154 ハナガ…サイタ…ヨ… 8

しかし…突然春日に「見るなァ!」と叫ばれたので俺は春日から視線を外したままで話すしか方法がなかった。視線をわざとらしく逸らしたまま、
「一体、何だっただろうね〜…さっきの消防署のドロイドだね」
「うぅぅ…」
公園のベンチの側にはヒョロ長い男が女子のスクール水着を着てぺたんと座っている状況があった。その側には半笑いでスケスケのブラウスを着てる美少女…俺の姿。
「か、春日くん、変わったタンクトップ着てるね…」
「うん…」
「最近のはワンピースタイプなんだ…」
「う、うん…ワンピースタイプの…タンクトップなんだ」
マジかよ!!
聞いたことねぇよそんなの!!
もう超ハイレグで紐みたいに食い込んでるよ!!!
「春日くん…キン◯マはみ出てるよ…」
金玉が苦しそうだよ!真っ赤だよ!!
ごっついケツが頑張って耐えてるよ!!
「サイズが…合わなくて」
そりゃ合わないだろうよ!
140センチぐらいの身長の女の子が着るスクール水着だからな!
「そ、それと…春日くんに残念なお知らせ〜…」
「な、なんだい?」
「さっきの人達が…春日くんのシャツとズボン、持って逃げたよ…」
もう春日は完全に泣いていた。
大量に放水された後だから涙は見えなかったけれども、顔の筋肉をフルに使って泣き顔作ってるからそれはもう、涙も声も出ない泣き顔だったんだと思う。
それから…。
「(これ何て罰ゲームなんだよォォォォォォォォ!!!)」
俺は商店街の中で思わず小声で叫んでしまった。
罰ゲームだろこれは!!
なんでスクール水着着た春日と一緒に帰らなきゃいけないんだよ!
しかも食い込んで思いっきりアレとかアレとか見えてるし!!
俺はなるべく無関係を装うと、春日よりも3メートルぐらい離れて歩いた。
「いやぁ…なんだか今日は商店街を通る人の視線が暑いなぁ…」
などと言いながら俺は歩いた。
春日はもう無言で肩をヒクヒクとさせながら、俺の後ろ3メートルぐらいを歩いてる。もう奇行種だよ、立体機動に移ってくれよもう…。
そんな時だ。
肉屋の主人が俺に話しかけてくるじゃないか、勘弁してよ。
「お!キミカちゃんじゃないかー!どうだい?今晩のおかずにコロッケ!出来立てだよぉ?酒のツマミにもなるちょうどいい辛さだよォ?」
いやいやいや、それどころじゃないんだって!!
「ん?後ろに連れてる人は彼氏かーい?キミカちゃんも年頃だねぇ!」
ちげぇよ!!
なんで彼氏が女の子のスクール水着着てんだよ!
おかしいだろ!
「でも、彼氏くん、キンタマはみ出ちゃってるねぇ、今時ふんどしでもキンタマはみ出ないよ?サイズが合ってないんじゃないのかな?」
そこ!突っ込まないでよ!
っていうかサイズとかの問題じゃねぇから!!!
俺、もうフォロー出来上ないよ!!
「あ、新手のタンクトップなんですよ、パリコレでも紹介されたっていうワンピースタイプの…あはは、最近のタンクトップは過激ですよね〜」
よし、フォロー完了。
「キミカちゃ〜ん、冗談はよしてくれよ。おじさんでも分かるよォ。タンクトップじゃなくて『スクール水着』っていうんだよ」
「ですよねぇ〜…」
それから、なんとか魔の商店街を抜けて最後はバス停でバスを待った。
ここから春日はバスで帰るらしい。
「えっと、今日は色々あったけど楽しかったよ」
と俺は春日の方は見ないで話した。
「キミカさん、どうして僕から目を逸らして話すの…」
見て欲しいのかよ!!
お前の肉棒とキンタマがはみ出てるスクール水着を見たくないから目を逸らしてんだよ!!
