6 気になる転校生(リメイク) 1

葛城公佳改め、藤崎紀美香は高校生だった。
「だった」というのはとどのつまるところ、今はどこの高校にも通っていない。とある事故で俺は全身に大火傷を負い、いったんは死に、そして再生した。
その再生した後の姿がとどのつまるところ女の子の姿であって、それは見た目非常に中学生ぐらいの年齢であって、とどのつまるところ、俺は高校生だった。
という表現をしなければならなくなった。
パン製造器の中から米粉パンを引っ張り出してまだそれが新しいうちにピーナツバターを塗ってかじりつくという朝食を取りながら、同じ様にパンを飲み込むように食べているその男、俺の正面にいる巨大な肉塊のその男の名前は石見佳祐。
人は彼を天才マッドサイエンティスト石見佳祐と呼ぶかどうかはわからないけど、その男が俺の身体を復活させたのに間違いはない。間違っている事があるとすれば、男だった俺を男として復活させたのではなく、女の子として復活させた事だろう。
これは万死に値する間違いだ。
今から殺すべきだろうか。
「ふ、ふひぃ…今殺気を感じたぉ…」
やはり人間も動物のなかの一つ。
殺気を発すれば自然と感じ取ってしまうらしい。
今更男に戻ったところで俺の死んだ家族達も生き返るわけでもないし、やっぱり2つに別れた線路のいっぽうを俺は進み始めてしまったのだろう、と、ひとまず殺気を収めた。
俺がこれからやらなきゃいけないのは、その進み始めた線路を脱線すること無く進み続けることなのだろう。というより、俺は今日、一体どういう線路を進まなきゃいけないのだろうか。これから何をするんだろうか…。俺はいつもなら学校に行って…。あ、学校。
「ねぇ、学校」
俺はとりあえず今一瞬脳裏に浮かんだ漢字2文字を言葉として吐き出してみた。
とりあえず意思表示なのだ。「ねぇ学校」って学校って人がどこかにいるのだろうかとふと思ったけどそんな事はどうでもいい。そのキーワードを発した声がアニメキャラみたいな声(つまるところ、俺の声なのだけれど)それもどうでもいい。
「な、なんだぉ?」
「学校いかなきゃ」
「が、がっこう?」
「うん。学校。あたし、高校生」
片言の日本語を話す外国人みたいな事を言ってるけど、通じたと思う。
俺にはとりあえず脱線せずに線路を進むしかないんだよ。
「だ、ダメだぉ!お父さん許さないぉ!」
「な…」
「高校に行ったら最初の自己紹介で『創造するのが趣味です』とか言ったら『想像するのが趣味です』って勝手に思われて女子は話掛けてくれなくなるし男子はみんなしてキモデブハゲ野郎って殴る蹴るの暴行を加えてくるし、授業中に寝てもないのに『石見くんが寝てまーす』とか言われて、3分間スピーチさせられたり、トイレでうんちしてたりご飯食べてるときに水とかうんちを吸いとるあのスッポンスッポンする奴を投げ込まれたり、合宿訓練の時にキャンプファイヤーで誰も一緒に踊ってくれなくて、先生とペアにならないといけないとか思ってても先生すらペアになってくれなくて、一人座ってみんなが踊ってる姿みたりとか、うわぁぁぁぁぁぁ!!!(頭を掻きむしりながら)そんな事になるから高校なんて言っちゃダメだぉぉぉ!」
「いや、それあんたの話だし」
「と、とにかくダメダメダメダメダァァァァァッー…(呼吸停止)…ンメ!!!キミカちゃんが学校に行ったらそれこそ邪魔な虫もウジャウジャ寄ってくるし!」
「むし?」
「キミカちゃんは、ボクチンが考えうる限りの最高の美少女にしたんですぉ…絶対に、イケメンヤリチン野郎に出会った瞬間5秒以内に強姦されてしまにゃん…」
「それなんてAV」
「と、とにかくダメなものはダメなんですォォォ…(枯れ声)」
こいつは正攻法ではダメだな。
頭の中にウジが湧いてやがる。
もう病院に行くレヴェル。
そういう奴にはちゃんと理解できるような世界観で話をしなきゃダメだって死んだばあちゃんも言っていたかも知れないし、言っていなかったかもしれない。
「岩見くーん」
「ダメだぉ…名前で呼んでもダメだぉ!」
「ふふっ、呼んでみただけ」
「そんな可愛らしく言ってもダメ!」
「じゃあ岩見くんがプレイしてるエロゲの中での話をしましょう。その世界の中には一人の女子高生が存在します。さて、彼女は学校に通っているでしょうか?それとも家に引き篭っているでしょうか?」
「が、学校に通っている…。家に引き篭っている設定の女子高生は、まぁ、い、いるかも知れないけど、でも特殊なパターンですぉ。やっぱり病弱なとか、学校でイジメにあって、とかそんな設定とセット…」
「そう、矛盾している!」と俺はびしっデブのほうを指さして「自分はエロゲに登場するような可愛い女の子を作ったくせに、エロゲの設定ではなかなか存在しない不登校の女の子に…いや、実際あたしはどこの高校にも通っているわけじゃないから、中卒という微妙な位置づけの女の子になってる。それでいいのでしょうか?否!いいわけがないです。狂っています。脳汁が耳からたれています!童貞という不治の病に冒されています!!」
「うぅ…のうじる…うぅ…」
デブは力なくその場に膝を落として崩れ、両手を地面についた。そしてプルプルと身体を震わせながら「わ、わかったぉ…で、でもキミカが行く学校は僕が決める!!」と言ったのだ。
「エーッ!」
「それだけは譲れないにゃん!。ふひひ…虫が寄り付かないところにするのだーッ」
「寄り付かないってば!!あたしは中身男なのですけど…寄り付こうものなら焼き殺してあげるよ!!地獄の業火で全てを焼きつくす…ダークフレイムマスター・キミカ」
と、まぁ、実際に焼き殺す事が出来るかは別として、俺も女のシリを追いかけまくってる男は嫌いだからな。そういう意味では同意。
俺もこれでようやく高校に通えるな。やっぱり学生は学生らしくしないと、なんだか不良みたいなシケた気分になってしまう。
さっそく高校への入学手続きをしてくれるのだと思ったらそうじゃなかった。デブはよっこらっしょと声をあげると椅子に深々と腰掛けて目の前にあるネット端末の電源を入れ、何やら色々と検索を始めやがった。
そっとうしろについて覗いてみると「聖なんとか学院」だとか「聖なんとか学園」だとかのとにかく頭に聖ってついてる変な学校ばかりでてくる。ほら、なんとか南高校とか、なんとか東高校とかでいいんだよ、そんなお金持ちの人が行くような学校じゃなくってさ…。
「うひひッ…聖エクスペリオ学園…これなんかどうですかぉ」
「エクスペリオ…なんか響きが嫌だなぁ」
「んじゃこっちの聖アイファーン学院」
「その聖なんとかってなんとかならないの。聖ってつかないやつがいい」
「た、たとえば…」
「なんとか工業高校とか」
「ダメ!ダーーーーッンメ!!!」
「なんでだよ」
「工業高校の共学なんてうさぎ小屋のオスとメスのうさぎみたいな状態になるぉぉ!!!挨拶代わりにセックスするような場所ですぉぉ!」
「君、工業高校の人に殺されるよ」