6 気になる転校生(リメイク) 5

放課後。
俺はユウカとナノカに部活案内をしてもらう約束だったのだ。ついでに校内の案内も(スポーツ系部活の施設周り)もしてくれるらしい。
俺の席のもとにユウカとお昼一緒にご飯食べてた菅原菜乃香ことナノカが来てくれた。ナノカは何故か頭を掻きむしったような痕跡が残っていてあのショートカットの髪がぐしゃぐしゃになっていた。
「その頭どうしたの…?」
「ちょっと萌え死ぬ寸前まで…」
「…」
まず最初に向かったのはグラウンドだった。
玄関と道路を挟んで向こう側、そこにグラウンドが広がっている。俺が通っていた高校ではグラウンドってサッカーや野球が出来るアレしかイメージが無かったんだが、目の前にあるのは陸上競技場みたいなオリンピックで見るようなグラウンド、っていうかトラックが広がっている。女子高ではコレをグラウンドと呼ぶのか。
「これはどこで野球とかサッカーやるのかな?」
という俺の純粋な質問に、ユウカもナノカもしーん。
「野球とかサッカーってこういう場所でやるもんなの?」
「え?運動場は色んなスポーツで使いまわすんじゃないっけ?」
「「…」」
その俺の回答にユウカもナノカも「…」としか返せてない。あれ?俺、何か変な事言ったっけ?俺は中学・高校とそういう感じだから違和感なかったんだけど、もしかして男子校と女子校の違いがそこなのか?
「サッカーはサッカーグラウンド、野球は野球場でやるもんでしょ」
とユウカが言うので俺は目が点になってしまった…そう、そうだよ、確かにそうだけど、運動場がそれぞれの競技用にいくつもいくつもあるような学校がどこにあるんだよ!あ、ここにあるのか、テヘペロ…っておいいいい!!!
「金持ち過ぎでしょ!!」
「そりゃ、お嬢様学校だから…。そもそも野球とかサッカーは無いけどね」
「あぁ、そうなんだァ…はいはい、そうですか」
「な、なによ…野球とかサッカー好きなの?」
「いや…。こんな陸上競技場みたいなグラウンド見たことなかったから、どこで野球とかサッカーやるのかなって思って…」
などと話していると突然ナノカが手をパンと叩き、
「あ!そうだ!部室いこーよ!部室ゥ!」
顔を赤くしながら言う。
「部室?」
俺の頭の中に部室のイメージがモヤモヤと浮かんでくる。
汗臭い鼻をつく臭い、カビ臭い道具、砂埃、エロ本、脱ぎ捨てられた黄ばんだトランクス、転がっているエロ本、エロビデオ、ティッシュ…。うげぇ。
「部室!…(ポーズを取りながら…)石鹸とシャンプーの香り、脱ぎかけたブラウス、ブラとパンティー、エッチな本、…そしてひょっとしたら男子も連れ込んでエッチしてるかも知れないっていう、コンドームの痕跡、ベッドには乱れた跡が…」
「そ、それは…確かにエロい…」と、俺は股間がうずく(と言っても女の子の股間ですが)のを覚えながら萌えている気分になっていると、
「なに言ってんのよ!体育会系だからって勝手に汗臭い想像しないでよね!大体なんでベッドがあるのよ、部室に!ったくナノカはいっつもいっつも…」
とユウカはブツブツ文句を言っている。
そうこうしつつも俺達は部室の周辺をウロウロ。
それを見つけた部活をしていた一人の女子生徒がこちらに向かってきた。
「なーにやってんの?」
結構なガタイをしてる女で胸もそれなりに大きい。スポーツでも柔道とかそういうのをやってる身体に見えるけど着ている服は陸上部のソレだった。
「あ、あの、部室の中を拝見させて頂きたくて…」
「部室ぅ?」
「はい。淫臭が漂っているか確n」「こらこらこら!」
慌ててユウカがナノカの口を抑えて、
「見学です、見学!この子(俺を指さして)転校してきてまだまもないから部活の見学をさせてあげようと思って!」
その柔道部から来たかのような体躯の女子は自分の身体よりも1頭身分小さな俺の身体を頭からつま先までジロジロと見てから、
「ふーん…この子がねぇ…どっちかっていうと文化部系じゃないの?」
俺的には文化部系っていうか帰宅部系なのですが。
でもその鼻につくような台詞は気に入らないな。
俺を見た目だけで見下してるっていうか。でもまぁしょうがない。俺の身体はこの柔道部の女子に比べたらオバハンと子供ぐらいの差があるからなぁ。
しかしムカつくな。
「やってみる?体験入部させてあげるよ。今まだ部員集まってないからさ。走り高跳びって知ってる?」…などとしたり顔で言ってくる。
走り高跳びぐらい知っとるわ!えっと…なんだっけ?
