5 キミカお葬式会場(リメイク) 4

献花の時間となった。
俺達は3つの花を渡された。
棺桶の蓋が開けられていた。
両親の棺桶の蓋は足の部分しか開けられていない。遠目でそこを見てみると白い装束を着させられてる両親の真っ白な足が見えた。死体に化粧をする職業があるみたいだけど、さぞ大変だっただろうに、焼死死体だからな。
親戚や友達が俺達家族の死を悼んで泣いてくれている。
こんなに沢山の人達に愛されていたんだと思うと涙が出てくる。
俺はここにいるよと叫んでしまいたい。
けれど、そんな事をしてもバカな人扱いされるだけだった。
俺はそんなみんなが葬式で俺の死を悼んでくれている状況を見ている幽霊みたいな状態を現実に体験している事になっていた。そんな雰囲気に押されてなのか、ケイスケまでも涙を流して俺の棺桶に献花している。
「うぅッ…敵はとってやるからにぃ!」
と顔を赤くしながら言うケイスケ(デブ)。…なんかムカつくな。
俺が献花する順番になった。
なんだか不思議な感覚だ。
ここに俺はまだ生きているのに、目の前には俺の死体がある。しかも俺は幽霊とかそういう設定ではなく、確かに現実に存在していて、ただ美少女になっているだけである…。
もしかしたら誰か代わりに死んでしまって実は棺桶の中は別人…とか、そんな風に考えてしまえるぐらいに違和感のある状況だ。でも、親はそうじゃないんだよな。
さよなら、父さん。
さよなら、母さん。
姿形は変わっても、俺は生きるよ。
…。
献花が終わると棺桶は遺族、つまり俺の親戚の手によって運ばれていった。部外者である俺達は火葬場までいくことは出来ないんだろう。
俺のクラスメート達の元へと視線を向ける。
みんな泣いていた。
女子なんて泣き崩れてくれていた。
よく見たらそれはテレビでも見た光景だった。
俺はここに生きてるんだけど…っていう違和感が常にそこにあった。やっぱり俺は幽霊みたいな存在になってしまったんだろうか。
そこで初めて、俺が見た覚えがある女子を正面から確認することが出来た。
やっぱりそうだった。顔は見たことある。
俺の幼なじみだ。
彼女は名前を「早見裕香(はやみゆうか)」と言う。
中学校までは同じ学校だったけども高校になってから別々になった。それと『幼なじみ』っていうと下の名前で呼び合う仲だとかお嫁さんになるとか甘酸っぱい思い出があるもんだと誤解をされてしまうかもしれない。そういう人もいるだろう。
だが俺は…俺と早見は違った。
早見は彼氏もその頃には居たと思う。
何人も居たと思うよ…。
俺は早見を心の中では『ビッチ』と呼んでいたね。
今では肉食系女子っていう言葉があるのかな?いや、ビッチでいいや。だってさビッチは英語よくわかんないらしくてビッチって呼ばれても何のことだかわかんないらしいじゃないか。
そりゃ米国の女性蔑視のキーワードを日本人が知ってるのはおかしいからなぁ。ビキニにBITCHって描かれてある奴もあるらしいし。
俺がビッチ…いや早見のほうを見てると目が合ってしまった。女のカンっていう奴なのか、自分のほうを見てる奴と目が合うのだろうかな。
「し、知り合いですかぉ?」
とケイスケが俺に聞く。
「まぁ、幼なじみかな…」
「お…お…お…」
「お?」
「幼なじみ!!り、リア充がぁぁぁ!リア充は爆発するべきだと思いますにぃ!!キミカちゃんがそんな人だなんて思わなかったにゃん!」
「どんな人だと思ってたんだよ」
「うぅ…休日は家に居るかアニメイトに行くかとらのあなにいくかゲマズにいくかしかなくて、趣味はエロゲームとアニメ鑑賞、友達は居なくて両親とも話はせずに夕食は部屋の前に置いておいて、食べ終わったら部屋の前に皿を置いて、トイレはおしっこのほうはペットボトルに排泄してウンコのほうは食べ終わった皿の中に入れるような人だと思ってたのに」
「なんだよその廃人は。っていうかウンコ皿に入れちゃってるじゃん、もう人ですらないじゃんそれ…っていうか生活は家のアニメショップの往復じゃん。そんな人はこの日本には居ない。居ない事になってる。世界に恥を晒しちゃダメだから存在を隠蔽されてる。だからそんな架空の人間は居ないよ」
「そ、そこまで言わなくてもいいじゃないですかぉ!!もし架空の人間がいたらショックを受けますにぃ…っていうか実際ボクチンが今、ショックを受けていますにゃん!」
「」
「え、ちょっ、その凄いインパクトのある驚きの顔しないで欲しいにゃん!」
「え、皿に大便したの?」
「そこは話を盛ってるだけですぉ!空気読んでほしいにゃん!」
「ウンコだけに盛ったっていうアレ」
「美少女がウンコとか言っちゃダメなのー!!」
「ん?今誰かしゃべった?アーアー、聞こえないー」
なんてやり取りを俺とデブがやってると、何故かさっき目が合って一度は逸らしたはずのビッ…いや、ユウカが俺のほうに向かって歩いてくる。
なんだぁ?
