158 重慶の春 2

会談が行われているビルの表玄関には、大破した戦車が並んでいる。そして死体の山が築かれていた。
激しい戦闘がここで行われていた形跡だ。
バトウとボゥマは怪我一つ負わないでピンピンしてはいるものの、中国側の軍やSPの怪我人をビルに運びこんでいる。
そんな正面の道路にはイチが仕込み刀を持っている状態で突っ立っている。あの仕込み刀で弾き飛ばしたであろう、銃弾やら砲弾やらがイチの周囲に銃痕やらクレーターやらを残している…鉄壁の防御だな。
しかもこれで盲だっていうんだから恐ろしい。
障害者と言って馬鹿にできないものがあるな。
「クソッ…ダメだ」
バトウは運んでいた日本人のSPの首元を触って脈を確認していたが、もう死んでいると分かると乱暴に遺体を背中に持ち上げて、道路に並べた。
「こりゃ第二波が来るな…これ以上、死人を出すわけにはいかねぇ…キミカ嬢!お前はこの盲の凄いドロイドバスターと一緒にビルを防衛してくれ。俺とボゥマは軍の連中と作戦会議だ」
「了解」
それから、どこから狙われてるのか分からないがスナイパー野郎がイチや俺に向けて銃を放ってくるが、俺もイチも刀でそれを弾き飛ばした。位置が分かれば逆襲でもしてやろうかと思ったけれど、少なくとも射程内に居なければこの位置を離れることになるからな。缶蹴りのようりょうで、鬼はこの位置から離れるわけにはいかないんだよ。
向こうも向こうで俺とイチがドロイドバスターと分かるとそう安々と近距離攻撃を仕掛けてくる気配はない。
まてよ…今、名案を思いついたぞ。
「口寄せの術」
印を結んでキミカ部屋から俺自身と同じ姿のアンドロイドを転送した。これも柏田重工兵器研究所でナツコから貰った俺のウェポンだ。ナツコは囮として使ってくれと言ってきたけど、そんな勿体無い事はできない。俺が制御するんだから、俺と同じぐらいの動きのはず。
そう、ザ・セカンダリ・キミカだ。
キミカ部屋からプラズマライフルを取り出してセカンダリに渡した。その間にも銃撃を受けるからそれは動体視力・動きともに早い本体である俺が防いだ。で、セカンダリはその間にビルの瓦礫の中に入って、撃ってきたであろう位置を狙って狙撃だ。
そんな位置が簡単にぽんぽんわかるもんなのかって?
わかるさわかるよわかるんだよ!!俺に放たれた弾道の方角・傾斜角が分かればどこから撃ってきたのかわかるって理屈じゃないか簡単だよ!それが計算できたのなら!
そう、俺はそれを計算して、瓦礫の間に隠れているセカンダリで、そいつのドタマに狙いを定めて、
(パシュン)
軽い音が出て、ビルの間からのぞかせた中華兵士の頭に血の花を咲かせる。次から次へと…ほらほら、狙ってこいよ!狙ってきたら、狙ってきた奴の位置がわかるからさ!!
暫くソレを続けているとさすがに向こうも気付いたのだろう。
このまま遠距離で狙撃するのも難しいって。
「フヒヒ…」
俺が下品な笑みを浮かべたその時だった。
遥か遠くで『どんこどんこ』と運動会とかお祭りが始まる時みたいな音だけ花火の音がしたと思ったら、俺の隣で突っ立ってるイチに『砲弾』が直撃しそうになっているじゃねぇか。
心配なんてするわけがない、が、イチは必ずそれらの砲弾を刀で斬って弾き飛ばす。つまり、俺は歩道を歩いている時に車道側の車のタイヤが犬の糞を跳ねて俺に飛び散ってくるというあのシチュエーションで、砲弾の爆風が俺を襲ってくるというオチが待ち受けてるんじゃねぇのか!!クソッ!!
爆風によって撒き散らされる破片、その他もろもろをブレードで弾き飛ばすも、爆風で俺自身は弾き飛ばされた。
瓦礫の中に転がり込む俺。
そのそばではセカンダリがいるから、セカンダリの視点では俺がとても情けなく転がり込んでくる様子が映るのだ。
ヨロヨロと立ち上がってイチのほうを見てみると、目を瞑って寝てんのか起きてんのかしらないけど、その全盲障害者野郎は涼しい顔をして突っ立っているじゃないか。
「くっそ…」
隣にいるのは危険だな。
再びバトウから電脳通信だ。
『予想していた以上にまずいことになってるな…』
『あたしは何一つ問題なく終わると思ってたよ!!予想大外れすぎて正直疲れてきてるよ!!』
っていうか予想してたんなら心の準備するからその予想を話しておいてくれよォォ!!!
『空港も反政府ゲリラに襲撃されてるっていう話だ』
『じゃあどうやって帰るの?』
重慶市の南にヘリポートとして使われていた建物がある。そこまで車で移動してから、アサルトシップと合流し脱出する。今はまだ海上だ。もちろん、帰りも対空ミサイルが配備されていないルートを戦闘機避けながらの旅行になるだろうがな…』
反政府ゲリラっていうのがどんなものなのかはわからないけれども、少なくとも重慶内にこれだけの軍隊を展開させるだけの力を持っている連中だよ。同じ重慶市内のヘリポートから脱出するなんて…。
『無理ゲーくさい』
『無理ゲー言うな。俺達の仕事の出来次第で作戦の成功の有無が決まるんだよ。こりゃおお仕事だぜ…』
『それで、いつ出発するの?』
『10分後だ。第二波は来そうか?』
『さっきからスナイパーがチラホラこちらに近寄ってきたふしがあるけど、何人か殺してから音沙汰なしだよ』
『おかしいな…何かを待ってるのか?』
何かを待っている…だとゥ?!
それは考えてなかった。けれども、十分に可能性はある。俺とかイチみたいな鉄壁の防御をするような輩が要人の前に立ちはだかってるんだからな、守りきれないぐらいの物量で押し寄せられてきたら、それでも俺とイチは助かるだろうけれども総理も議員もアウチだ。
『い、嫌なこと言わないでよ…これ以上敵が増えたらあたしは自分の命しか守れなくなるよ!!』
『とにかく10分後に出発だ。車は4台に分かれていく』
『なるほどぉ!!狙われても死ぬのは4分の1の確率!!』
『全部まとめてやられる可能性も捨てきれないがな…』
『…』
『キミカ嬢とタエ嬢は安倍議員の護衛だ。で、総理の護衛は俺達とあの盲の凄いジジイだ。とりあえずフロントの守りは盲のジジイに任せておいて、お前は一旦中に戻ってこい。ちょっと聞きたい事がある』
『聞きたいことォ?』