158 重慶の春 1

血相を変えた中国側のSPが数名、会議室へと駆け込んでくる。
国家主席に向かって中国語で何か話しているが、それはアンドロイドによる通訳の対象外なのでわからない。だけれど、俺でも分かるキーワードが中国語の会話の中に混じっているのだ。
『ドロイドバスター』
そう、明らかにSPはその単語を口にしていた。
ドロイドバスターが居るっていうのか?!
さっきの爆発もそいつが起こしたものか?
その時、再び凄まじい爆風が、今度は向かい側のビルではなくこちらのビルを中心として発生した。
狙ってきてる。
『キミカ嬢!』
バトウから電脳通信が入る。
『何が起きてるの?!』
『突然街中に軍隊が現れた!!一体どっから出てきたのか検討もつかない!とにかく外に出てきてくれ!!今、交戦中だ!』
交戦中って、アンタの装備で軍隊とやりあうっていうのかよ!
『護衛はどうするの?!』
『俺達が殺られたらどのみち終わりだ!お前が主戦力なんだから表でて大暴れしてくれって意味だ!護衛はタエに任せとけ』
タエを見てみるとあたふたしながら「マジ?!ありえないんだけど?!ってか中国はこんなの日常茶飯事なの?!」などと言ってる。
「タエ!アンタは総理と幼女の護衛やってて!」
「え?!ちょっ、アンタはどうすんの?」
「あたしは外で暴れてくる!」
廊下へ飛び出す俺。
ドロイドバスターに変身しようと思ったけど既に変身中だったことに気付いた。ショックカノンを引っ張りだして窓ガラスを吹き飛ばすと、外へと身体をダイブさせる。
中国政府は一応は安全面を気遣って、会談が行われるビルの周囲を封鎖していたようだ。そこに軍を配備して防衛に当たらせてたらしいが、今は少なくとも道路に面した部分は瓦礫の山になっている。
しかも、綺麗にバリアからはみ出ていた戦車だけが爆撃にでもあったかのように大破している。戦車自体はバリアを備え付けてないってことか?でもドロイドバスターが暴れてるって気配はしない。
確かに一体どこからやってきたのかっていうぐらいに、ほぼ同じ軍服を着ている中国軍が、ビル正面の戦車と交戦している。辛うじてバリアで向こうの攻撃をある程度は塞いでいるけれども、ギリギリだ。電力が落ちてくると一時的にバリアが解除されて、その時に放たれた戦車砲はすり抜けて応戦している戦車を破壊する。
火力が圧倒的に向こうが多い。
俺は柏田重工兵器研究所で貰った武器の一つ、グングニルの槍みたいな対戦車兵器を取り出す。
それを持ったままビルの間を抜けて空へと飛び上がった。
ビルの谷間には今まで民間人が居たのに、既に死体の山ができている。その間を多脚戦車は中国軍が闊歩しているのだ。
「いっちょ巨大な花火をあげちゃいますか!!」
空爆するかの如くグラビティコントロールで自身の身体を急下降させ、敵部隊の上空100メートルぐらいに近づいた。
その時、戦車の間に歩いている蜘蛛タイプの小型ドロイドが俺の方向に何かを向けているのだ。
「あ、クソッ…」
白い煙を上げて青く光る30センチぐらいの小型ミサイルが弧を描いて俺へと接近してくる。
「こういう時は…」
グラビティコントロールは通常は身体を宙に浮かせたり飛んだりすることに使っているが、様々な物体に重力を設定することで、張り付くことができる。もちろん『地面』には自分だけが貼り付ける程度の重力しか発生させない…多めにすると色々なものが飛んでくるからな。
俺はビルの俺が歩く場所に重力を発生させる。
そしてビルの側面に『着地』して走る。
身体を斜めにしスライディングするようにビルの側面に滑り込んだ…間抜けなミサイルは俺に綺麗に俺に命中させれずに、ビルに突っ込んで爆発。秘技『壁走りの術』
すると、ビルの谷間から蜂タイプのドロイドが突然現れた。俺が発生させた重力に影響されてか、バランスを取るために微妙な動きをしながら…中国製ドロイドは反重力装置を持っていないらしく、2本のヘリのようなプロペラが背中に回っている。
グングニルの槍を突き刺す。
バリアを貫通して胴体に穴を開け、そこから溶けた鉄が吹き出る。
「おらッ!!」
蜂タイプのドロイドを槍で捉えたまま、ぶんっと振り回して地面に叩きつけてさしあげる。それを合図にして、ミサイルがダメならと中華戦車やドロイドどもが一斉に機銃掃射する。
俺の周囲にバリアが発生する。
すかさず、手に持っていたグングニルを最大の力は地面に向かって投げる。俺の周囲の砂埃が一瞬、衝撃波で吹き飛んで、晴れる。
バリアを伴ったグングニルの槍は、慌てて機銃掃射のターゲットを迫り来る『何か』に向ける中国軍の輩どもの銃弾の雨を防ぎながら、どっしりと腰をおろしている戦車に突き刺さった。バッテリー車が配備されていてバリアも発生していたが貫通したのだ。
「喝ッ!!」
そう叫んで俺はグングニルに装填されている爆薬のスイッチをオン。
戦車を中心にしてカメラのフラッシュのようにまばゆい光が周囲に放たれる…と同時に高熱を検知して俺のバリアが再び作動する。
「ちょっ…!!」
一瞬、戦車が木っ端微塵に吹き飛んでクレーターが出来たのが俺には見えた。そのまま俺の身体も戦車の周囲の部隊も衝撃波で吹き飛んだ。俺なんてそのままビルの壁を空へ向かって転がりながら、屋上から空に向かって投げ出された。
「すげぇ…」
空高くに舞い上がった俺はそのまま空を飛びながら、放ったグングニルの槍の威力を確認していた。
『何が起きたんだ?!高エネルギー反応があったぞ!』
ボゥマから電脳通信が…というか混線しまくってバトウの怒鳴り声も聞こえてくる。そうとう手こずっているみたいだな。
『キミカ嬢!大丈夫か?!』
バトウからも通信。
ラピュタの雷槌を食らわせてあげた』
『お前か!!』
旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火だよ。ラーマヤーナではインドラの矢とも伝えているがね』
『ちょっとは手加減しろ!今ので軍事衛星との連絡が出来なくなったじゃねぇか!!』
『嘘ォ?!』
『強烈な電磁波が出たぞ!』
『EMPの能力まであるなんて知らなかったんだよォ…』
『…使う前には説明書を読もうな』
爆心地から500メートル四方は瓦礫の山と化した。ビルも吹き飛んで残骸なのか灰なのか瓦礫なのか死体なのかワケのわからない状態になっている。しかし、バッテリー車を引き連れていた多脚戦車やその周囲に隠れていた兵はまだ生き残っている。
辛うじて瓦礫で身動きがとれない状態ではあるけど。