158 重慶の春 6

最初のBFGによる攻撃の後、バリアによりその攻撃を防いだドロイドにトドメを指すためにタエがコントロールする処刑人アンドロイド部隊が斬りかかる。
レーザーブレードと呼ばれる純日本産戦闘ドロイド『ハンター』に搭載されている電磁ブレードを刀に仕込ませている。青い光が空を斬ると、強烈なエネルギーでその軌跡はボヤける。
そして、処刑人の振り下ろした矛はバリアごとドロイドを真っ二つにした。切り口は俺のグラビティブレードと異なって真っ赤に溶け、さらに周囲のセラミックスを溶かして液状化させている。
鎖鎌のような武器を持った処刑人は2ペアで行動しており、片方の子供のような姿の小柄なアンドロイドが多脚戦車の脚に滑りこむと、もう片方のガタイのいいほうのアンドロイドが鎖鎌をその子供向けて投げる。すると、キャッチした子供は多脚戦車の脚を紐で転がすように、その鎖鎌の鎖の部分で軽く撫でる。
電気のようなものが鎖に流れたのが分かる。
一瞬で多脚戦車の脚が溶けてボロボロと転がるのだ。もう戦車でも何でも無く、ただ砲塔がついただけの物体になっている。
女型のアンドロイドは2本のこれまた電磁ブレードのクナイ形状の武器を2刀流で持って流れるような剣捌きでまだ生き残っている中華兵を切り刻んでいる。戦車と互角に戦えるだけの処刑人部隊がまともに対人戦をするともう人間はただの肉にならざるえなかった。
俺の口寄せしたフチコマも普段の鬱憤?みたいなものを晴らすようにエネルギー充填が終わればBFG、まだならレーザーに毒ガスと召喚した俺さえもそろそろコイツを納めたほうがいいんじゃないかっていうぐらいに酷い暴れっぷりだ。
しかし、そんな中でもあの羽衣を着た女はケラケラと笑いながら、踊るかのように身体を回転させて、次から次へと異次元から部隊を召喚している。
中国軍は数と物資の量は日本軍と比べると桁外れというのは歴史の教科書に記載された内容からの引用だけれども、それを俺がこの目で見る日が来るとは思わなかった。
殺しても壊しても次から次へと転送してくる。そして、こんなモノローグを語っている間にも既に『殺しても壊しても』すら出来ないほどに増えていた。
「ひゃっはー!!殺せ殺せェ!!」
なんて叫んでいるのはクマのぬいぐるみの田中くんだ。
お前、今の状況でそれを叫ぶのは嫌味にしか聞こえないぞ。
再び漆黒の波動がタエの手の表面に集まって、また次元が歪む。召喚だ。今度はイノシシタイプのドロイドが現れ、バリアごと周囲の中華ドロイドを弾き飛ばしながら羽衣の女に向かって突進していく。
あいも変わらずくるくると回りながら踊っていた羽衣の女は突然目の前に突進してくる体長5メートルかそこらの巨大イノシシ・ドロイドを前に慌てて手を伸ばして「待って」のポーズだ。
馬鹿か、待つわけないだろう…って俺は思ってたけど俺がマヌケだった。俺だったらどうするか考えたらなんら不思議な事はない。…羽衣の女は目の前に迫り来る巨大イノシシ・ドロイドを異次元へと吸い込んだのだ。ギュルギュルと空間が歪んでどこかへと転送されるドロイド。
「何すんだオマエーッ!!」
って怒ってるタエ。そして、両手で口を抑えて「はわわわ」とでも言いたそうなクマのぬいぐるみ田中くん。
そして、敵のドロイドを転送してドヤ顔になっている羽衣の女。
そのドヤ顔が気に入らない。
俺は敵ドロイドの銃弾をブレードで弾き飛ばしながら、そして周囲のバリア切れの兵やドロイドにキミカインパクトによる超重力波攻撃を『ロックオン』しながら羽衣の女に突進する。
