5 キミカお葬式会場(リメイク) 2

さっきからケイスケは何やらノートタイプのネット端末をカチャカチャと弄ってた。画面にはどっかの葬儀場のサイトが表示されている。
「調べてみたらキミカちゃんとキミカちゃんママー、パパーの家族の葬式は今日みたいですにぃ。司法解剖が終わってからの実施だから遅れてるっぽいですぉ。よかったですにゃん」
う〜ん、葬式によかったも悪かったもアレな気がするけれど、でもテレビで放送してた時は既に俺の葬式終わっちゃってるんじゃないかって不安になってたよ。よかったよかった。後は家族葬かどうかか。
家族葬でもないみたいですにゃん。なんか、学校関係者も来るからですかにぃ?そういえばボクチンもクラスメートが自殺した時は家族葬じゃなかった気がしますにゃん。マスコミ関係者が来て大変だったですぉ…」
って、君、今さらっと嫌な思い出語ったね。
「…で、本当に行く気ですかにぃ?」
「いくよ」
「ほんとに?」
「ン…だよォ…」
「取り乱して泣いたりして大騒ぎして目つけられたら厄介ですにぃ…」
ったく、人をなんだと思ってんだよ。
でも、俺の事を心配してくれてんのかな。
俺が親の死を受け入れられないかと思って…でも、もうそれは俺の中では過去になってんだよ。もう、十分に、過去に。
それで忘れ去ったわけじゃないし、泣いたことだってまだ記憶に残ってる。
一瞬の強い思いで今のこの身体になったんだけど、それは一瞬だけの思いじゃなかった。だから俺は戦えた。
あの時、あの病院で死にかけた時、ケイスケに答えた強い生きたいって思いと同時に、多分、俺は受け入れたんだと思う。
親の死も、自分の死も。
「んじゃ、葬儀用のお洋服を着ますかにぃ」
ケイスケがそう言って用意してきたのは黒のドレス、ガータータイプの黒タイツ…って、あれ?おかしくね?これ、葬儀に着るもんなの?パーティ用ドレスじゃねぇ?なんでスカートとかこんなに短いの?
と、驚きを隠せない俺の前で、ニンマリと待っているケイスケ。何を待ってるのかと思ったら俺が着替えるのを待っているのか…。
「って、ジロジロ見ないでよ!」
「み、見てませんにゃん!」
急いで目を逸らすケイスケ。
とりあえずそのドレスを着てみる…。
いや、これ、やっぱおかしいでしょ…いやいや、ありえないって、何これ、普通にドレスじゃんか。アメリカの映画とかで出てくるドレスのイメージはどう考えてもスカートこんなに短くないし、もっと肌の露出がされてないような。
「うっひょーー!!可愛いですにぃ!」
「いやいやいや、おかしくね?何か、おかしくね?」
「ぜぇんぜんおかしくないぉ!」
疑問が消えない俺をクルリと後ろに向かせて俺一人では留める事が出来ない背中側のファスナーを留めるケイスケ。
「だってこれドレス…」
「黒ならなんでもいいんですぉ!」
「そうなの?」
「キミカちゃんはおばあちゃんとかおじいちゃんの葬式に小学生とか幼稚園生の時に参加した事はないんですかぉ?」
「ひぃおばぁちゃんとかの葬式になら行った記憶が」
「じゃあその時、スーツを着たってことですかにぃ?」
「いやいやいや、普通に幼稚園の制服だったよ」
「んじゃ、このドレスもOKですにゃん」
「えぇ?そうなの?」
「それっぽい雰囲気が出てたらいいんですぉぉ!!キミカちゃんの論理なら幼稚園生の時に参加した葬式に幼稚園の制服を着ていくのはルール違反って事になるぉ!葬式に適したスーツのようなものを買うべきですにぃ!」
ぬぅぅ…論破されてしまった。
ケイスケは吠えてから二階に上がった。
鏡の前で俺は俺自身のドレスを見てみたが、どう考えてもこれはパーティ用ドレスの気がしてならない。服の部分と袖の部分がセパレートになってて見事に白くすべすべした綺麗な肩が露出してる。
もう男を誘ってるとしか思えない。
しばらくしてからケイスケ、二階から降りる。
ん?
なんか違和感があるんだけど…。
「ケイスケ、それ、パーティ用のスーツじゃない?」
「え?」
黒のスーツに黒の蝶ネクタイ…って、蝶ネクタイってなんだよ、蝶ネクタイって。火災で死傷者出したホテルの社長かよ!!
葬式ナメてんのか、このデブは!
「ネクタイこれしか持ってないにゃん…」
「そ、それなら仕方ないね…でも、なんだかそれ、芸人が芸人の葬式に参加した時に少しでも笑いを取ろうとして場違いな格好してる感じがあるよ」
「笑いをとりたいわけじゃないですぉ!!これで学会で発表したこともあるんだから別に悪い格好じゃないですにゃん!っていうか、ノーネクタイのほうがなんかクールビズ的でダメですにぃ!」
「せめて白のはないの?葬式って白のネクタイじゃないとダメじゃないっけ?ほら、ヤクザ映画とかでも組長が刺されて死んだ後に黒スーツに白ネクタイで子分が勢揃いしてたシーンとかあったし」
「キミカちゃん、それはヤクザの正装ですにゃん」
「そうなんだ」
妙に納得してしまった。
「あと、忘れ物はないですかぉ?」
「えっと…、後は、蚊が入ってこないようにする、あの黒いシースルーの網みたいなのを頭から被らないといけないよ。ほら、養蜂業者とかもつけてるあれ」
「…それは虫よけ網じゃないですにぃ…って、キミカちゃんはさっきから『見た目』ばっかり気にしてますぉ!!そんな気持ちで葬式に挑むなんて死者が浮かばれないですぉ…(泣き真似)」
「わ、悪かったよ、じゃあなんでもいいよ、もう」
「それでこそキミカちゃんですにゃん!」
ケイスケ(デブ)に見た目を気にするなって言われるとなんか説得力を感じて俺はその意見に了承してしまった。
確かに弔いの気持ちを持ってすれば別に全裸にネクタイで葬式に参加したって、それを誰かに文句言われたり、警察に通報されたりしても、弔いには変わりないんだよな、なんだか大切な事を思い出させてくれたよ。
それからケイスケが運転する、例の『ちっこい軽自動車』で家を出発した。