158 重慶の春 10

『クソッ!!炎と埃で何も見えないっつぅの!』
電脳通信でタエの声。
それだけ叫べるのならまだまだ元気だな。
まだ猿どもが復活するまで時間は掛るだろう、逃げるなら今のうちだ。逃げるなんて選択肢はまだ余裕のある俺にはちょっと選びづらいけれども…。まぁ、俺も『パーティー』で行動してるのでネットゲームであるロード・オブ・シャングリラにあるレベル差パーティのように、上位レベルの人は余裕があっても空気を呼んで余裕がないフリをするんだよ。それが日本の村社会主義
瓦礫と死体と猿ばかりになった道路に着地すると、走りだしたトラックの後部座席に走りながら飛び乗る。その後ろに走っているセカンダリをキミカ部屋に吸い込むと、ついでにショックカノンを取り出して、ストーカーのようにしつこく俺のセカンダリを追い掛け回していた猿野郎をふっ飛ばした。
タエもタエでまだ動ける処刑人アンドロイドを異次元空間?のような場所へと転送していった。
「マジ信じらんねぇ!マジすげぇ!」
と意気揚々としているタエ。
俺はショックカノンでトラックを追いかけてくる猿どもを撃ち殺しながら、「何が?」と聞く。
「あの猿野郎だよ!つか、めっちゃ強くね?猿をここまで殺しまくったのはオマエぐらいなもんじゃね?!」
「なに?ハイスコアとっちゃた?」
「ハイスコアもハイスコアだぜ、マジで!」と鼻息を荒くするタエの隣ではクマのぬいぐるみである田中くんが叫ぶ。
フルコンボだドン!!」
フルコンボだとゥ?!そりゃ嬉しいねぇ…」
いつもはクソムカつくぬいぐるみ野郎だけれど褒めている相手に攻撃を仕掛けるのはちょっと男気に欠ける。俺は素直に喜んでぬいぐるみの頭を撫でてあげた。
「それで、これからどうするの?日本に帰るんでしょ?」
と俺が聞いてみる。
あれ?
なんか俺、変な事聞いたかな?
っていうか、バトウとかボゥマとかとも通信が入んないんだけど、これどうなってるの?タエとは近距離だから通信入ったわけか?
「ん〜…なんか無理っぽい」
「は?!」
「いや、は?とかじゃねぇし、何時間戦ってたんだよっていう」
「何時間って、楽しい時間は過ぎるのが早いっていうからもう1日ぐらい経過しちゃってた?待たせちゃってごめんね状態?」
「いや、そんなに経ってねぇし…ただ、さっき入った連絡だと、総理が乗っている車もクーデター起こした軍に襲撃されてどうなったのかはちょっとわからない」
俺達の場所でドロイドバスターが1人と1匹暴れた。それに加えて総理の車もドロイドバスターに襲撃されていたってことか?
「助けに行かなきゃ」
「っていうか、幼女ほっぽり出して助けにとか無理だし」
見ればトラックの助手席には幼女(安倍議員)が座ってバッグからお菓子(ブラックサンダー)を取り出して食っている。
「向こうはイチがいるから安心してもいいのかな」
「あの盲のジジイめちゃくちゃ強いから大丈夫じゃね?」
「まぁ、そうだけど…」
総理は安倍議員のことを心配してたけれど、自分はどうなんだよって俺はふと、思ったわけだよ。
あの人が死んだとしても十分にキレるぞ、日本国民は。あんたは自分のことを普段から大切にしなさすぎるんだよ。
「あの様子だとヘリポート付近もかなりヤバイだろうから、今は逆方向へ向かってるんだ。そっちに救援よこせるようなスペースないかな?って思って」
っていうか、お前が作戦を変えたのかよ?!
行き当たりばったり計画だなおい…まぁ、変えざるえない状況だから仕方がない…としてもだ。本当にこっちに向かって大丈夫なんだろうな?
運転してるのは…ファリンか。
「ファリン。あてはあるの?」
「今は、まだない。早くここ、離れる」
さすがにトラックのスピードには追いついてこれないらしく、猿はもう姿を見せなくなっていた。が、俺もタエも、現場から離れている事はわかったけれども、どこへ向かっているのかはわからなかった。
おそらく、ファリンすらも。
さきほどの襲撃現場からは随分と離れたけれども、街は閑散としており、時折道端には車が乗り捨ててあって、その周囲に荷物やら鉄の塊やらが並べておいてある奇妙な景色が現れていた。
幼女はチョコでお腹いっぱいになったので寝ている。
そしてさっきからPSP音ゲーして遊んでいるのはタエだ。
運転はファリンで俺は外の景色を見ていた。
もうかれこれ1時間ぐらいだ。
ファリンがこっちの道を選んだのは人がいないからだろう…だけれど、日本人の俺の感覚だと、これだけの大きな街で人が殆ど居ないのは奇妙だ。なんだろうか、この違和感は…。
と、その時だった。
トラックの後部座席からゴンゴンと殴るような音が聞こえるのだ。俺は慌ててブレードを取り出して音のするほうに突き刺そうかと思っていた。そりゃさっきまで猿と戦ってたからな、トラックに一体化して今になって猿化してコンコン叩いてるんじゃねぇかと思うわ、普通。
(コンコン)
攻撃する気配はないようだ…。
(コンコンコンコン)
「うるせぇ!!」
タエは後部座席をゴンッと殴った。
「このトラックで後ろは荷台しかないよね?」
「さぁ?」
運転しているファリンに話す。
「ファリン、ちょっと車停めて。なんかコンコンコンコン音が聞こえる。荷台と座席の間に誰かいるっぽい」
「最初、トラックには何も居なかった」
ぬぅぅ…怪しい。
だだっ広い道路の真ん中でトラックが止まる。
外へと出ると荷台と座席の間に空間がないか確認する…が、特に何もなし。じゃああの音はなんだ?
とりあえず屈んで車の裏側に何かないか、確認…。
「ウワァァァァァァァアアアァァ!!」
俺は腰を抜かしそうになった。
いや、ペタンと地面に尻もちをついたから抜かした事になるか。
トラックの裏側に人が張り付いているのだ。
中国での貴重な移動手段である車、その裏側に張り付いて移動するという技を身につけたのだろうか?
「ひ、ひひ、ひひひひ、ひぃぃぃぃ…」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
笑った。
笑ってる…髪の長い女がいるぞ!!
「ひどいじゃないですかァ…」
「…?!」
髪の長い女は腰のベルトとトラックの部品を巻きつけていたようだ…そうじゃなきゃこんな女が腕と脚の力だけで車の裏側に貼り付けれるはずがない。いや、それ以前にこの女の声、どっかで聞いたことが…。
「キミカさぁぁ〜ん…」
「エルナ…何やってんの?」
スパイ映画の主人公遊びでもしてんのか?