案の定、奴は俺が斬りかかるか殴りかかるか予測してさっきと同じように手をスッと俺の前に差し出してくる。しかし、その予測の中に自分と同じ能力を持ったドロイドバスターが目の前にいるって事を入れておいたほうがよかったんじゃないかね。
キミカ・インパクト発動。
俺と奴の周囲の敵兵は超重力波攻撃により地球に対して垂直にペッチャンコに押し潰される。人はミンチに、ドロイドはプレスされて鉄板に。と、同時に俺の密かに手の中で作り出していたマイクロブラックホールが、防御しようとしていた奴の手の中に吸い込まれていったのだ。
そう、この羽衣の女、俺の創りだした『マイ・マイクブラックホール』をどこかへ転送した…。どこかへ、というより、おそらくこいつが今まで部隊を転送してきたところへと転送したのだ。
待機している部隊に被害が及ばぬようにするためには、そう、再びマイクロブラックホールを転送してこなければならない…あくまで俺の能力であるブラックホール打ち消しができない場合の話だけれど。
しかし、俺の予測は当たった。
咄嗟に、というよりもカエルが蜂を間違えて飲み込んでしまった時のような本能的なスピードで今しがた転送したマイクロブラックホールを腕少し前の空間へと再転送してきたのだ。
馬鹿め。
それがただのモノならいい。
でも呼び出したのは光さえも吸い取ってしまう、超重力。
あっという間に羽衣の女の手が吸い取られてしまう。
「ひ、ひぃぃぃぃぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
悲鳴をあげる羽衣の女。
「ちぇッすと!!」
俺のブレードが縦真っ二つに斬りこみを入れる。
しかし、手応えがない…それもそのはずだ。
俺の目の前の空間が歪んで、まるで袋から人が零れ落ちるように、異次元から召喚される予定だった人間…中華兵が真っ二つになりながら次元の裂け目からご登場したのだ。
俺の目の前に真っ二つになった兵士の死体が転がる。
「縦がダメなら…横からだよ!!」
今度は横一文字に羽衣の女の胴体を斬り裂く。
が、再び次元が歪む…最初から攻撃を仕掛けてくる前提でこいつは召喚しているぞ。自分自身は戦う気がゼロってことはわかった。
しかし、俺は次の瞬間、目を疑った。
俺のグラビティ・ブレードは奴が召喚途中だった何かの棒のようなものに阻まれて止まったのだ。その棒のようなものは黒い波動を放っており、俺のブレードによる吸い込みに反発しているのだ。
「キミカ!!何やってんだ!離れろ馬鹿!!」
「はぁ?!」
突然タエが叫んだ。
離れろって?!
何?この棒なにかヤバイの?!
みるみる棒が異空間から出てきて伸びてくる。もう如意棒じゃねぇかっていうぐらいに伸びてくる。そして、ついに棒を持っているであろう『何か』までが異空間から現れたのだ。
猿。
もう紛うことなき猿だ。
「え?」
猿廻しの猿そのまんまだ。
ちゃんと可愛らしい赤いオベベを着せてもらっている。
猿が出ると同時に、羽衣の女は自らを異空間へと引きずり込んだ。
「や…や…べぇぇェェェ!!!」
俺が叫んでいた。
なぜ叫んだか?
いつの間にか俺のブレードは如意棒のような真っ黒い棒に押し返されて、しかも何故かその如意棒からは重力波を検知したからだ。ただの重力波じゃない、そう、キミカ・インパクトのソレだ。
「あッ…ぶねぇ!!!」
身体を空して右へと転がって回避する。
(ズシィッ…)
如意棒の周囲が50センチぐらい沈むのだ。
キミカ・インパクトに比べると威力は小さいものの、まともに喰らえば致命傷には違いない。
「キキーッ!!キーッ!!」
猿は興奮した様子で俺に向かって吠えた。