154 ハナガ…サイタ…ヨ… 7

二人本屋を出てからしばらく歩いていた。
まさにそれはデートをしている男女のようにも映っていたのだろう、もしメイリンがこのシーンを映像として残していたら学校帰りにカップルが歩いているようにも見える。
そして、そう見えるということはそれなりの『結果』が襲い掛かってくるであろう事も意識してる…このシーンをナマで見ている人間が、そしてキミカの熱心なファンが、襲い掛かってくるであろう結果を。
どこからともなく『バケツを持った男』が走ってくるのだ。
「う、うわぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」
春日は慌ててバケツの水をカバンでブロックした。
って、俺にも水がかかってるし!!命中率悪すぎなんだよヘタレが!!
「ぎゃー!!」
と叫ぶ俺。
「だ、大丈夫、見えてない、見えてない…」
と震えた声で言ってる春日。
どうやら水に濡れた俺はどうでもよくて、自分が服の下に着ている俺のスクール水着が水に濡れて見えてないか気にしまくってるようだ。
俺はすぐさま、この商店街のどこかに隠れているであろうこれを計画した連中のほうをジロリと睨んだ。いたよ、花屋の側の裏路地へと抜ける小道にバケツを持ったキミカファンクラブ団員の姿が。俺はそっちをジト目で睨んだ。
団員はそんな俺を見て「ごめんなさい」というジェスチャーをする。
何がごめんなさいだよ!
ちゃんと狙え!
「キミカさん、大丈夫、濡れなかっ…あぁ!!」
春日が俺の方を見て、顔を赤らめた後、直ぐに目を逸らした。
うわぁ…思いっきりブラウスが濡れて透けてブラが浮き出てるよ。
「あははは…酷い人がいるねぇ…」
と俺は乾いた笑いをする。
「ご、ごめん…」
と突然謝る春日。
「え?何が?!」
「あ、いや、な、なんでもない」
たぶん「俺の事に巻き込んでしまってごめん」という意味だろう。春日に水をぶっかけるのは計画のうちで、しかも俺もその計画に絡んでるからな。
春日は慌ててから俺の手を取って、
「ここは危ない、逃げよう」
と言い出す。
確かに危ないだろうな…四方八方から連中が攻めてくるから。
「え?う、うん」
そして暫くの間、移動。
商店街の裏手にある公園へとやってきた。
「春日くんどうしたの?そんなに慌てて」
「またさっきの奴が僕に水をかけようとしてくる!!」
「どうして春日くんに水をかけるの?」
「え…いや、なんとなく…!そう!なんとなくだよ!」
俺はその理由知ってるけどね…。
公園のベンチに腰をかける二人。
俺はバッグの中から扇子を取り出した。実は通学用バッグの中には扇子を常備しているのだ。この季節頃から熱くなるからなぁ、特に7月8月9月はもう地獄だし。そうなってくると徒歩での通学はやめてバスを使うことになる。もちろんバスだって暑いけど。
パタパタと風を送って濡れたブラウスを乾燥させる俺。これでパタパタ扇いでも湿度が高い日本の場合は簡単には乾かないんだよなぁ…本当に日本の夏は過ごしにくい夏だ。
と、ふと、脳裏に約束事を思い出した。
そうそう、あの話をしなければ。
「そういえば、最近、あたしが着てるスクール水着が無くなったの」
「!!」
春日は電気でも走ったかのように、突然、身体をビクつかせて、そして俺のほうを見て目を見開いている…もう俺が知っていようが、知っていまいが『怪しい』と思わせてるじゃん。
「友達が言うには学校に変態がいるんだって…」
「と、と、と、友達?友達ってメイリンの事?」
「あ、うん」
「そ、そっかぁ…酷い奴がいるね!」
お前のことだよ!!
