やってんの、ワロエル」
と口を抑えて言ってるタエ。
俺にはなんとなく何の意味を示しているのかわかる…。
「ライトォ!!」
再び叫ぶエルナ。
「ぷッ…ふふ…」
笑うタエ。
おそらくエルナはCoogleGlassの『懐中電灯』機能を使おうと『音声入力』してるってのは想像できるんだけど、多分、懐中電灯の英語での発音はライトじゃなくてポケット・トーチとかエレクトリック・トーチじゃないか?少なくともライトじゃなくてトーチだろう…。
「エルナ、多分、トーチだと思うよ」
「そ、それを早く言ってくださいよ!!」
それから大声でエルナは、「トーチ!」と叫んだ。
今度はちゃんと懐中電灯機能が作動しCoogleGlassの左隅から光が出て暗闇を照らしている。
「ガソリンタンクに亀裂が入ってますゥゥ!!」
エルナはそう叫んだ。
おそらくさっきの戦闘で俺やタエが大暴れをした際に衝撃波で亀裂が入ったんだろう。ただ、タンクとかは外に露出するものだし、しかも軍用なんだからもう少し衝撃に強いものであってもいいはずなんだけれど…やっぱ元はソ連製で中国が改造してるからか?
ファリンはため息をつきながら、
「途中、街によって、整備する」
それには幼女が一言言う。
「大丈夫なのか?中国人の整備の腕についてもそうだが、我々のような日本人が中国の警備の無い街の中を歩いていても」
ファリンは言う。
「それは…議員以外なら大丈夫…」
「ふむ。つまりこの私は顔が知れてるし、反日の材料にも使われてるから見つかったら何をされるかわからない…と」
総理の顔だけじゃなくて安倍議員の顔まで知られてるのか。というか、仮にそうだったとしてもこんな幼女をどうこうしようっていう国民性があるのか?いや、あるな。あるある。
「トランクとかあったらいいのに、トラックだから荷台しかないですねぇ〜…」と言ったのはエルナの馬鹿だ。お前、仮にもそれなりに知名度がある議員を、幼女でロリロリした体型だからってトランクルームに押し込めて移動しようっていうのか?!
「ほほぅ…この私に、トランクに入っておけと…」
幼女、額に血管を浮き上がらせ、キレる。
「ひぃぃぃぃ!!ごめんなさいごめんなさい!!」
「こりゃネトウヨに殺されるな、エルナは」
タエも言う。
「許してつかぁさぁぁーぃいい!!」
泣き出すエルナ。
しかし、困ったな…人の多い国だからどこかで見つかるだろうし、そうなってくると…困ったなぁ、どうやって移動するか。