デブもユウカが歩いてくるのを気付いた。…っていうか自分に向かって歩いてきてるもんだと勘違いしたらしく、「ぼ、ぼ、ぼぼぼぼぼぼ、ボボボーボ・ボーボボボクは、えっと、あの、い、石見です。はじめまして」とか言っちゃってる。
痛いな、痛い。
その勘違いは痛い。
ユウカは俺と面と向かって言う。
「はじめまして。私、早見と言います」
「ああ、どうも、はじめまして」えっと…俺、名前なんていうんだっけ?
「公佳とは幼なじみなの」
「あぁ、はい」
「あんまり驚かないんですね」
そりゃ驚かないよ。
俺がその公佳だからさ。
「公佳とはどういう関係ですか?お友達?」
とか聞いてきやがる。
なんだかちょっと違和感を覚えた。
女が女と話す時の独特の違和感。男と話す時とは違う、言葉の一つ一つに刺があるっていう、そんな感じだ。このビッチ「お友達?」って聞いておきながらも「まぁ、あなたはどうせお友達でしょうけど?」っていう感じの意味深な笑みを浮かべたんだよ。
皮肉って言いやがったんだよ。
なんかムカついた。
「お友達じゃないけど」
「え?じゃあお知り合い?」
また皮肉っぽく言う。
んじゃ、そっちがそう来るなら俺も買い言葉に売り言葉だ。
「彼氏です!ボーイフレンドです!フィアンセです!セックスフレンドです!あなたが幼なじみ?こんな幼なじみが居たらさぞ彼の過去の記憶がいつまでも暗い影引きずっていたでしょうね。こんな、ビッ…あら失礼、ついつい本音が」
「ビッ…なによ?ビッチって言いたいの?」
こいつ、ビッチっていう意味知ってたのか。
「中学の時、クラスの男子と取っかえ引っかえセックスしてたんですって?まぁお盛んなこと」
と俺が煽る。デブが顔を真赤にして舐めるようにユウカの足の爪先から髪の上までを見てる。「ふひひッ」というイヤラシイ笑みも浮かべてるゥ!!
「なッ…」
「知ってるんだから。全部。知らないとでも思ったの?公佳に色々聞いてるんだから(俺が本人だけど)ほんと、不潔なおn」
ってところで早見のビンタが俺に飛んできた。
いや、飛んでくるところを俺は手で軽く防いだ。
甘いよ甘いよビッチちゃん。凄まじい身体と特殊な能力を兼ね揃えたスーパーヒーローなんだよ。銃弾すらも手で弾き飛ばせるんだぜェェ?ワイルドだろゥ?
人間の手なんて静止してるのとおn
ってところで反対方向からビンタが飛んできた。
いや、飛んでくるところを俺は手で軽く防いだ。甘いよ甘いよビッチちゃん。俺は銃弾すらも手で弾き飛ばせるんだぜ?人間の手なんて静止してるのとおなj
ってところで右足の蹴りが飛んできた。
いや、飛んでくるところを俺は太ももでブロックした。しつこい女だな。
「あ、あんた…強いわね」
卑怯にも攻撃するなんて合図無しにいきなり攻撃を仕掛けてきた最後の台詞はそれだ。
「警察呼ぶよ?」
俺の警察っていうキーワードで、ようやくユウカは攻撃をやめた。
ビッチめ。
顔を真赤にしながら帰っていく。でもなんでだ?
ユウカは俺に嫉妬してるのか?
俺が他の女とどう付き合おうと早見には関係ないはずなんだが…。
「い、今の女の子はなんですかぉ…おっかねぇ…」
「典型的な『女の子』だよ。ケイスケはアニメとかゲームの世界の『女の子』しか見たことがないから変に理想を持っちゃってるみたいだけど、アレがリアルな世界の女の子。感情的になってすぐにキレて言葉よりも手が先に飛んでくる。この世界の半分はああいう土人が牛耳ってるんだよ。ケイスケも気をつけたほうがいいよ」
「き、キミカちゃんが怖いですにぃ…女の子どうし仲良くして欲しいにゃぁ…ん」
「あんなのと仲良くなんて出来ないよ!」
(むにゅ)
おいいいいい!!!
何いきなりオッパイ揉んでんだよこのデブ!
「そうそう、キミカちゃんはマジにキレてる顔よりも、そんな感じで恥ずかしそうにキレてる顔のほうが可愛いですにゃん」
「ころs」
「おーっと、キミカちゃん、今さっきの自分自身の言葉がブーメランブーメランで飛んで戻ってくる事を覚悟しての発言なのですかぉぉ?ちゃーんと考えてから怒ったほうがいいですにぃ…感情的になってキレて言葉よりも手が先に飛んでくるっていう女の子になっちゃダメだと思いますにいぃぃぃ…(白目」
「ヌゥゥ…」