「あ、あたしは昔から人の目を見て話せない系の人なので」
と誤魔化す俺。
「そ、そっか…僕とおんなじだね…」
それから、バスが到着。
春日がバスに乗ると一斉に女子の悲鳴が聞こえたが、しばらくしてから悲鳴は収まってヒソヒソ声に変わった…。そんな春日とおそらくは他校の女子高生を乗せたバスはバス停を過ぎていった。空はもう夕焼け空になっていた。
そして翌日。
春日も懲りただろうなぁ、なんて思って教室に入ってから、昨日の話を談笑しているコーネリアとメイリンにオハヨウを言って席に座る。
マコトは二人の話を大笑いしながら聞いていた。実はマコトは放課後は家の食事当番なので商店街に買い出しに言ってたのだ。
あ…商店街に?
「マコト、商店街の人、何か言ってた?」
「うんうん!言ってたよォ!!警察呼んだほうがいいんじゃないかとか、でもキミカちゃんが馴染みの客だから迷惑掛けるのもアレだしとか!!」
うわぁ…。
そんな時だった。
隣のクラスの男子連中が飛び込んできて、キミカファンクラブの団員と話をしてるのだ。そうとう驚いているらしく「やっべぇよ!マジッ!やっべぇ!」とか言ってるのだ。
気になって俺もメイリン、マコト、コーネリアもそいつの側に行く。
「何がどう具体的にヤバイんだよ、話が伝わってこないよ」
と団員は冷静にその男子に言う。
「とにかくやべぇんだって!!来てくれよ!!」
ん?
春日が何かやったのか?
昨日との関連でどうしてもそんな事が脳裏を過る。
春日は結構ショック受けてたから…ひょっとしたら…いや、まさか。でも俺だったらスクール水着着て商店街を歩いたら自殺モンだ。…まさか、自殺…?
しかも隣のクラスからは女子の悲鳴とかも聞こえたり、男子のオォォォ!という声もあったりと、なんか本当に嫌な予感を感じさせる。俺達のクラスの女子もユウカを始め、いよいよ隣のクラスで何が起きてるのか気になり始めていた。
俺やコーネリアやメイリンは事情を知っているので顔を見合わせながらも、廊下に出る。
そして隣のクラスを見る…。
「「「「う、うわぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」」
俺もマコトも団員達も一斉に叫んだ。
女子は「キャーッ!!!」と悲鳴を上げる。
メイリンとコーネリアはドン引き。
春日が…。
春日が…。
メイド服を着てる。
メイド服を着て、登校してる。
「な、何しとるんジャァァァァァァ!!!!」
俺は思わず叫んだ。
「あ!キミカさん!」
と駆け寄ってくる春日。
もう女声を出してる。意図的に3オクターブぐらい上げてる。
そして俯いてニコニコしながら春日は、
「キミカさんが言ってたように、私、自分の足で飛び出してみたんです。そしたら、世界が開けました!こういう世界を私、望んでいたみたいです」
おいおいおいおいおいおい!!!
思いっきり飛び出しちゃってるよ!
飛び出して性別の壁越えちゃってるよォォォ!!
「いや、あのそういう意味で言ったんじゃ…」
「キミカさんのお陰です!歯車から抜け出せたような気がしてます」
「そこの歯車から抜けだしちゃダメでしょォ?!」
しかし聞く耳持たず。
さすがの変態思考なメイリンもドン引き…っていうか俺達ドロイドバスターのコンセプトモデルは全員が元々男で、いやいやながらに女の子になった場合が多いから、そういう同族嫌悪的なものがあって春日にはドン引きするのだ。本能的に。
コーネリアなんて春日と目を合わせず、合ってしまうのが怖いのか早足でクラスへと戻っていった。マコトは最初っから背中を向けている。
もうそれから春日はクラスメートの男子達にサービスショットを取らせてやろうとカメラの前でポーズ取ったりする…高身長がたまにキズではあるけれども元々女性ホルモンが多いのだろうか、白くてすべすべした肌がメイド服から露出するのを男子どもは、自分の中にある何かを覚醒させながらも鼻息を荒くして見ていた。
俺は、俺達は、静かにその教室…いや、『凶室』を去った。