6 気になる転校生(リメイク) 11

「ふんっ!」
と俺の威勢も、自分の中にある恐怖心もすべてをその「ふんっ!」って一言で吹き飛ばして、ユウカはサーブの構えをした。
殺る気だな。ならば手加減はもうしない。
再びジョジョ立ちになる俺。
どこからでもかかってきなさい、のポーズである。
ユウカのサーブは相変わらず俺の居ないところへと狙ってくるだろう、と思って俺はユウカがラケットにボールをあてるその瞬間に神経を集中し、その弾道ベクトルを算出した。次は…左だ。左に来る!
来た!
狙い通りの左だ!
俺はボールに神経を集中した。
その時、確信したのだ。
さっきの走り高跳びの件でも、明らかに人の、しかも中学生の小さな美少女の筋肉の収縮だけではアレほどのジャンプ力は出せなかった。
あれは無意識に『グラビティ・コントロール』が発動し、作用しているに違いない。ドロイドバスターとしての力は変身前でもある程度は使えるのだ。
ボールに神経を集中する。
集中させて動けと念じる。
変身前だから変身時のようにコンクリートの塊持ち上げるなんて事は出来ない、だが、出せる力を一点に集中させ、一番効果が強くなる弾道を計算するのだ。
周囲の時間が遅くなったかのようになる。
俺の脳の処理能力が増した状態になっている事を意味しているのだ。
ボールはスローモーションで俺がラケットにボールを当てるのに最適な位置に飛び込んでくる。しかし。しかしだ。俺がもし全力でこのボールを打ち返してしまったら、その強力なスマッシュは確実に『俺の』ラケットを突き破ってしまい、最悪な場合はそのままボールは『俺の』コートにポトッと情けなくそして儚くも落ちてしまうだろう。
落ちてしまうっていう『オチ』を考えたんじゃないか?
俺がそんなバカな事をすると思ったのか?
バカめ!!
「もらったァァァァァ!!!」
俺はラケットにボールが当たるか当たらないかという距離で最大のグラビティコントロールをボールに対して、いや、ボールの周囲の空気に対して行った。テニスコートを構成しているコンクリが衝撃波でメリメリ削れていくのがわかる。ボールの周囲の空気ごと、放つのだ!
その衝撃波はコート中央に設置された間抜けなネットを突き破り、残念ながらユウカは突き破らず真横を通りすぎて、直線位置にある体育倉庫に直撃。
その間抜けな体育倉庫を吹き飛ばし、貫通し、背後にある山に直撃、大きな砂埃を上げて木がなぎ倒させた。
ユウカ・及び周囲のギャラリー「「…」」
俺は勢いつけすぎてバランスを崩して転んでしまった。
「いてて…」
足をちょっと擦ってしまった。芝生とかなら良かったのに。
なんでテニスコートってコンクリなんだよ。と、俺が足をさすって、そして転んだ時にすってしまった膝の部分をペロペロと舐めた。
その時だった。
ずっと向こうのほうから凄い叫び声をあげてこっちに駆け寄ってくる影がある。かなりの巨体だ。最初熊かと思ったけど二足歩行だったのであれは人間、しかも豚系の人間だ。いや、豚だった。
「うううおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
何?なんだよ?
よく見たらケイスケじゃないか。
何してんだあいつ?
ケイスケはテニスコートに飛び込んできた。
そのまま俺のもとに駆け寄ってきて、
「何してんだ!!!!リア充どもがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
とマジキレモード。
「(何キレてるんだよ、落ち着きなよ)」
と俺は小声でケイスケ(担任の先生)に言った。よく見ると俺に向かって言ってるんじゃなくて、周囲のギャラリー及びユウカに向かって叫んでいるのだ。
「な、何って、テニスしてんのよ」
ユウカが答える。
「テニス?」
「そうそう、テニス」
「コレはテニスじゃないぉぉおおおおお!テニスじゃないぉぉおぉぉおおおおぉぉこのクソビッチがぁぁぁぁ!!!!!」
大の大人が、豚みたいな足をドンコドンコとテニスコートに打ちつけながら地団駄を踏んでいる。なんと見苦しいのだろうか…。
「だ、誰がどう見たってテニスじゃないの…」
「違う!違う!違っがーーーう!!!」
「テニスじゃなかったらなんなのよ?」
「転校してきた可愛い女の子をテニスって面目でイジメて、周囲のギャラリーはそれをみてニヘラニヘラしながら『パンチラ見えねーかな』とか言って今夜のオカズにしたり『あの可愛い女の子の顔に傷つけちゃいなよ、へへへ』とか言いながら自尊心を保とうとしてるんだよぉぉおぉぉぉお!!!」
どんなエロゲだよ、エロゲのやり過ぎだよ。
もしくは薄い本の買いすぎ。
「そ、そんな事するわけないじゃないのよ!」
抗議するユウカ。
「大抵はイジメっ子はそう言うんだにゃん!先生にチクられても『プロレスしてたんです、遊んでただけです。ほら、お前だって楽しいだろ?楽しいよな?』とか言われて、先生が消えたらボコボコにされたりするんだォォ!!!」
なんか最後、すごいリアリティたっぷりなのですが…。
まさかお前の経験談か?そうなのか?!
「中止!中止!中止だォォォォァァァッ!!こんなの中止!こんなクソ・テニスは中止だにゃん!!いいかァ!お前たちは腐ったミカンじゃない!」
いや、誰も腐ったミカンだなんて言ってねーし!!
お前か!?
お前がそう思ってるのか?!
…っていうか、金八先生を微妙に真似ててすごいムカつく。
「ビッチ!!校長先生にチクってやるにゃん!」
お前は何もしないのかよ!
さすがに今回はユウカが可哀相だ…確かに勝負を挑んできたのは認めてやるが明らかに俺が勝っていた。敗者に課せられるべき罰ゲームにしてはちょっと酷すぎる。退学とかになったら嫌だしな。
「先生、落ち着きなよ、本当にテニスをしてただけなんだから」
そう耳元で言う俺。
「テニスしてて体育倉庫が吹き飛ぶわけないだぉぉぉ!!」
いやまぁ、そりゃそうだけどさ…。
じゃあ何してたら体育倉庫が吹き飛ぶんだよ…。戦争か?
あ、俺か、俺が飛ばしたんだっけ、テヘペロッ!
「(先生が間に入ってクラスメートとの確執を作ったら、あたしがこれから学校で生活しにくくなるんだよ、だから今日のところは勘弁してよ)」
と再び、コソッとケイスケに言う。
「ふぅっふうっ…ま、まぁ今日のところはイジメっ子は見逃してやるにゃん…またイジメ見かけたら今度は容赦しないですぉ…」
かくしてケイスケの仲介もあって、この変な勝負は終わってしまった。
しかし、俺の戦いに終わりはないのである。