156 安倍ちゃん 9

「な、な、な、なんじゃァァァこォォりゃぁぁぁぁァァァ!!!」
松田優作ばりに驚いて見せるのは安倍議員だ。
それはまさに俺のリアクションスキルといい勝負で、椅子から転げ落ちて床に設置してある中国かどっかの壺っぽい置き物に頭をぶつけるところまでやってのけてる。
しかし、この安倍議員のリアクションが凄まじいにもかかわらず俺達はそれに反応することが出来ない…というぐらいの精神的な凄まじい衝撃を、今、ディナータイムに出された『朝鮮料理』を前にして受けているのだ…。
まずこれは朝鮮に古くから伝わる『宮廷料理』という分野に伝わる料理だという前提で、そして、これを手がけるのは朝鮮でも歌って踊れるアイドルで宮廷料理まで作れるというアーティスト「クサイ(KSAY)」が手掛けているという前提で、今からの俺のモノローグから何かを感じ取ってほしい。
「こ、これ…マジで食べ物?」
最初にそう震える声で言ったのはタエだ。
タエの前にはどう考えても日本の盆栽をあしらったような、いや、素直に表現しようか…『盆栽の上に料理を乗せた食べ物らしきもの』が出てきてる。
日本人なら盆栽という形に料理を加工して「実は食べれるんですコレ」と驚かせるが、朝鮮の宮廷料理は盆栽の上に料理をのせて「実は食べれないですコレ」と別の意味で驚かせている。いや、マジで斜め上の発想に驚いているのだ。
まずタエと総理の前に置かれた盆栽は松の木で下には苔が生えている。
そしてその松のあの尖った葉の部分には刺し身が『刺して』ある。ここで日本語を知らない外国人は「刺し身が刺してあるのならそれで刺し身じゃないか」と思われるかもしれないが、残念ながら刺し身とは何かに指すから刺し身と呼ばれるのではない。少なくともまるで『百舌の早贄(もずのはやにえ)』のように葉や枝の尖った部分に刺し身を刺すものではない…。
「っていうかこの苔の中に葉っぱの裏側とかに住んでる系の色々分解する虫がウロウロしてんだけど…これ、マジでどっか外に置いてあったものを持ってきてるだろ?!」
タエが怒鳴る。
しかし総理は落ち着いた顔で、
「なるほど、百舌の早贄をイメージしたものか。この松の葉に刺さっているバッタも刺し身を加工して作られているということか…」
と箸でそれを取って醤油をつけて食べている総理…。
「総理!!それ本物のバッタだよ!!」
タエが怒鳴る。
「ふむ…どおりでバッタと同じ味だと思ったらバッタだったのか」
食う前に気づけよ!!っていうかバッタ食ったことあるのかよ!!刺し身をバッタに加工するだけの技術は日本にはねぇよ!っていうか誰もそんなのやりたがらないよ!
下手くそな日本語で料理人である「KSAY(クサイ)」が言う。
「日本にある百舌の早贄をイメージしてみました」
イメージすんなよ!!
っていうかなんで朝鮮の宮廷料理で日本をイメージしてんだよ!!
「っていうか、キミカ、オマエ、なんか…『川』流れてんぞ?」
そうなのだ。
俺と安倍議員の前に出された盆栽は既に盆栽の領域すら超えていて『日本庭園』のソレのように川があり、池があり、金魚が泳いでいるのだ。
クサイが言う。
「日本にある日本庭園をイメージしてみました」
すんなよ!!食べ物で遊んでんじゃねぇよ!!
「ふ、ふ、」
顔を真っ赤にした安倍議員(幼女)は立ち上がると目の前の盆栽の袖を持って、ゆっくりとそれを持ち上げようとしている。もうそれは日本の伝統的な『ちゃぶ台返し』のソレになっている…が幼女の体重よりも重いであろう日本庭園を模した盆栽(料理)がひっくり返るはずもない。
「ふざけるなァァァァァァ!!!」
ひっくり返らずに幼女の怒鳴り声だけが響く。
それに続けて幼女(安倍議員)は、
「貴様ら朝鮮人には他国の文化を真似することしか頭にないのか!!朝鮮の宮廷料理だと言われて来てみればなんだこれは!!料理ですらないだろうが!!!あまりにも斜め上すぎて、もう真似にすらなっていない!!貴様ら朝鮮人はこれを『日本食』だと風調し、それだけに飽きたらずこれらの起源が我が国にあるとまで世界中で言いふらしているようだが、そんな土人国家と我が国が対等に話が出来ると思っていることがおこがましい!!消えろ!!」
この時、どれほど通訳が普通の人間ではなくアンドロイドだとよかったなと思ったことか、通訳の朝鮮人は途中までは安倍議員の話を朝鮮語に訳していたが、途中からは通訳も顔を真っ赤にして髪を掻きむしって文字通り「ふぁびょ」ってる。
悪口を言われたら確かに怒るだろうけれど、こんな盆栽を前にして素直に食べろというほうが難しい…。通訳の女はブチキレモードであたふたとするクサイと共に部屋を去った。
静まり返った部屋では小川のせせらぎだけが聞こえていた…っていうか、この小川も料理の一部なんですけどね…。
「昔から出されたものは残さず食べろと言われたが、私のところにはバッタ以外ないのだが」と総理が自分の盆栽の周囲を見て回る。
「いやもう食べ物じゃねぇって!!」
それを止めるタエ。
それから、「つか、どうスんの。外に食べに出るって言ってもどうせこんな感じのばっかりだろ?」と言った。
それに対しては総理が返す。
「タエ君とキミカ君は外出は可能だが、我々は基本的にホテルの特定の区域から外へ出ることは安全上の理由からできないのだ」
なるほど…要人だから仕方ないか、こればっかりは。
「安倍議員が水を専用タンクで持ってきたぐらいだから多分、専用の日本食があるんじゃないのかな?」と、俺は部屋の隅に立ってるSPのほうを見る。
慌ててSPは、
「上と相談してみます。確か我々に配布されている携帯食があったはずです」
とか言ってる…おいおい、十分に準備されてない感があるぞおい…。
「つぅかキミカが携帯食持ってんじゃね?」
突然タエが俺の名前を出しやがる。
「携帯食ゥ?」
「さっきホテルロビーで携帯食ボリボリ食いながらドヤ顔でMBA触ってたじゃん」
クソッ!!
コイツ、見ていやがったのか!!周囲にはタエが居ないことを確認してからドヤってたのに…側にいたのは田中くんだけだったはず…まさかあのくまのぬいぐるみもタエがコントロールしてんのか?!クソッ!迂闊だった!!
「本当か、キミカ君。そういえば前にも一緒に遭難した時に空腹を凌ぐためにキミカ君がボリボリ何か沖縄のちんすこうなどというお菓子を食べていたようだが」
「た、たベテたケどォ?」
「あぁ!それだよそれ!ちんすこうボリボリ食ってたよ」
「携帯食じゃなくてお菓子じゃんかよ!なんであたしのお菓子をみんなに分け与えなきゃ行けないんだよ!っていうかこうなることぐらい想像出来てたでしょうが!なんで食べ物日本から持ってきてないんだよォォォ!!」
「まぁ落ち着くんだキミカ君。とりあえずちんすこうは余ってないのか」
どんだけ乞食根性やねん総理は!!