7 石見圭佑先生の兵器説明会(リメイク) 4

大体、そんなに隣の家の住民にビクビクしなくてもいいのに。
と俺はリビングに戻った後にそういう旨の内容の話をケイスケにする。
「色々とモメたことがあったからこれ以上モメ事を起こしたくないだけですにゃん!ただでさえ地下に秘密の研究施設があるんだから…アレなんてバレたらマジで殺される5秒前でMK5ですにゃん!」
「隣の住民との確執っていうのは何なの?」
「キミカちゃんはそんな事を気にしなくてもいーの!」
「え、だって隣の家の人でしょ、どっかでまた出くわした時に色々と口が滑って厄介な事になったらケイスケ的にもヤバイんじゃないの…」
「…キミカちゃん、意外と頭の回転が早いですにぃ…」
「いいじゃんか別に!」
しぶしぶケイスケは俺に過去の話をする決意を持ったようだ。
ゆっくりと立ち上がるとテレビの電源をオフにしてから物憂げに窓の外の夜空を見ながら、キザにも顎をスリスリと手で(とても肉々しいデブの顎を)さすりながら、「あれは10年前…」と話を始める。
「当時、受験生であったボクチンはそのストレスで心身共に殺られてしまいそうになっていましたぉ…惨たらしい日本の教育環境は生まれてまだ17年しか経っていない若造に、それ以降人生を決めるであろう決断を『受験』という形で迫っていたのですぉ…。やはり今の教育システムは、」
「教育システム関係ないじゃん!」
「んぉ?」
「いま、思いっきり45度ぐらい路線を変えようとしてたよね?!」
「んなことないですぉ?」
「ストレスが溜まってたんだよね、はい、それでェ?!」
「ちぃ…」
やっぱり路線を変えようとしていやがったな!
しぶしぶケイスケは話を続ける。
「ボクチンは受験勉強の合間に溜まりに溜まったストレスのはけ口として、時にエアガン遊びに興じていたのですぉ…」
「あたしもエアガン持ってたよ!面白いよね!」
「しかし、そのエアガン遊びがまさかこのような結末を迎えるとは…この時、誰も、そう、全知全能を司るマッド・サイエンティスト・ケイスケと後に呼ばれる事になる、ボクチンすらもわからなかったのですぉ…」
「はいはい」
「最初は部屋の中で狙いに定めて撃っていたのですにゃん」
「え?そういうもんじゃないの?」
「でも部屋って言っても10畳かそこら、そんな日本の狭い住宅環境で『狙いを定めて』って言っても本来のエアガンの射程からするとあまりにも身近過ぎると思いませんかにぃ?まるでサブマシンガンの射程ではありませんかぉ。狙いなんて定めるまでもなく当たり前に目標に当たるんですぉ。しかも撃った後にBB弾は自分で片付けなければならないしぃ…」
「そ、そうだけど…だからといって外に向かって撃つわけには、」
「外に向かって撃ちたくなってきたんですぉ…」
「え、ちょっ」
「今はいませんけれども、実は隣の家は犬を飼っていたんですにぃ」
やばい、やばいぞ。
今、俺はこの話の結末が思い浮かんでしまった。ケイスケ・エアガン・犬・隣の家の主人・確執…もうこれだけで4コマ漫画描けそうな感じだぞコレェ…。
「ほ、ほぅほう…それで…」
大体結末わかったけど聞いてみた。
「その犬がクッソうるさい犬なんですにぃ…人が勉強してる最中に昼も夜もワンワンワンワン、もうわんわん・パラダイスじゃねぇのっていうぐらいにワンワンワンワンと…時々くぅーんくぅーんとか変な声出して鳴いたりするんですぉ」
「散歩に連れてって欲しいんじゃないの…それ」
「そうなんですぉ!!何が悪いかって、散歩に連れてかない隣の家の主人が悪いんですにゃん!!散歩に連れてってストレス発散させてやればなんら問題なんてないんですにぃ!くぅーんくぅーん鳴くことなんてのも無かったかもしれないですにぃィ…それを庭で紐繋いで飼ってるだけで殆ど連れてってやってないし、かといってボクチンがわざわざ隣の家の犬がうるさいからとストレス発散の為に散歩に連れてくとかおかしな話じゃないですかぉ?!」
「う、うん」
「もうお分かり頂けたと思いますにぃ…この話はこれで終わり」
「いやいやいやいや、山場がないよ」
「山場とかいらないですぉ!」
「それで犬をエアガンで撃ってるところを隣の主人に見られた?」
「いや、それは見られてないですにぃ」
「んん?!」
「最初はムカつくから犬に向けて撃ってたにゃん」
やっぱりかよ!!
…って、『最初は』ってまだ何かあるのかよ!!
「つ、続きがあるの?」
「普通に撃っても、犬のほうが慣れてきてしまったんですぉ」
「え、ちょっ…エアガンの弾って当たったら結構痛いよ?」
「犬の剛毛で防御されてダメージ与えられなかったぽいですにぃ。それに散歩に連れてってもらってないからかデブっちょな犬で脂肪がダメージを吸収してたという説もありますにぃ、まぁ、今となってはわかりませんけれども」
そう言ってからケイスケは、またキザにも夜空を窓から見上げて、まるで会社にとって不要な人間にクビの最後通告を与える上司のように、
「…ダメージを与えられる部分は限られてくるわけですにぃ…」
と言った。
「ま、まさか…」
「フヒヒ…」
「目は止めようよ、目は…エアガンは顔に向けて撃っちゃダメなんだよ」って俺は今、動物にも向けて撃っちゃダメですっていうルールブックは既に無視せざえる得ない状況で渋々そう言った。
「さすがにそれはマッド・サイエンティスト・ケイスケにも超えられない一線だったですにゃん。顔には撃ってないですぉ」
「顔以外でダメージを与えられる場所って?」
「フヒヒ…」
「…」
「お尻の穴ですにゃん」
俺はそのままソファから転げ落ちた。
もう桂三枝師匠ばりに転げ落ちた。