155 デス・ノート・オブ・ネクロノミカン 5

「昼休みの間は確かにここにあった…」
と俺は言って、ネクロノミカンが置いてあったテーブルの上を指さした。
この部室は基本的には鍵を掛けてある。
というより、文化部の部室棟ではどの部屋もそういう運用をしなければならないルールがある。これは貴重品がある無しに関わらず、部外者も部室棟には夜間を除けば侵入ができ、しかも以前、実際に侵入されて物品を盗られるって事件が起きてたからだ。
昼休みの時は一人で出入りしたならまだしもキリカと一緒だったから二人が二人共、部屋の鍵を掛けてたのを確認出来ている。
「幻術にでもかかってない限り、あたしたちは昼休みにこの部屋に鍵を掛けて出て行った。だからあとは幻術にかかっていたとしたら、という可能性があるわけですが」
と俺が話を切り出すと、今までソファに腰をおろして情緒不安定にもガリガリと親指の爪を噛んでいたキリカが立ち上がって俺の元まで歩いてきて、再び俺の肩を両手で掴んだ。
「幻術の可能性は取り除いていいから!!」
ガタガタと俺の身体を揺らしながらそう言った。
揺らされながら俺は言う。
「だ、だからつ、つつ、つまり、この部屋に入れる人は、鍵を持ってる人、って、ていうことで、ドロイドバスター部以外の人間ではありえない、ん、ん、だよぉ!!」
「つまり盗ったのはメイリンって事だね!」
「いやいやそこまで言ってないし!」
「だって中がショウワの落書き帳だったとしても貰って帰る人なんてメイリンしかいないじゃんかよォォォォォ!!!」
確かにそうだ。
普段なら邪魔臭いと思って受け取らないティッシュ配りアンドロイドに渡される宣伝用ティッシュにしたってメイリンはバッグに貰って返り、一度は貰ったのに再び同じアンドロイドの前を通って顔認識で同一だと判断されない限り何度でもティッシュを貰って帰るし、あまつさえ使い切れないティッシュティッシュの箱の中に綺麗に収めてハマゾンのティッシュに新品として売ったりするぐらいの強欲っぷりなのだ。っていうか輸送費が掛かるわけだからどう考えても元は取れそうにないのだけれど。
「とりあえず…今メイリンを電脳通信で呼び出したよ」
「ありがと…」
小一時間してから。
「おい、私は何もやってない」
と開口一番に言いながら部室に入ってくるメイリン
「まだ何も話してないのになんで自分が疑われてる事になってるの!」
と顔を真っ赤にして怒鳴るキリカ。
「空気を読んだのだ」
うわぁ…こういう自分に取って不都合な空気は一瞬で読むよなぁ。
「とりあえずメイリンのバッグを調べさせてもらうよ」
異様に膨らんだ彼女のバッグを睨んで俺は言う。
「だから私は盗ってない!」
いやいや!まだ何も話してないのになんで盗った盗ってない系の話をし始めるんだよ!もう思いっきり盗りましたって言ってるようなもんじゃねぇか!
「だから今からそれを確認するんじゃんか!バッグを離せェ!」
メイリンはその手に血液が通わないぐらいに強くバッグを握りしめている。と、それを引っ張って取り上げようとする俺。
「や、やめろ!盗ってない!確認するまでもない!」
「そんなに確認されてくないのかなァ?!」
「この私を疑うというのか、中国人、嘘つかない」
「『嘘つき』に共通する見分け方を発見したよォ…それは…嘘つきは片言の言葉で『◯◯人、嘘つかない』と自らの国籍を言う!」
「「えっ!」」
メイリンとキリカが同時に驚く。
「う、嘘でしょ?」とキリカ。
「嘘だよォォん…でも…マヌケは見つかったようだなァァァ!!」
「はっ!」
一瞬、メイリンのバッグを握る手の力が緩んだスキを見て俺はバッグを奪って、一気にキミカ部屋(異空間)へと引きずり込んだ。
「やめろォォォ!!!」
キミカ部屋のアサルトシップ船内でバッグの中身を展開、確認する…。
「って、何これェ?!」
「盗ってた?」
ひとまず展開したものをテレポートさせてみる俺。
テーブルの上にメイリンのバッグに入っていたものを並べる。
ヨーロッパを思わせる様々な調度品の数々…これは高価なものやでぇ…。
「どこで手に入れたの?」
「私、盗ってない」
「盗ったなんて言ってないけど…」
キリカが部室を見渡している…もしかして…。
「この部室の調度品を盗ったの?!」
「(口笛を吹くメイリン)」
「やっぱりそうか…まぁ、ここはキサラが創りだしたものしかないから、盗っても別にまた創ればいい話だけどね。バレたら怒るだろうけども」
そう言って俺はバッグの中にそれら調度品を収めてからメイリンに返す。
「な、何がしたかった?!私、盗ってない」
いやもうそれいいから!!もう思いっきり盗ってるのわかってるから!
「昼休みにここにネクロノミカンっていう分厚い辞書みたいなのを置いてたんだけど、今来てみたら無くなってるんだよ。ティッシュも集めるメイリンならそれも盗ったんじゃないかって思って聞いてみただけだよ」
「確かに、私、この部屋に盗みに入った時、そんな本あった」
今、盗みに入ったって言ったよねェェ!?
「盗ってはいないの?」
「盗ってない。というか、外側は下品な動物の皮で作られてて中身はショウワの落書き帳…どう考えても小学生が作ったものとしか思えない。あれはハマゾンでは売れない」
「…」
キリカが横でわなわな震えながら顔を真っ赤にしてる…が、君、それが普通の人の君の本に対する反応だよ…俺は恋人だからそこまで言わないだけで…。
メイリンが盗ったんじゃないとすると…誰なんだろ?他に思い当たるフシがない」
「おい!まるで私だけが泥棒みたいだ!」
実際そうじゃねぇか!
そこでキリカが口を開く。
「キサラ先生とかがこの本を見たら、と思うとなんとなく思い当たるフシがあるような気がする。あの人、こういう面白そうなものをゲラゲラ笑いながら馬鹿にする性格だし」
「ん〜…確かに」
「それなら、私、この部屋に盗撮カメラ仕掛けてる。何が起きたか捉えられてる」
「なるほど!!」
メイリンの盗撮カメラの映像がオナニーする以外に役立つなんて思いもよらなかったよ!この部屋だとキサラとソラのエッチシーンぐらいしか役に立つもの無かったんだよね!