158 重慶の春 8

数えたわけではないが、既に101匹は超えているであろう大量の孫悟空どもは入れ替わり立ち代わり俺に攻撃を仕掛けてくる。
それらの攻撃を心眼道のフォームにより華麗に回避する。
ある時は手で俺を掴もうとした猿の手をとって肩の後ろへとそれを捻りへし折ったり、ある時は飛びかかってきた猿の頭を手で鷲掴みにしたうえで、クルリと回転させて胴体だけをもう片方の腕で掴んで首を捻りへし折ったり、ある時は強引にも叫んで警戒する猿に回転回し蹴りを叩き込んで怯んだところでさらに踵落としを食らわせてクレーターを作り出すと共に地中に埋めたりした。
ブレードを使わないのは奴らを切断してしまったら増えるからだ。
だけれど、さっきから切断してないのにどんどん増えていく気がするのは気のせいだろうか?
ただ、俺からするとアドバンスド大戦略で高台に陣地を作った日本軍の前に中国軍が大量に押し寄せるも、硬い・強い・旨いの3つの○○いにより鉄くずの山が陣地の周囲に出来て、ユニット経験値だけが溜まりまくるという無限ループに陥っているのと同じ心境になっている。
数が増えたらまた減らせばいいんじゃない?と神様が言ったか言わないか知らないけれど、増えまくる猿どもも俺のブラックホール・ディフレクターを前にしては逃げ惑うしかないようだ。
何せ吸い込んで無にするからね。
「体術だけじゃつまんないからブレードも使わせてもらうわ。あたしも趣味趣向をチラつかせながら殺すのが好きだからね」
印を結ぶ。
「口寄せの術…」
背後にもう一人の俺、すなわちセカンダリが現れる。
地下駐車場から車をパクってこちらにやってくるタエを待つ間、なるべくこいつらの数を減らしておかないとならない。
セカンダリは駈け出した。
アンドロイドの体術がこいつらに通用するか?
いや、待てよ…普通にアンドロイドを動かせばアンドロイドの速度でしか奴らと戦うことが出来ない。それはつまり、俺が変身前の強さと変わらないわけであって、ドロイドバスター変身後である孫悟空どもと戦うにはちょっと怖い。例え俺自身ではないとわかっていても、俺の姿をしたものが壊されるのはちょっとショックだし。
ということは、このアンドロイドはあくまでセカンダリという『姿』の位置づけであって、そのパワーは俺自身が作り出せたらどうだろうか?例えばグラビティコントロールによるパンチ力の強化などは普段から俺が変身前もやっていることだけれども、それと同じことをセカンダリにも行えば…。
セカンダリに猿が飛びかかってくる。
その一撃をギリギリで交わすと、回し蹴りを本体の俺と同じく奴に狙いを定めて…その脚の接触時にグラビティコントロールをフルに発動させ、神経を脚と猿の接合点に集中。
(べきべき)
入った。
セカンダリの蹴りは俺が蹴りを入れた時と同様に、ちゃんとダメージを与えてる。そうだ、猿の肋をへし折った時の音が聞こえる。
軽いけれども衝撃波が生じ、猿をビルの上空まで蹴りあげた。
よし、これなら殺れるぞ!
などと呑気にやっていたところで俺の背後から残存していた中華ドロイドが襲い掛かってきたのを気配で感じ取った。
ブレードを出して攻撃を回避しようとしたところで、ドロイドと俺の間に処刑人の女アンドロイドが割って入る。
次元が歪む。
「え?!」
処刑人のアンドロイドが…中華ドロイドを吸い込んだ?!
どういうこと?
ドロイドバスターじゃないのに、ドロイドバスターと同じ事ができるってことなのか?!意味がわからない、これはタエがコントロールしていたアンドロイドだと思ってたのに。
「背中がら空き、超弱くね?だせー」
「うるさいよ!いま、ガードしようとしてたところなのに!」
「はいはい」
「それよりなんでアンドロイドなのにドロイドバスターの秘技が使えるの?!今、敵を吸い込んだでしょ?!」
「オマエ、知らないの?!超ウケルんですけど!!」
そう言って振り返って口を抑えて「ぷぷぷー」と笑っている処刑人アンドロイド(女)クソムカつくな…。
「あぁー!知らないよ悪かったですねーすいませんねー!これでいいですかァ?!満足しましたかァァァァ!?」
と、普段やっているようにガン飛ばし&額ごっつんこをしようと頭を突き出すが、アンドロイドはそれを手で止めてから言う。
「ドロイドバスターの秘技っていうのは、身体の中から発せられるとか思ってたりしてたの〜?!漫画の見過ぎ」
「…え、ど、どういうこと?」
「思考や意識の中から発せられるから、あたしの場合は完全にコントロール下にあるアンドロイドからもドロイドバスターの秘技が使えるんだよ、バーカ。アンタはアカシックレコードの『パラレル・プロセッシング』が使えないから無理だろうけどォ?」
『パラレル・プロセッシング』
聞いたことがないぞ…いや、ちょっとまて、パラレル・プロセッシングっていうのは日本語でいうと並列計算か?
同時に色々な事ができるってことだよな?
それは俺がアンドロイドであるセカンダリを操作する時と同じだ。えと、これはアカシックレコードの秘技『デリゲート』だから…つまり、パラレル・プロセッシングっていうのはデリゲートの別の呼び方だ。本来名前なんてないものだからそれぞれが呼び方を自分なりにつけているだけだ。アカシックレコードをアカーシャクロニクルと呼んだりすることと同じで意味は同じものを指す…つまり…。
セカンダリを操作している俺の意識下からドロイドバスターの秘技が使えると考えるんだ。
キミカ部屋へのアクセスを試みる…。
出来た。
出来たぞ、おいおいおいおい!!!
すげぇぞおいおい!これ凄いぞ!!
アンドロイドのくせに、セカンダリがキミカ部屋(異次元空間)から俺の武器を取り出すことができるし、重たい武器でもグラビティコントロールを経由することで軽々しく扱える!!!
「え、マジでェ?!なんでアンタもパラレル・プロセッシング使えるの?!っていうか、あたしとおんなじで別の場所からテレポートもさせてるの?!マジで?!信じられないんだけどォ?!」
うるさいな、マジでマジでうるさいぞ、マジで。
「ひぃぃぃぃ!!僕の脚がお猿さんになったよォ?!」
突然タチコマが叫ぶ。
見れば猿どもが俺に勝てないからとタチコマフチコマに攻撃を仕掛けているではないか。しかも纏わりついた時に脚を自らの身体と同化させている。タチコマの脚から孫悟空が生まれてるのだ。
「ちょっと、人の物を勝手に猿に変えるな!!」
逆口寄せの術でタチコマフチコマを異次元へ封印。
さらに、ブレードを俺が、グングニルの槍をセカンダリが装備した。今度はただのアンドロイドじゃないぞ…ふたりとも、俺が使えるドロイドバスターの能力を全て扱えるのだ…。
「「誰が猿山のボスか教えてあげるよ!!」」
俺とセカンダリは声をハモらせてそう叫んだ。