155 デス・ノート・オブ・ネクロノミカン 7

俺とメイリンはひたすら走った。
息が続かなくなって呼吸が停止しそうになっても、それでもひたすら走った。廊下を抜けて本校舎を走り抜けて玄関を抜けて温水屋内プールの更衣室へと、辿り着けたのなら…奴らを止めることができる。
と、その時だった。
俺の周囲にとてつもない衝撃波が走り抜けた。
衝撃波と共に壁や廊下や天井の『皮』がペラペラとめくれ上がってその下からは別の色調の、…モノクロというかモノトーンというか、黄昏カラーというか、そういう色になり、表現しがたい空間へと変化したのだ。
「ど、どうなっt…」
「から、だ、がうご…か…ない」
う、うわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!
俺の身体が、俺の身体もさっきの衝撃波よろしく皮がペラペラと捲れて吹き飛んで下から別の身体…『男の身体』が姿を現したじゃねぇか!!おいおいおい!!メイリンもヒーローの変身シーンよろしく皮剥がされて下から男の身体が姿を現したぞおいおいおいおいおいおい!!!
「どうしたんだ?そんなに慌てて」
って、これ、俺の声じゃねぇか!!
いや、俺が勝手に話してる…俺の意思を無視して勝手に。
男の俺が勝手に男に戻っているメイリンに話しかけてるぞ!っていうかどうしたんだって知ってるだろうがなんで慌ててるか!!
「いや…その…トイレ…」
トイレだったのかよ!!
お前さっきから俺と一緒にトイレ行こうと走ってたのかよ!!うわー!偶然にもそっちにトイレがあるわぁ!!奇遇だなぁ!!
「寂しいじゃないか。どんな時でも…一緒に居たい願ったのは…。記憶違いかな?メイリン…お前のほうじゃなかったか?(クスクス」
何を言ってるんだお前(俺)は。
っていうかやめろよ!顔を近づけるな!っていうか周囲に女子が集まってきてるじゃねぇか!普通そこでやめるよね?おいおい…ヤメロォォ!!!
「その…ごめん…なさい。日本、よくわからなくて」
え?!日本関係ないよね?!
メイリンもコントロール下にあるのか!クソッ!
「わからない?あれだけベッドの上で教えてあげたじゃないか…まだしたりないようだな…ハシタナイ、オス豚君…」
オス豚君入りましたァ〜…。
男モードの俺は男モードのメイリンの顎にそっと手を添えて、クイッと自らのほうへ向かせるのだ。そして親指で奴の唇を…ォォゥェエ゛エ゛ェ゛ェ…。
「だって…キミカが…ボクを挑発するから…」
「甘えてもいい。始めての国で…始めての高校生活…そして、始めての同性とのセックス…戸惑いがないと言ったら嘘になるじゃないか。俺がお前の初めての男だ。それはもう変わらない事実なんだ」って何言ってんのお前?頭にウジが湧いてんのか?!いつ俺が男のメイリンとセックスしたんだよ!おーい!!
ゆっくりと男モードのメイリンの唇が近づいてくる…やばい、あと1センチ…あと0.5センチ…!!神様仏様!!どうか奇跡を…!!
「「(ンチュ…クチュ…)」」
ぎゃぁぁぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁああ!!
と、そこで周囲に再び衝撃波が走る…。
っていうか既に俺とメイリンの間には色々衝撃が走ったけどね!!
か、解除…された…。
俺の目の前には美少女メイリンの顔が、それに苦々しい顔でキスしてる俺の姿…。いつのまにかBLが百合ゲーに変わっていたという雰囲気だ。
「「(ンチュ…クチュ…)」」
ん…んん!!
メイリンの身体を突き飛ばす俺。
「いつまでキスしとんねん!!」
突き飛ばされたメイリンはパンチラしながらも顔を赤らめてはぁはぁと熱い息をまき散らし、涎も垂らしながら、「男も、女も、イケる」と一言。
「うわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ふっふっふっふ…」
「変態がいるよぉぉぉぉ!!!」
周囲を確認するとさっきまで女子どもは俺達がキスしてるのを見ていたはずなのに、今は何も無かったかのように廊下を歩いてる…けれど、どこか顔は高揚したままの状態だ。どういうことだ?記憶だけ削り取られて感情が残ってるのか?
「と、とにかく急がないと!ほら!メイリン!立って!」
「あ、あへ…あへあへ」
「?!」
(じょー)
「こ、こいつ…『お し っ こ も ら し と る!』」
もうダメだ!とにかくこのアヘ顔の馬鹿を放って行くしかない。
突然ケータイから電話が入る。
『もしもし!』
走りながらそれにでる。
『キミカ…今、監視カメラを確認してるんだけど、女子更衣室の腐女子2名が、今、2ページを書き始めたところ!』
『ご丁寧にどうも!!2ページは目はあたし以外?!』
『ばっちりキミカが入ってるよ!キミカが入ってるっていうかキミカ「に」入ってるというか…』
『一文字変えただけで大変な事になってるよォォォォ!!』
入ってるって、挿入されてるって事かよおいおいおいおいおいおい!!!腐女子の薄い本では挿入は肛門じゃなくてやおい穴っていう架空の性器だったよな?!架空の性器だから挿入はないよな?!教えてくれよママーン!!
『とにかく急いで!メイリンは何してるの?』
メイリンは…やられた…』
メイリンが意識不明だったら今描いてるストーリーは有効にならなかったのに、次の相手はコーネリアになってる…』
ン…だとゥ?!
コーネリア?!
慌てて周囲を見渡す俺。
いない。
「ふぅ…」
とりあえず今、周辺にはコーネリアは居ないからあの変なモードには突入しないかな?ったく、焦らせやがってクソが!!
「Hey、何シテルノー?」
「うわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」
なんで偶然にも居るんだよここにィ!!!
「反応ガイチイチ面白イデスネー」
「とにかくあたしから離れろぉぉぉぉ!!!」
「Wow!突然Bigナ声ヲダサナイデクダサーイ!」
「はやく離れて!離れないならあたしが離れるから!」
そう言って俺はダッシュで逃げ出す。まだ有効になってない…今のうちに完全に距離を稼いでおけば…!!!
「Hehehehehehehehe!!ドウシテ逃ゲルノー?!」
お前わかってるのかよォォォ!!!
全ッ然ッわかってないよな!それ!!
「あたしにとってもコーネリアにとってもヤバイ事になるんだよぉぉぉ!いいから早く離れてってば!マジで!!」
「Hahahahahahaha!!!」
来るなぁァァァ!!!!
逃げる俺の正面から空間が裂けるかのように壁や廊下や天井がパラパラと音を立てて剥がれていく。中から黄昏色の空間が広がっていく…マジ…で…。
「捕まえた!」
俺の身体を抱きしめてくる強い感触…これは、コーネリアの腕じゃない…、コーネリアが女の子の時の腕じゃない…これは…。
男モードのコーネリアの腕だ!!
うわぁ…。