158 重慶の春 7

「キキーッ!!」
猿が叫んだ。
赤いオベベに、頭には金色の輪っか、腰には数珠のようなものをぶら下げている。これを猿回しの先生が『孫悟空の真似です』って言ったら俺は信じちゃうぐらいに孫悟空のソレだ。
しかも如意棒みたいな黒く光る棒を、さっきキミカ・インパクトよろしく地面に深い傷跡を残した超重量級のソレを、軽々しく手で振り回し腰と手で受け止めてポーズをとったのだ。
「すっげぇ!!孫悟空だ!」
俺が歓喜の声を上げる。
「馬鹿!!さっさとズラかるんだよ!!」
タエが俺にツッコむ。
っていうかさっきまで調子こいて戦闘してて今更引けるわけ無いだろうが。なんであの羽衣着ていた転送野郎は攻撃して、この猿が現れたら逃げなきゃあかんのよ…。
「あたしがこいつを引き剥がすから、アンタは幼女とファリンで車かっぱらってきて逃げなよ!!」
「っていうか、オマエも逃げろって言ってんだよーッ!絶対に猿を甘く見てるだろうがーッ!!」
「こんな和製ニホンザルのパクリ野郎に正真正銘の日本人が負けるわけがないでしょうが。寝言は意識不明で言え!」
「っつぅか、もう知らないからな!!死ね!」
負け犬の遠吠えのようなものを吐き捨てるように言ってからタエはクマのぬいぐるみと共に地下駐車場へと戻っていく。しかし7体の処刑人アンドロイドについてはその場に残って戦闘を続けている。あくまで猿以外に対してだけれども。
続けて印を結ぶ俺。
「口寄せの術!!」
俺の足元がグラグラと揺れながら、コンクリートを砕きながらタチコマが登場する。
「あーあ!まーた僕を土の中に召喚したな!!」
開口一番に愚痴かよ!!
「さっさと攻撃する!」
「人使い、いや、戦車使い荒いんだから!」
言うが早くタチコマのガトリング砲が火を吹いた。
衝撃波でガトリング砲の周囲は光がボヤケて、歪み、瓦礫も埃も吹き飛ばす。その弾丸は目の前にある瓦礫も死体も孫悟空も、障害物という名のものは全て木っ端微塵に粉砕している。
今、孫悟空も入ってたよね!
よし!殺した!
「うは!バリア張ってないのかよォ〜」
と俺はニヤケ面で小躍りする。
あっちゅうまにドロイドバスターっぽい猿野郎をミンチにしたタチコマに拍手を送りたい、いや、既に拍手を送った。
(パチパチパチ)
「照れるなぁ〜」
「ブゥゥゥゥルゥゥゥゥァァァァァァ!!!気を抜くなっつってただろうが、もう忘れたのか鳥頭どもがァァァァ!!!」
先に召喚していたフチコマのBFGが俺達の目の前を横切って、猿の肉片らしきものを黒い塊に変えていく。
っていうか、今、俺も含めて鳥頭って言ったのか?!殺すぞ!
一言文句を言ってやろうとフチコマを振り向いたその時、俺はさっきフチコマのBFGで炭に変えられた肉片らしきものに気配を感じたのだ。そう、明らかに動いた。
「こいつ…動くぞ!!」
「気を抜いたなァァァァ!!気を抜いちゃった瞬間、そこでお前の負けだぁァ…ごめんなさいしろォ…」
はぇぇなおい。
「「え…?」」
俺とタチコマが同時にそう言った。
ガトリング砲で木っ端微塵にした肉塊が散らばっているが、それぞれが動いて…というか少し光って周囲の物体も溶かし始めるじゃないか。俺はこの光景をどっかで見たことがあるぞ、おいおいおい!!
その肉片というか肉塊は周囲の瓦礫をどんどん取り込んで、合体して、元の孫悟空へと姿を変えたのだ。それだけじゃない、それだけなら元に戻っただけだと思う。
俺が驚いたのは、各肉片が全て孫悟空として再生しやがったのだ。プラナリアかよこの野郎!!
プラナリアかよこの野郎ゥゥゥ〜…」
やばい、フチコマと同じツッコミをするところだった。
俺の周囲には肉片の数だけ孫悟空が現れた。
「本物はどれか、っていうオチィ?」
「どれも本物だよーッ!」
「俺様にはァァ…見えるぜェ…」
フチコマには本物が何かわかるの?!」
「真の漢は本物を見極めれるゥゥゥゥ〜…ここは有名ミステリー小説と同じオチでェ〜…じつはキミカ嬢が本体だったっていぅ〜…」
「はい、却下」
おしゃべりはここまでだと言わんばかりに復活した孫悟空のうち一匹が如意棒で戦車の上の俺を弾き落とそうとする。
今度は確実にブレードでガード。
と、同時にキミカ・インパクト。
「ウッキィィィ!!!」
気合を入れてさっきの変な技のようなものを再び俺にかけようとする猿野郎。またしても、如意棒の押しが重たくなる。
が、それが有効になる前に如意棒を手に持っていた猿野郎にキミカ・インパクトによる重力攻撃がのしかかり、ペッチャンコに変わる。それと同時に如意棒が軽くなった。
「キキキーッ!!」
背後から吠えて跳びかかってっくる猿。ブレードで真っ二つにしようとしたとき、ヤツの爪がその攻撃を阻む。が、猿への虐待よろしく、俺の回し蹴りが弾き飛ばす。
飛びかかろうとしていたもう片方の猿はふいに異次元空間から俺が取り寄せたショックカノンに抱きつく形になり、次の瞬間、発射口から衝撃波に襲われて木っ端微塵に…。
って、また木っ端微塵になったってことはァ…。
「お嬢ゥゥゥ!!鳥頭かァァァ…学習能力がないって通信簿にかかれてあるんじゃないのかァァ〜ン?!」
「くっそッ!」
これを狙っていたと言わんばかりに猿野郎の肉塊はどんどん周囲のアスファルトやら瓦礫やらから自分自身のコピーを作り出している。
「お嬢ゥゥゥ…お前はァ…ネトゲとかでェ…楽しいけど無茶苦茶なことをしてェ…仲間もろとも沢山の人間を巻き込んで殺したあげくにィ…自分自身も最後は死んでしまうっていうオチをォ…経験したことがあるんじゃないのかァ?」
「…なんで見てきたように分かるの?!」
「…」