6 気になる転校生(リメイク) 9

「やり方はまぁわかったけど、ルールがわかんないよ」
と、俺は言った。
ユウカはそれを聞いて「はぁ」とため息をついたあと、
「最初はサーブで打ち始めて、相手のコートに入れてそれを相手が返せなかったらアウト、返しても自分のコートに入らなかったらアウト」
と早口で言う。早口でまくし立てるように言った。
クソッ…ガァァァ!!
ルール知らないのはしょうがないだろうが!!
生まれた瞬間から知ってて当然って顔しやがって!!
マジでぶん殴るぞォォォァァァ?!
俺は可愛らしいテニスウェアの裏側に黒々とした闇の感情を燃やしながら、それでもその感情を体育会系のように表面に吐き出さずに、耐えた。
…まぁいいだろう…。
「卓球みたいなもんでしょ?」
と俺は言う。
実は俺は高校では帰宅部だが中学では卓球部だったのだ。
廃部寸前で俺が途中で帰宅部に移行したら廃部になったんじゃないかな…あれは迷惑な事をしてしまった。けど、受験勉強とかもうちょっと早くからやりたかったんだよママァン…。どうせ俺が居なくても廃部になっていただろうしね。
「卓球知ってるなら大丈夫ね。それじゃサーブあたしからね」
こいつ、とことん性根が腐ってるな。
初心者相手に手加減無しでサーブ権も自分からかよ。思いっきり勝つ気マンマンじゃねぇか…もう少し大人になろうぜ、ビッチさんよぉ。
ユウカと俺はコート内の配置についた。
そしてユウカのサーブ。
ボールをぽんっと上に上げたと思うと、それを上からラケットで叩きつけるように打ち付けた。若干の回転がついているのかカーブを描きながらも俺のコートにテニスボールが飛び込んでくる。
俺の足が届かない位置に…。
「あ…」
っというまに1点入れられた。
さすがに初心者相手の本気サーブは、ギャラリー達を「あーあ」とか「ひでぇ」とか言わせてる。でもユウカ、腕を緩めるような事はしない。どうもそれは周知の事らしく、ユウカは厳しくも優しい先輩()笑、らしいのだ。
さっきのあのエロ男がうんうんと頷きながら、満足気な笑みをしている。
「(ちッ…野郎…)」
俺はちょっと汚い言葉を聞こえないように吐いた。
さて、次も思いっきり打ってくるだろう。
だが俺は銃弾すらも弾き返せる動体視力がある(多分)
奴の攻撃なんて俺にはかすりもしないぜ。いや、かすりもしないって言っておいて俺のラケットにボールがかすりもしなかったらヤバイ。次は奴の動きを見てラケットの角度から計算してどこに飛ぶかを、って思った瞬間にまた激しいサーブ。
だが見えた!
見よ!この卓球で鍛えた筋肉の華麗なる動きを…いや、卓球で鍛えた筋肉は葬式の後に火葬されてしまったんだった!まぁそれは置いといて、渾身の力を込めてボールを弾き返した。
その瞬間。
俺の周囲の砂というか砂埃?というか、一瞬無重力状態になったような感じになり、弾き返したテニスボールがありえないぐらいのスピードでユウカの頬をかすめて後方へと飛んでいった…。
おい、これはなんだ…。
「な…」
ユウカはそう言った。
頬からツーっと血が垂れてる。
もしかして重力制御がある程度出来ているのか?
さっきの走り高跳びじゃねーけど、変身した時と比べると小さいものの、若干色々な力が使えるのかもしれないぞ!!
ユウカ、頬の血を見てからキレ気味に、
「ちょっと!」
と抗議の姿勢。
「ぁ?」
俺は反逆の姿勢。
「相手に当てるゲームじゃないのよ?わかってんの?今、絶対顔狙ったでしょ?ねぇ?乙女の顔狙ったでしょ?!」と顔真っ赤にして怒ってる。
うるさい奴だな〜(ほじほじ)
大体自分の事を『乙女』って呼ぶ奴にロクな奴居ないんだよ。
俺はジョジョっぽく、周囲にゴゴゴゴゴゴって効果音でも鳴り響いているかのような状況を頭に思い浮かべながら、
「わかったわ。次はちゃんと『顔 を 狙 う か ら』」
(ゴゴゴゴゴゴゴゴ)
ユウカの頬がピクピク動いてるのがこの距離でもわかった(笑)
「ふーん…そう。あぁそう。いいのね?」
「なにが?」
「私が本気出しても?」
おい、今まで本気で打ってきたように見えたぞ。
「いいよ〜(ホジホジ)」
俺は鼻くそほじりながらそれに答える。
でも「本気」っていうキーワードを聞いた周囲のギャラリー連中はヒソヒソ声をし始める。…こいつ本当に本気はまだ出していなかったという事か。
サーブは俺。
俺はとりあえず相手のコートに入れなきゃダメなので、若干緩めにぽーんとボールを放った。弧を描いてユウカのコートにボールが入る。と、待っていたかのようにユウカはそのボールをフルスイング。
俺が面倒臭いけどちょっと力をだして走りこまなきゃ届かないような場所に入れた。しかたない、面倒臭いけどそのボールを俺は辛うじて弾き返す。
が、次にユウカはまた俺が居ないような場所に入れるはずだと思って、コートの中央に戻ろうとしたその瞬間。
バンッ。
俺のオデコに衝撃波が…。
「…い、痛い」
ぽとんとテニスボールが落ちる。
…。
…こぃ…つ…!!
こいつ!!!!
やりやがったな!!!!