「…知りません」
「あははははっ!キミ面白いねぇ!中学の時にやらなかった?ほら、今から私がやってあげるから。よく見ておきな」
と、そのガタイのいい女は物干し竿とベッドが用意されているようなそのコースのスタートラインまでドカドカと走って行き、こちらを見て手をふった。それから走りだして50メートルぐらい疾走した後、勢いをつけてジャンプ。そして空中で身体を半回転させた後、物干し竿を軽く背中で超えてみせた。
なるほど、オリンピックの中継で見たことがあるな。
アレのことだったのか。
中学の時は体育はサッカーと野球しかないゆとり授業だったからわかんねーや。
はぁはぁと息をつきながら走ってこちらに向かってくるガタイのいい女。そして、
「みた?今のが走り高跳び。高さを競うの」としたり顔。
そして「ほら、やってみなよ。あぁ、上着は脱いだほうがいいね」と、俺のブレザーを脱がす。そう来たか。もうやらせる前提じゃん…。
なんだかこのガタイのいい女、意外と策士だぞ。
俺に恥かかせようとしてるわけだな。
そりゃ走り高跳びしらない奴が今から初めてそれをやるんだよ、失敗率高いだろうが。さすがにこの成行きはユウカも疑問を思ったみたいで、
「先輩、藤原さん運動得意かどうかわかんないんだから、いきなりそんな事して怪我とかしたりするかも知れませんよ、まずいですよ」とフォロー…。
いや、フォローになってんのか?お前どうせできねーんだから怪我するからやめとけボウズって感じに言われてる気がしてムカつく。
「大丈夫大丈夫、人間って自分から怪我するような事する前にセーブするんだって」って俺に聞こえるように言ってんじゃねーよ、柔道部野郎…。
一方でナノカはナノカで、「早くパンチラ見せてよォ」と顔を真ッ赤にしてる。そして「マンチラでもいいよ…」と俺の耳元で呟く…。
いや、見えねーから!!
その距離からチラしても絶対見えねーから!!
…ったく、こいつはこいつで間違っているな。やれやれだぜ。
確かに女になってから体重が軽くなったのもあって身軽になった気がした。運動神経って奴も男の時のそれと比較にならないぐらいによくなった気がする。
でもあくまで『変身後』が凄いのであって変身前の俺はごく普通の女子高生がちょっと男並みに運動神経が良いんじゃねーの?っていうぐらい、のはずなんだ。
あのグラビティコントロール(重力制御)も使えないし、空はもちろん飛べないしジャンプも多分重力の法則に従ったものになるだろう。
なんとなくイジメられてるって気分で俺はスタート位置に立って、それから自分の中でちょっとした合図もしてゆっくりと走り始めた。
確かに身軽だ。スピードがどんどん上がっていくのが自分でも分かる。
男の時は走っても走っても思うように進まなかったからな。今は思う以上にスピードがでてる。このスピードならジャンプする起点がもうちょっと手前でもいいんじゃねーのかな?と、俺はさっきガタイのいい女がジャンプした地点よりも手前で思いっきりジャンプした。
思ったよりも…いや、思った以上に身体が軽い。
軽くジャンプしただけなのにどんどん地面を離れて…え?ビルの2階ぐらいの高さから地面を見つめているような感じになったぞ…。とにかく、そのまま身体を逸らしてさっきガタイのいい女がやっていたように宙で身体をひるがえす。
物干し竿よりも2メートルぐらい上を通過して、俺は本能的にもうこのベッドみたいなところに着地出来ない事を悟った。ベッドを飛び越えて地面に足をつく…と、その時に衝撃が俺の足を襲ってへし折れてはいけないので、ちょっとゆっくり落下するのを頭でイメージしたらそのままゆっくりと地面に着地した。って、おい…。
振り返ると俺はさっきジャンプした起点から10メートルぐらいは進んだ位置に着地していた。そして振り返りついでに周囲の人達が見えたんだけど、みんな俺のほうを口をあんぐりとあけて見ている。それこそグラウンドの奴らが全員俺のほうを見ているような感じで。
俺は急に恥ずかしくなって、そそくさとユウカとナノカのいるところに走っていくと、「ちょっと、あんた、何あれ…」とユウカ。
「…」
ガタイのいい女は口をあんぐりと開けたまま俺を見てる。
「ふふ…今日のパンティーは黒ですね…ふふ」…。
ナノカは一体どこを見てt…いや、こいつならそこしか見ないだろうな。
ある意味安定しているな。
がっちりしたガタイの女は俺の肩をガシッと掴んできた。いきなりだ。
そして血走らせた目で「ねぇ!陸上部入らない?はいろうよ!絶対県大会出れるって。いや、オリンピック出れる!金メダル取れるって!」
おいおい、さっきバカにしてたのとは180度反転しやがったな。
「ああ、あたし、そういうの興味ないんで…失礼します」
これ以上絡まれると無理に部員にされそうだ。
俺は逃げるようにその場を離れた。
それに続いてナノカやユウカが「待ってよ〜!」と追いかけてきた。