158 重慶の春 5

俺とタエ、そして幼女(安倍議員)の3人は先ほどイチが鎮座していたエントランスに来ていた。
…そして、周囲の凄まじい状況に鳥肌すら立たせていた。
「ん…だよこれ…」
タエが思わず口を開いた。
そこには銃撃や砲撃を尽く刀によって斬り裂いたり弾き飛ばした形跡があり、それ以外にもバラバラに切り刻まれたドロイドや、人間のものと思われる綺麗な切断面の肉片が転がっている。ある者は壁に身体の半分だけぺったりくっつけたり、ある者は首が天井に飛んで突き刺さっていたり、あるものは腹から飛び出た大腸やら小腸などの臓物を必死に身体の中へと戻す途中で息絶えていたり、あるものは窓ガラスに身体全面をぺったりくっつけてガラスの向こう側から鋭利な切断面を理科の解剖中のカエルよろしく見えるようになっていたり…。
どれも全部、中国軍のものだ。
どうやらビル内に一気に突撃をするような手はずで仕掛けてきたらしい。…しかしイチが強すぎて全滅したってことか…。
「…まさかあれ、うちらの車じゃね?」
ん?!
タエが指差す方向には銃撃やら砲撃によって破壊されたリムジンがひっくり返っていた。運転席からはSPの日本人が飛び出て、既に死んでいる…でもイチやらはもちろんのこと、バトウやボゥマの公安も、総理の姿もない。
ってことは、逃げれたのか?
「うわぁ!!すっげぇーッ!!」
といったのはクマのぬいぐるみ野郎の田中くんだ。
「…んだよ、まだ生きてたのかよ」
と俺が言ってみる。
すると田中くんは何をトチ狂ったのか、それとも最初っからイカレポンチなのか知らないし知ろうとも思わないけど、俺に向かって素早く包丁で斬りこんでくる。
馬鹿が。
人形ごときの動き、俺が見きれないとでも思ってんのかァァァ?!すぐさま回転蹴りを肋の位置に叩き込んで瓦礫の中に飛ばしてやった。
すると人形ではなくタエがキレる。
「何すんだコラァァァァ!!」
「邪魔者をとりあえず始末しただけ」
「てめぇ喧嘩売ってんのかァァァーン?!」
「大安売りだよ!バーゲンセールだよ!!飛ぶように売れまくってるよ!!今なら宅配料ハマゾン全額負担だよこの野郎!!」
デジャブを感じる光景とはまさにコレ。俺の額とタエの額がゴッツンコして互いに田舎の不良よろしくガン飛ばしまくっている。
その時だ。
既に瓦礫と化していた階段からヨロヨロと階下へ降りてくる影。
「二人とも、何してる、早く逃げる」
カタコトの日本語。
ファリンだった。
「逃げようにも車がアレなんだよ!!」
タエが弾痕によって穴だらけにされたリムジンを指差す。
「地下に車、ある」
ファリンが地下に行くよう顎で指示するのだが、その時、周囲の空気が一瞬、変わったような気がしたのだ。そう、俺にもタエにも視界の片隅に違和感があるものが映った。
今、この『戦場』には違和感がある、羽衣のようなものを着た女性の姿が。ほぼ同時に、俺もタエもそちらを見て、言う。
「…第3波の準備が出来ましたってことォ?」
「はぁ?!何それ、笑えないんですけどォ」
俺は振り向いてファリンに言う。
「幼女を連れて地下駐車場に先に言ってて」
「なぜ?」
「第3波が来たからだよ!早く逃げて!」
俺とファリンの会話をよそに、タエは言う。
「つか、ここで始末するわ…召喚!!」
タエが手を右から左へとすっと振った。
空間が歪む。すると、その歪みの中から1体、2体、3体…ずらずらと7体ものアンドロイドらしきものが現れたのだ。デジャブを感じるぞ…俺はこれをどこかで見たことがあり、そして、俺は一度それを『操作』したことすらある。
処刑人…。
これは、ネトウヨが操作していると言われてる処刑人だ。
コスチュームは忍者のソレのようにプロテクターがボロボロの漆黒の布からチラホラ見える戦闘装束で、男が6人、女が1人。武器は刀にクナイにに鎖鎌やらミニガンのようなものまで様々。
一方で羽衣の女は口を緩やかに開き、うっすらと目を開け、漆黒の『奥』を見せながらニタァと笑った。そして漆黒のはずの『奥』にうっすらと青い光が見えた…いや、青い光が『現れた』
俺の瞳の色と同じ、自らが発光する青い光。
まずい。
これは…仕掛けてくる!!
ビデオで見た、あのゲロを吐くような仕草で女は目の前にカマキリタイプのドロイドを5体、中国軍兵を10名、多脚戦車を2機、あっさりと召喚しやがった!!
それに合わせて俺も召喚する。
印を結び、地面に手を置いて、
「口寄せ…フチコマ!!」
そう叫ぶ俺。
ひび割れた地面から黒い光沢のある数百枚の甲羅に包まれ、50対の気持ち悪い脚をワサワサと動かすムカデタイプのドロイド『フチコマ』を口寄せした。
「ブゥゥゥルゥゥゥゥゥゥォォアアァァァァァァァァ!!」
「薙ぎ払え!!」
気味悪いフチコマ百足の口の中が緑色に輝く。
しっかり食らって、ごちそうさましろ!!
BFGだ!!
エネルギーボールが緩やかな速度で羽衣女を中心として召喚された中国軍の部隊に飛んで行く。バリアが展開されるが、ドロイド以外の一般兵にはバリアが無いか、あっても出力が弱いのだろう、あっというまに身体のいたるところから炎が噴きでて真っ赤に燃える。
BFGを皮切りにしてタエがコントロールしているであろう7対のアンドロイド…処刑人も一斉に攻撃を仕掛けた。