「でも水着がなくなる前からも、なんだか変だったんだよね」
「へ、変ンン?!」
ワロタ。
反応が面白すぎる。
「うん、なんか、水着が伸びてるっていうか…その、身体のサイズに合わなくなってるっていうか、ほら、身体の大きな人が着たら伸びるでしょ。そして元に戻らなくなってるような…あたしは友達に水着貸した覚えはないんだけどなぁ…」
あれ?俺の隣はサウナ?っていうぐらいに大量の汗を掻き始めてる春日。でもサウナと違って体感温度がマイナスになる冷たい汗なんだろう。っていうかもう、その汗やらで春日の着てるシャツから黒い俺のスクール水着が見えてんだけど…これを無視するとかどんだけ俺は目が見えてないんだよっていう…。
「き、き、き、気のせいじゃないかな?」
などと誤魔化す春日。
お前が着たから伸びたんだよ!!
俺はシャツから覗かせてるスクール水着をチラ見した後、すぐさま目を逸らしてから、
「あの伸びっぷりから推測すると170センチぐらいの男子が…着てるような」
「ひ、酷い奴がいるね!!僕が見つけたら懲らしめてやろうと思うよ!」
お前だよお前!!
そして現実に今、懲らしめられてるよ!お前が!
俺は公園を見渡してどこかに隠れてるであろうメイリンやらコーネリアやらを探した。が、どこいも居ない。隠れるのが下手なキミカファンクラブの団員っぽい連中なら草陰にチラチラと姿を現したり隠れたりしてるが。
と、その時だ。
ドロイドの機械音がウィーンウィーンとするのだ。2メートルはあるダチョウ型のドロイドが5体ぐらい一斉に俺達のベンチに向かって走ってくるではないか。
俺も春日も目を丸くしてその光景を見ている。
げ。
そのダチョウ、どっかで見たことがあると思ったら消防署とかが使う放水ドロイドじゃないか!!おいおいおいおい!!本気だしすぎだろコレ!!コーネリアだ!!
ダチョウ型のドロイドの背後には放水車まで待機させてるし、どう考えてもコーネリアがそこらのコンクリートを抉ってから創りだした物だ。
「わブ」
「きゃー!!」
囲むようにダチョウ型のドロイドは俺達を包囲した後、一斉に放水を始めた。
その中心には春日がいる。
5体ぐらいいるドロイドが一斉に放水するものだから力のバランスは均等で、春日は自らの筋肉で動くことすら出来ず、放水の中心で立っている。いや、既に放水は春日を自力で立たせる事すらしなくてもいいぐらいに強力で、グラビティコントロールでも使ってるんじゃないかって言うぐらいに地上1メートル上空に浮かんでいるのだ。
もうこうなってくると水着は透けてる。完全に透けて、俺のスクール水着を着てる春日が俺の視界に飛び込んでくる。
よく見たら、俺の隣にはホースを持ったコーネリアが。
その隣には同じくホースを持ったメイリンが。
コーネリアは俺にホースを手渡し「お前も掛けろ!」のジェスチャー
俺も春日の背後からホースで水を掛ける。
おらおらおらおら!!お仕置きだコラァ!!
人のスクール水着勝手に着やがって!!
ケツの穴に高圧水をぶち込んでやるぞオラァ!!
もうメイリンもコーネリアもキミカファンクラブ団員達も隣のクラスの男子も集合して春日に水による高水圧アタックをかましている。
それを5分間ぐらい繰り返すと、さすがに勢いで春日が来ていたシャツもズボンも吹き飛んで、もう完全に隠す必要を感じられないスクール水着を着た春日が露呈している。
いやいやいや…。
さすがにこの状況で俺に『春日がスクール水着を着てない』って認識を演じさせるのは無理があるだろう!!どう考えても着てるじゃん!!コレェ…。
春日のシャツもズボンも吹き飛んだのを確認してから、一斉に撤退するコーネリア、メイリン、そして男子諸君。ドロイドも一斉に撤退していく。
残された俺は慌ててホースを手放して、
「春日くん!大丈夫!?」
と春日に駆け寄った。
「み、見るなァ!!」
いやいやいや、見るなじゃねぇよ!!
見えてるよ!思いッきし見えてるよ!!
っていうか何必死に両腕で隠してんだよ!無理だって!その糞細い腕で水着を隠すのは無理があろうだろうが!!