155 デス・ノート・オブ・ネクロノミカン 6

「そんなところに仕込んであったのか…」
壁の4隅にある照明の裏側に親指ほどの小さなカメラが仕込んであった。一見すると調度品である照明器具の部品の一つだと言われても気づかないほどに、色や質感も同じ。おそらくはメイリンが使っている監視カメラキットの中には、こういった質感を備え付けるものに似せる道具も同封されているのだろう。
「キサラ、物質がどういった用途で作られているべきなのか、調べる能力がある…」
「?」
「私の敗因、それは監視カメラと照明器具を分離させたこと。そうするとキサラの能力でそれぞれの『用途』がバレる。この部屋に必要ないものがあることがバレる」
「そ、それってドロイドバスターの能力のこと?」
「そうだ」
メイリンはカメラだけ外せばいいものを、どういうわけか照明器具ごと取り外した。
そしてそれを工具を使って分解しながら、
「だからこのカメラ、そして照明、それぞれお互い必要とするようなってる。カメラ、照明への電源供給、それと、スイッチ機能がある」
「なるほど…『盗撮をする』っていう目的がわかりにくいようにしてるのか…」
その時俺の隣でそれを見ていたキリカが口を開いた。
「ドロイドバスターの探知能力の話。それぞれのドロイドバスターはコントロールできる力に類似した探知能力を持っている。例えばメイリンやマコトの場合はパワーをコントロールできるから、電子の流れや温度、物質の動きを検知できる。キミカの場合、空間や時間の歪みや重力波を検知できる。コーネリアやキサラのような物質変換の能力を持っているドロイドバスターは探知可能な範囲が狭い。そこに存在する物質の状態の変化を検知することはできるけれど、あくまで事前の状態を把握している前提だから」
「っていうとキサラがいつぞや監視カメラがあるのに気づいたのは…」
「キサラは物質がどのような状態であるかを検知すると共に、アカシックレコードに問い合わせてどういう用途でそれがそこにあるのかを知ることも同時にやってるのだと思う」
「なるほど。そういえばキリカの場合は何が探知できるの?」
そう俺が聞くと、キリカはニヤリと笑ってから、
「知りたい?」
と聞いてくる。
アカシックレコードの能力…つまりそれはこの空間外にある霊的なものと接続することだから、つまりその検知対象は…。
「ヒィーッ!!」
「ふっふっふっ…私の検知、それは本当にあった呪いのビデオシリーズの『おわかりいただけただろうか?』の部分をはっきりと『おわかりになれる』能力」
「ウワーッ!!聞きたくない!」
「もう遅いィィ!!」
俺の上にキリカが跨って俺が手で塞いでいる両耳を解除しようとする。
などと…キリカとじゃれあってる間にもメイリンは淡々と分解を終わらせたようだ。
目の前にはカメラ内にはめ込まれていたマイクロ・データディスクが姿を表した。
「さっそくaiPadで鑑賞だ!」
俺はデータディスクを受け取るとaiPadのジャックへとそれを挿入&動画再生。時間は今日のお昼休みからァ…俺達が出て行った後はしばらくは部屋の状態は変わってないから、部屋の状態が変わるまで早送りする機能で、早送りィ…して、時計は14時過ぎ。
「あ、鍵が開いた」
「キサラ先生とソラさんだね」
「あの二人、またここでセックスしてるのか?!」
驚愕するメイリン。すぐさま彼女はaiPadを操作して、部分映像コピー機能で二人のセックスシーンを別データへとコピーしている…。
キリカは顔を赤らめ、その顔の上を手のひらで覆って、それでいて時々チラチラと指の隙間からそのエッチシーンが始まるか始まらないか寸前の状態を見ていた。
「なかなか始まらないね」
と顔を赤くしながらキリカは言う。
「ん?いま、一瞬、廊下の方を誰かが…通った。っていうか頻繁に特定の人物が外を通って部屋の中をチラ見してんだけど」
俺は見つけてしまった。その動体視力で。
「水泳部部員じゃん」
カメラに少しだけ顔をのぞかせたタイミングでストップボタンを押した。
「ふむ」
キサラもソラも視線を感じ取ったのだろうか、慌てて身体を放して『服を正し』口笛を吹きながらも窓の外を見たり、意味なくプリントを見て議論したりを繰り返してから、いそいそと廊下の方へと出て行った。
鍵を閉めるのを忘れたまま…。
「この人達が鍵を閉めるのを忘れたわけね…」
キリカがジト目で映像を睨んで言う。
すると、ものの5分と経たないうちに、さっき廊下をウロウロしていた水泳部の部員が部室に入ってきたのだ。…コイツ、俺が勧誘した岸尾巳子(きしおみこ)っていう顔も体型もイマイチな1年部員じゃん。
「真っ先に本の場所に歩いて行くな」
メイリンが言う。
そう、ミコは迷うことなく調度品が飾られてる部屋の中で『ネクロノミカン』へ向かって歩いていく。まるでその本がどういう用途で使えるのか知っているかのように。
よく見ると廊下のほうではあたふたしながらも水泳部の一年のもう一人『神津まどか』が待っている。いや、廊下から他の人間が来ないかを見張っていると言ったほうが良い。つまりコイツ等はたまたま通りかかったんじゃなくて最初から計画してたんだ。
俺とキリカは顔を見合わせる。
「もしかして…」
「聞かれた?」
俺達の話をコイツ等に聞かれたっていうのか?!
「どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど、どうしよう?!」
もうジョジョの効果音じゃねぇのかっていうぐらいに『ド』を連呼した後に、あたふたと騒ぎだすキリカ。可愛らしい光景ではあるけれども大変な事になっているんだよね。
「そもそもあの本、なんだ?ショウワの落書き帳か?」
「違うよ、ネクロノミカンだよ。名前を書いたら書かれた人は死神に殺されるっていう」
デスノートのことか?」
「だから!違うってば!」
俺とメイリンのやりとりに間に入ってくるキリカ。
「かいたことが本当になる本…」
「それを知ったらやっぱ『富と名声』をかいたりするんじゃないのかなぁ?普通の人間なら欲しいものは金とか恋人だとかそういう…」
目を輝かせてメイリンが俺に言う。
「おい!その本よこせ!」
「でもキリカが作った本だからろくなもんじゃないと思うk…ギギギギギ」
俺は最後まで言い終わるうちに最期がくるんじゃね?っていうぐらいにキリカが俺の首を背後からチョークスリーパーをキメてくる…ってお前はユウカかよ!ユウカみたいな柔らかいおっぱいが当たらないからちょっとマジで痛いよ!!
「かいたことが本当になる本。仮に金が手に入るストーリーをかいたとしても、それ以降のストーリーを全てかかなければ、ストーリーが終わった後は日常に戻るだけ。金を得ても、ストーリーが途中で終わってしまえば何らかの形で得たものを失うという代償を払う」
チョークをキメながらキリカは淡々とそう言った。
俺とメイリンはそれを聞いて生唾をゴクリと飲み込んだ。
メイリンが知ってて言うのか別として…『猿の手』っていう3つだけ願いを叶えるが、叶えられた願いの代償を何らかの形で払うっていう話を思い出した。アカシックレコード・マインドブラストやフェイトなどの能力を扱えるキリカがその本を作ったのだ…冗談ではない。
「と、とにかく、あの二人が本に何かをかく前に止めなきゃ」
「それならまかせろ!!」
言うが早くメイリンは俺のaiPadの遠隔カメラ操作アプリを…ってなんでそんなアプリが俺のaiPadに入ってるんだよ!おい!勝手に変なアプリ入れるなよ!!
「この学校の至る所、通信機能付きの監視カメラ、張り巡らせてある」
なん…だと?!
「さすが!!さすがやでぇ!いよッ!アンダルシアの変態紳士!」
思わず褒めてしまう俺。ドヤ顔になるメイリン
「ふっ…それは私、提供するエロ動画でヌいてから言え」
おいおいおい!カッコつけるシーンじゃねぇよ!
華麗にもメイリンIPアドレスをスラスラと入力してから言う。
「水泳部部員なら、水泳部女子更衣室…だな」
「(ごくり)」
映像は水泳部女子更衣室。
やっぱりあの二人が来ていやがる!俺は立ち上がって部室を出ようとしたが、メイリンとキリカの「待って!」というハモリぐらいに驚いて、二人の見ている映像を見た。
見なければよかった…と、俺は後悔した。
「何か描いてる?」
「拡大してみよう」
スケッチブックよろしく広げてある白紙のネクロノミカンに鉛筆でスラスラと何かを描いてるのだ。しかもそれは字ではない…そう、絵だ。絵を描いてる。そういう用途で使うとは予想もしてなかったからある意味拍子抜けした。
「ははっ、落書き帳だから落書きしてるわけか〜。可愛いもんじゃないですかー」
なんて俺は言ってた。
「書いたことが本当になるんじゃない…描いたことが本当になる。だから、使い方としては間違ってない…何を描いているのかが気になる」
「え…えぇ?!」
「さらに拡大してみよう」
そして、俺達の目に飛び込んでいた…。
それは。
キリカは顔を赤らめて、俺とメイリンは顔を真っ青にした。
美男子の絵がそこにある。
美男子の絵しかそこにない。
美男子と美男子が…裸で抱き合ってるんですけど…。
っておいおい!これ、なんか俺の男だった時と非常によく似てない?!
っていうかもう一人はメイリンが男だった時と非常によく似てるんだけど!!
俺は言う。
「描いたことが…」
メイリンが生唾を飲み込んだ後、言う。
「本当になる…」
と、止めろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!